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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
1年生
14/198

1年生 その14 招待状

14 招待状 


 イシュア国においては、貴族だからと言って、方々に愛人を囲う事が容認されるという風潮は存在していなかったが、王家と公爵家だけは血筋を残すという意味から、そういった事も容認されていた。ただ、公爵家は特別な当主以外は、愛人を持ち、第2夫人を屋敷に住まわせるような事をした事は無かったが、その特別な当主が残した偉業のため、公爵家についても、愛人や第2夫人を持つ事は、普通の事として認識されるようになっていた。

 庶民達は、突然登場した公爵令嬢が、元は庶民として生活していた隠し子で、その令嬢のために公爵家が豪勢なお披露目会を開催したことを知った時、どちらかと言うと好意的に捉えられていた。より身近な存在だと感じられる事が、その要因であったが、元々、国そのものを直接守っている公爵家に対して嫌悪感を持つ国民は皆無だった。

 そんな朗らかな雰囲気のままの民衆とは違って、王都の貴族達には激震が走った。公女セーラが勢力図を大きく変える事ができる駒として認識したからだった。生母は第2夫人となり、一度廃籍された男爵位を復活して継承させた。

セーラを公爵夫妻が愛している証であるかの確証はなかったが、第2公女セーラの立場が強化された事は間違いなかった。庶民出と言う出自があるため、貴族達の婚姻政策において大きな駒にはならないと、多くの貴族達が予測していたが、それが一夜にして変わった。

公爵家が政治勢力争いに積極的に参加するかどうかは不明だが、国内最強の婚姻カードを手にしたのは間違いなく、そういった方面で活動を激しく行っているケネット侯爵派には、そのカードは脅威にしか見えなかった。

 公爵家における出自の問題のほとんどが消滅した今、セーラは王家の三王子の婚約者候補筆頭になった。特に学園で同じクラスの第一王子と親しくなれば、婚約する流れは一気に進展するだろう事は、全ての貴族たちが想像する事だった。

 本来、王家と公爵家は血の交わりを持たないようにというタブーがイシュア国には存在しているが、第2公女セーラには、様々な回避方法が存在していた。生母ミーナから第2夫人の地位を剥奪して、セーラを婚外子扱いに戻す事で、王子妃の道を開く方法があるこ事を考えないケネット侯爵派はいなかった。

 

 第二王子派とも呼ばれるケネット侯爵派閥に所属する有力貴族たちは、盟主であるケネット侯爵に対応策を練るように訴えたのは、お披露目会の翌日であり、翌週のつきの日には、その対応策が発動された。

 オズボーン公爵家に、ケネット侯爵家から夜会の招待状が届いた。急遽の開催であるため、ダンス会やお披露目会のようなものではなく、簡易的な立食パーティーで、単なる交流会であると招待状には記載があった。

 招待されたのは、公女姉妹の2人だけで、セーラに対して何らかの企みがある事は明白であった。第二王子の婚約者候補を見てみたいという好意的な目的がある可能性は否定できなかったが、第二王子をそのまま公爵家が取り込む危険がある以上、ケネット侯爵派閥の貴族がその線で動くことはないとの判断は妥当であった。

時期も外れている招待を断ると考えていた家令セバスチャンは、公爵が出席の旨の返信をすると聞くと、その決定に驚き、公爵家の緊急家族会議を収集するようにと進言した。緊急時には当主と同じ権限を奮う事が許されている老紳士の進言を無視する人間は公爵邸に存在しないため、すぐさま会議が開催された。

公爵夫妻と姉は、セーラを披露する機会だから受けるのは当然だという意見を述べた上、セーラが逃げたと陰口をたたかれるのは嫌だという理由も述べた。次期当主である弟アランは、ケネット侯爵派閥が陰湿な攻撃を仕掛けるつもりだから、このような招待は拒否するべきであると訴えたが、セーラは優秀だから何の問題も無いという公爵夫妻の主張を押し通した事で、セーラが出席する事が決まった。

アラン、エリック、セバスチャンの3人は不参加を説得していたが、避けて通れないのであれば参加するとセーラ自身が意思を示した事で、参加が決まった。三人は参加に賛同した代わりに、妥協案として、ケネット派閥の嫌がらせ対策の勉強会を開く事に加えて、エスコート役としてアランとエリックの二人も出席する事を傘下の条件にした。


