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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
1年生
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1年生 その19 日課

19 日課


 イシュア国の歴史と切り離せない4本足の魔獣は、災害だけをもたらしている訳ではなかい。赤黒い犬型の獣の額には、大きな赤い石がある。魔石と呼ばれる石は、額から剥がす事によって活動を停止させる事ができる弱点でもある。そして、それは人間に大いなる恵みを与えている。

 この世界には、魔力が存在していて、その魔力の集合体結晶体として魔石が存在している。この魔石に蓄えた魔力を利用して、様々な道具として人間は活用している。光、燃焼、水、土地改良、建築材強化など、魔石に溜まった魔力を変換して得られるエネルギーの種類だけ、用途がある。

そのため、魔獣の住処である「巣」と呼ばれる地下構造物は、25年に一度発生する大量出現を抑え込むことができれば、魔石を産出する鉱山になる。定期的に湧き出してくる魔獣を狩り続ける事で、延々と財貨を生み出す宝箱が魔獣の巣である。

ただ、公爵邸の指揮に内に存在している3つの巣だけは、他の巣とは異なっていて、巨大な鉱山であると同時に、危険度も強大なものである。その危険と向き合い続けるからこそ、オズボーン公爵家は、英雄の一族であり続けていて、他の貴族とは一線を画している。


 公爵邸は午前5時の鐘と共に動き出した。大きなベッドから飛び起きた少女は、側のチェストに乗っている赤黒い訓練着を装着すると邸内を駆け抜けた。コ型に構造物が配置された公爵邸の中央にある広大な野外訓練場へ向かうと、訓練は準備運動から始まって、それが終わると公爵一家は地下の訓練場へ向かった。

7月に公爵を父親と呼ぶと決めた後、セーラは自分も公女として正式な訓練をしたいと嘆願した。5人の家族は時機尚早であると一度は反対したが、家族になりたいという新しい娘、妹、姉の訴えを拒絶する事ができずに、それを認めた。魔獣の巣を模した地下訓練場で7時までの訓練が行われ、それが終わるとセーラは汗を流してから厨房へと向かった。

朝御飯の準備を手伝いながら、学園でのお弁当の準備も並行して行った。毎日ではないが、エリックは頻繁に、アランは時々手伝ったが、レイティアが手伝う事は無くなっていた。

「慣れればできます。お姉様と一緒にお料理がしたいです。」

 8月第2週の日から、セーラがレイティアを厨房に誘う事は無くなった。何度か手伝った姉は数々の失敗を繰り返していた。それでも、妹は姉と一緒の時間を増やしたいと、声をかけていたが、それを全くしなくなった。この世界には個人の努力では乗り越えられない才能の壁が存在していて、その高さは一流を超えるためにだけ存在しているのではなく、苦手を克服する時にもその高さを発揮する事があった。

 姉の姿に、学園一の才女であっても、苦手なものはあるという安心感を得ることはあるが、姉と自分の間にある差はあまりにも大きく、自分の得意分野で力を発揮して、公爵家の娘としての評価を高めようとすると、時間に追われるような生活をしなければならなかった。ただ、自分の得意の事ができる時間でもあるので、忙しいけれども楽しい時間を過ごす事ができた。

 大食堂で家族と使用人たちと一緒に賑やかな食事を素早く終わらせると、片づけを手伝う時間はなく、すぐに自室で制服に着替えて、姉と一緒に馬車に乗り込んで学園へと向かった。


 学園の鐘が9時を告げると1時限目、10時半を告げると2時限目。

必修科目の学習でセーラが手を抜くことはなかった。いつもの最前列の席で、教師の話を聞き、大切な所をノートに書きながら、指示された教科書を開いて真剣に考えた。このままでは2年生進級時に上級クラスから中級クラスに降格させられるという危機感があった。しかも、周囲の同級生も優秀かつ真面目に学習をしている現実は、セーラに余裕を与える事は無かった。

厳しい現実の解決策として、セーラは公爵邸では姉や弟たちの協力を得ていたが、学園内でも身近な人間から支援を受ける事になった。特に、ダンス補習ペアのペンタスの成績は5位であり、学園で表彰を受けていて、全教科で頼りになった。リリアは12位、キャロットは23位、第一王子は7位で、カーニーは11位、セーラの所属するグループは優秀な集団であると認識されていた。

昼食時のセーラが、休憩室でお弁当を食べるのは毎回の事だが、メンバーは曜日によって変化した。初めの頃は姉が必ず一緒だったが、婚約者と2人の昼食タイムが欲しいという事で、週5日のうち3回はセーラとは離れて、食堂の方で食べるようになった。リリアとキャロットは特別な用事がない限り、一緒に食事をする事に変わりはなかったが、週に一度参加メンバーが増える日ができた。学習面で助けてくれているペンタスにお礼をするという話からお弁当を振る舞ったのが始まりで、第一王子とカーニーにも勉強を教えてもらった事があり、3人にお弁当を振る舞う日が作られた。

「男子と一緒にお弁当を食べているなんて、聞いていませんでしたよ。セーラ。」

「いつもお勉強を教えてくれているので、お礼代わりに昼食を振る舞っているんです。」

「今日のお弁当は量がとても多めだったから、私とロイドを誘ってくれると思ったから、休憩室に来たのだけれど。」

 ロイドを従えた姉が、6人席のテーブルで、男女3人が向かい合っている光景を見渡しながら、大切な妹の前に並んでいる男子を値踏みするかのように、鋭さを秘めた視線を向けていた。