宰相家のパーティーから七日後、対立する派閥の主ケネット侯爵家で時季外れの夜会が開催された。

「ようこそ、レイティア公女に、セーラ公女。」

 45歳の偉丈夫ホイラーは、大柄な体格と鍛え上げられた戦士の肉体を持っており、戦公爵と正面から向かい合っても、美しさと言う点では劣るものの、それ以外の部分で劣っているようには見えなかった。半世代上であり、年齢を重ねている分、人生の深みを感じさせるような包容力では、公爵よりも上だった。先代が権勢を握っていても嫌われていたのに対して、ホイラーは多くの貴族に好意を向けられていた。

「ケネット侯爵様、本日はお招きありがとうございます。」

「ケネット侯爵様、本日はお招きありがとうございます。」

 姉妹がぴったり声を合わせて、淑女の礼を示すと、筆頭侯爵は笑顔を示して、会話を楽しむようにと伝えた。

「皆も両公女に名乗り、挨拶がしたいだろうが、それでは会話もままならぬ。今日は無礼講として、名乗りの挨拶だけは伯爵以上の者だけにしてもらいたい。」

 すぐさまレイティアとセーラを分断するように、二公女を別々に取り囲んでの輪ができた。ホイラーは、セーラをいじめるような事を良しとする人間ではなかったが、その能力を見極める必要がある事は理解していた。

 公爵家が認めて、出自を整えたと言っても、庶民出という事実が変わる事はなかった。その庶民の血を引いたセーラが、何の能力も功績も無いのに王家に連なる事は認められなかった。庶民の血が混じる点については、拒絶感を持つ貴族は半々であるイシュア国ではあるが、血が尊くないのであれば、その能力は優れていなければ認められないとは、全貴族が考えている事だった。

今後の勢力争いにおいて、第2公女がどのような影響力を持つのかを正確に測る事が必要であり、今回にパーティーで彼女の能力を見定める事だけは、ホイラーも認めていた。対立軸に居る公女であっても、13歳の少女、貴族社会とは無縁だった少女が困っている様子を眺めて、それを笑い者にする事を是と考える事は筆頭侯爵にはできなかった。

「美しいドレスでございますね。さすが公女様ですね。」

「お褒めの言葉、ありがとうございます。伯爵夫人。」

「美しいドレスですが、緑色を選んだのはどのようなお考えでしょうか。公爵家の皆様は金髪に青い瞳、家紋の青き盾と金の獅子とお揃いです。公女も合わせた色合いのドレスがよろしかったのではありませんか。」

「このドレスの緑色が、公爵家に相応しくないとおっしゃるのですね。」

「そうは申しておりません。が。」

 出自に関して直接的な表現で攻撃する事は誰にもできないから、何かをあげつらって攻撃するのが貴族の常套手段で、セーラの場合、赤髪と赤い瞳がその対象になるのは必然だった。他の公爵家の人間は金髪で、瞳は青だった。公爵夫人の瞳が違っているとは言っても、青灰色であり、同じ系統の色であった。

「お父様には褒められたドレスだったのですけど。王家のご家紋にも盾があり、緑を基調としています。それに、赤い薔薇が添えられています。緑のドレスに、赤い瞳と赤い髪が、盾に添えられた薔薇のようで美しいと父母には褒められました。私も、王家の盾である公爵家の誇りを示す事ができる事を嬉しく思います。ですが、公爵家の在り方として、間違った解釈を、私はしているのでしょうか。」

「いえ。そんな事はございません。そこまで深いお考えであったことに思い至れず、恥ずかしい限りです。」

 セバスチャンの授業通りの展開にセーラは一安心した。だが、油断してはいけないとの忠告通りに、周囲の動きをしっかりと見定めた。食堂の給仕として鍛え上げてきた、周囲の人々の動きを的確につかむ能力は健在であった。第1陣の伯爵夫人が撤退して、次は2人の男性が仕掛けてきた。

20代の若い2人の男性は、騎士礼服をまとっているのではなく、紳士礼服である事から、男爵以上の爵位を持った家の貴族であることが分かった。

「公女は、才能豊富な方とお聞きしました。学園では途中入学にも拘わらず、上級クラスに籍を置くとか、才色兼備の御令嬢を持った公爵もお喜びでしょう。」

「才能と呼べるようなものがあるかは分かりません。学園で勉学に勤しむ身です。今後才能と呼べるような何かを身に着けたいと思います。」

「(大陸共通語)学ぶ身であることを理由に、周囲の評価から逃げる事は、卑怯ではありませんか?」

 左側の男性が大陸共通語で話しかけてきた。イシュア国では庶民のほとんどはイシュア語を話す。大陸共通語は、イシュア国と北の国と東の国の三国間で通用する言葉で、貴族の多くが身に着けた方が良いとされて、学園での授業科目となっていた。

公爵家の娘になってから3か月では簡単な対話をする事はできても、議論や難しい言い回しはできないのだろうと考えて、2人は大陸共通語で仕掛けてきた。

「■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△。」

 セーラの声が何を言っているのかが分からない者がほとんどだったようで、顔を見合わせながら、困惑していた。

「公女様、何を仰っておられるのか、よく聞きとれなかったのですが。」

「失礼しました。もう一度。■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△〇■△。」

「おからかいになるのはお止めください。私の大陸共通語は聞き取れませんでしたか?」

「いいえ、はっきりと聞き取れています。学ぶ身であることを理由に、周囲の評価から逃げる事は、卑怯ではありませんか?とのご忠告を頂いたので、その返事をさせていただきました。」

「大陸共通語をご理解しておられる事は分かりましたが。返事とは。」

「(大陸共通語)これは失礼をしました。言語は慣れれば子供でもできる事ですから、言語を使える事が才能や個人の能力として評価されるようなものだとは思っていませんでした。」

「(大陸共通語)いや、立派な能力だと思います。学園でも授業として取り組んでいますから。」

「(大陸共通語)その通りです。才能ではありませんが、立派な能力だと思います。私も読み書きはできますが、大陸共通語での学問には触れていませんので、これからも学園で勉学に励もうと思っています。」

「先程の。」

「その辺にしておきなさい。」

「学園長先生。」

ゲンガー・ダルトン伯爵が対話の輪に加わってきた。能力を見たいというのであれば、時間はかかっても学園生活の中で見定める事ができるのだから、無暗に試す事は避けるべきであるとの意見を派閥会議の中で出していた。そもそも、13歳の少女の能力をこれから伸ばすのが学園の仕事であり、現時点で彼女の能力を一方的に評価するのは正しいとは思えなかった。だから、楽しくはない夜会に珍しく参加していた。ただ、ケネット侯爵派の面々に助け舟を出す事になるとは思っていなかった。

「セーラ嬢が、フェレール語まで堪能であるとは知らなかった。」

「学園での授業科目にはないので、最近使う事は無かったので、南のなまりが混ざってしまっていて、皆さんが聞き取れなかったのではと思っていました。」

「いや。見事なフェレール語で、南のなまりがあるとはいえ、発音がきちんとできていた。どこで学んだのだ?」

「はい。皆さんご存じのように、つい最近まで庶民として食堂で働いていました。北の国境の町ファルトンで、多くの商人と話す機会もあり、生活している中で学びました。」

「なるほど。だが、綺麗で分かりやすい発音であるのは、生活の中で学んだだけではなかろう。余程優れた教師に教えてもらったのであろう。そうでなければ、聞き取りにくい発音のままだったはずだ。言語は慣れる事で誰でも身に着ける事は確かだが。きちんと発音して、使いこなす事は簡単ではない。」

母ミーナを褒められたようで嬉しかったセーラが笑顔を見せた。それが、自分達への侮辱であると勘違いした若き男性が、別の挑戦をしようとしたが、学園長に一蹴された。

「先程の、セーラ嬢のフェレール語は、他人を試す者は、自らも試される覚悟が必要である。そう書物で読んだことがあります。との事だ。機会があれば、私の所に学ぶに来るとよかろう。私もフェレール語は得意だからな。北なまりだが。」

 攻撃第2弾は、予測していなかった援軍の登場に撃退された。セーラの能力を図るという点では、学園長のお墨付きを得た事で成功していたが、公女セーラに釘を刺しておきたいと考えていた一部の貴族達にとっては作戦失敗であった。


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