「レイティア、セーラが同級生と仲良く食事をしているんだから。今日は食堂で一緒に食べよう。」

「もちろん、そうしますけれども。3人の騎士様には、淑女に対してのご配慮を賜りたいと思います。よろしくお願いしますね。」

分かるように釘を刺してきたのは、問題を起こした事があるカーニーがいたからだとうのは誰もが分かったが、6人組の食事会が、学園におけるセーラの保護者に認められたのは確かだった。


昼食の時間が終わると、学園の午後は授業が一切なく、自由な活動の時間になった。生徒たちは自分達で共通の趣味に時間を費やす事もあれば、教員達の個人教室と言う名の研究室で学びながら研究を手伝う事もあった。解放されている図書室で授業の復習をする者もいれば、闘技場へ行って派遣されている騎士達の指導を受ける者もいた。

レイティアの午後は、闘技場の隅で弓術の指導をするか、行政分野の教員の研究室にロイドと共に訪れるかのどちらかであった。何か1つに集中する決まりがある訳ではなく、日替わりで複数の活動する生徒も少なくなかった。

セーラは月の日には、ペンタスに頼まれて農作物改良を行っている研究室の手伝いをしていた。高度な研究の手助けする訳ではなく、農業従事者としての労働力を提供するために手伝っていた。その代わりに、火と水の日の午後に図書館か休憩室で勉強を教えてもらっていた。

「コンラッド殿下、考え直してはもらえないでしょうか。」

 制服から庶民の着ているような作業着に着替えた第一王子にカーニーが説得を試みた。

「王宮からの、陛下からの許可はもらってある。」

 集合場所に作業着の女子3人も現れた。食堂で働いていた公女は、自分自身の装いにも男子の装いにも違和感を覚えなかったが、代々続いた子爵家のカーニーとリリアは抵抗感があった。特に、第一王子に研究ならともかく、農業労働者と同じことをさせて良いのかと疑問に対して、葛藤するまでもなく、否の回答しか導き出す事ができなかった。

「コンラッド様の参加は・・・。セーラも、キャロットも止めて。」

「王子様が民衆と同じ生活を楽しんだり、学ぶ事で立派な王様になる話もあるから。」

「キャロット、それは物語の中だけの話であって、実際にはないから。」

 リリアは貴族絶対主義ではないから、庶民や労働者を見下す事はないが、王家の権威を守る事は貴族の役目の1つであると考えていた。

「でも、地位が高い貴族であっても、庶民の生活を実体験する事は何かに役立つ事もあると思う。セーラみたいに。」

「私もそう思うわ。今まで経験して学んできた知識が、公女の立場になってからも役立つ場面はあった。」

「カーニーもリリアも気にするなよ。本人がいいって言っているんだから。農作業だって、学園での学問の一種なのだと思って。さ。」

「あなたは作業員が欲しいだけでしょ。」

「まあ、そうなんだけどさ。騎士に向けの体力づくりと考えればいいんじゃないかな。剣の振り下ろしの動きと同じだろ。」

「そ、そういうものなの。」

「全然違います。農具で剣の訓練はできません。」

リリアとカーニーの説得は、第1王子本人がやってみたいという要望を押し通すか形で、失敗に終わった。


 午後1時から4時までの自由活動時間が終わると、学園は生徒たちの帰宅を促して、戸締りを始めた。ほとんどの生徒が、学園に近い貴族区画か学生寮へ徒歩で帰るので、王都で買い物を楽しむ事もあった。こう言った放課後の遊興とセーラは無縁だった。公爵邸は王都内の学園とは反対の位置にあったため、馬車で時間をかけて帰らなければならなかった。

 帰宅してから夕食までの時間は、何かをするとは決まっていないが、レイティア以外の家族との時間になる事が多かった。父親と過ごす時間も稀にあるが、親子ともに何を話していいのかが思い浮かばないため、今日のできごとを報告し終わった後は、公爵家の歴史に関しての授業のような対話となった。

 母親は頻繁に一緒に過ごす時間を要求してくるが、何をしたいのかについては要求してこないので、セーラがリードして色々な事を提案して、主にセーラが実行していた。一緒に料理をしようと厨房に行くと、作っているセーラを見守っているだけであった。お洒落の研究をしようと言ってする事は、エリスの部屋でセーラが母親の髪を梳かしたり、鏡台の前でセーラが化粧を施してあげたり、着せ替え人形のようにエリスの着替えを手伝ったりした。

 2人の弟は必ず姉の要望を聞いてくれた。勉強で分からない所があると言うと、一緒に勉強してくれた。セーラの得意分野と言える料理と裁縫については、アランが裁縫、エリックが料理を分担するかのように、それぞれと一緒にする事が多かった。セーラは、2人の弟に教える事ができる裁縫と料理が一番楽しかった。ほんの少しだけでも公爵邸で優越感を得る事ができたのは、2人がそれを狙って、セーラの得意分野に踏み込んでくれたからだったが、セーラが圧倒的な指導員でいられるのは、ほんの少しの間だけだった。習得が早い2人はセーラを負けないだけの技能をすぐに身に付けていった。料理の方だけは、知識の差は技能ではどうにもならないので、エリックが姉の顔を立てる事はできた。ただ、裁縫の方はあまりにも繊細で美しい花束の刺繍を施したハンカチをアランから贈られた時には、裁縫分野で初めて敗北感を得たセーラは、公爵家に来て初めて苦笑いをした


 午後6時半から1時間半の晩餐と家族の会話の時間があり、午後8時には自室に戻って就寝の準備をした。シャワーを浴びてから、明日の持ち物の確認をすると、午後9時の消灯時間までは、本を読む事が多かった。

部屋のあかりを落とした。

「お休みなさい。ミーナ母さん。」

 公爵邸には戻る事の無かった母の名前を呼ぶ事が、セーラの1日の締め括りだった。


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