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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
4年生
134/198

4年生 その130 4人組

130 4人組


太陽の日、王都民は休日の中心街を楽しんでいた。

「レイモンド、向こうの店に行こう。」

「ああ。ビアンカ。」

 名前を呼び捨てにするだけでも楽しくて仕方がない2人は、お互いの服装を褒めるという伝統的な手順を忘れていた。ただ、相手の瞳の色に合わせた装いをするという伝統は守っていた。

 薄い黄色のワンピースに濃い黄色の腰ベルト、銀髪を丁寧に編み込んでからの金細工の髪差しと、金髪金目に合わせた姫は、その服装だけでも目立っていた。紺のズボンに薄い青色のシャツ、その上の白いベストはビアンカの銀髪に合わせたものだった。ただ、シャツを白、ベストを青にした方が良かったのではないかと指摘する者はいなかった。

「手を繋いでもいい?」

「もちろん。」

 2人だけの世界に入り込んでいる恋人たちの後ろには、フェレール国第3王子フェリクスと公女セーラが並んでいた。

「はい。」

「ん、何?」

 差し出してきた右手の意味が理解できないフェリクスが質問をした。

「私達も手を繋いだ方がいいと思うわ。」

「ああ、そうだな。」

「いやなの?」

「セーラの方こそ、嫌ではないのか。」

「嫌ではないわよ。」

エリックの提案通りに、レイモンドとビアンカの王都民へのお披露目デートを行う事になったが、もう1つの新たな提案もなされていた。セーラとフェリクスも仲が良い所をアピールするというものだった。要するに恋人のふりをする事をエリックは提案した。

意味が理解できなかった2人は抗議の声を上げた。だが、ケネット侯爵派が、ビアンカとレイモンドの関係を利用して、貿易の独占を狙うかもしれないから、公爵家とフェレール王家が強いつながりを持っている事を示す必要があると説得された。可能性の話でしかなかったが、全くないと断言できる情報が無かったため、エリックの提案を受け入れて、万が一に備える事にした。

「銀の髪飾りはとても似合っている。ただ、そのベストみたいな茶色のは・・・。」

「緑のワンピースに案外合っていると思うのだけど。」

「いや、色合いはいいのだが。それは、皮鎧の胸の部分を加工したものではないのか?」

「良く気付いたわね。アイリスやビアンカは、皮ドレスの一種だと思ったみたい。」

「皮ドレスと言われれば、そういうものだと見えてくる。綺麗で似合っていると思う。」

「ありがとう。フェリクスも臙脂色のズボンに白いシャツ、臙脂のベスト、似合っているし。私の赤に合わせてきたのね。」

「エリックが用意していたものだ。最初から、こうする予定だったのだろう。」

「そうみたいね。迷惑だった?」

「我が国のためにもなるし、姉さんのためにもなるから、迷惑だなんて事は無い。それより、今日は前の2人と一緒に、楽しむという事で、お願いしたい。」

「分かったわ。せっかくの太陽の日だから。」

 手を繋いで歩き出したフェリクスは、自分よりもほんの少し背が高いお姉さんにさらに惹かれていた。それは間近でその容姿に魅了されたからではなかった。繋いだ掌の感触が、戦士のそれと同じだったからで、先週敗北した理由に納得できたからだった。

 自分の中に存在していた感情が、最初は恋愛ではなくて、敬愛だったと気付くと同時に、今この瞬間に恋愛感情も同じ大きさに膨らんでいる事にも気付いた。


 昼間になると、公爵邸の大食堂には、公爵夫妻も執事もメイドも食事をするために集まってきた。座席が決まっている訳ではないが、公爵一家は入り口に一番近いテーブルを使用していた。

「お父様、お母様、私が準備します。」

「お願いね、アイリス。」

 大食堂に入ってきた公爵夫妻を待っていたのは、次男と婚約者だった。

「エリック、食事は外で食べて来るのではなかったの?」

「殿下達の付き添いには、セーラ姉さんとフェリクス殿下にお願いしたんだ。」

「どう言う事なの?付き添いで行くのは、エリックとアイリスの予定だったでしょ。」

「エリック、説明を。」

 公爵夫人の微妙な表情の変化から、怒りを抑えている事を察知した公爵は、息子のために説明を促した。

「両殿下の仲を広めると、その関係を利用して、貿易の利益に擦り寄ってくるケネット侯爵派が出て来て、利益の独占を狙うかもしれない。だから、それを防ぐために、姉さんとフェリクス殿下にも仲の良い所を示してもらって、公爵家がフェレール国と強い繋がりを持っている事を見せつけようとする策を実行してもらったんだ。」

「それは、セーラに政略結婚をさせるという事よね。」

「そうなるかもしれない。」

「エリック!!」

 表情を変えないまま怒りを示した夫人にエリックは怯まなかった。父母の思いも、父母の願いも知っていたが、姉の幸せに勝るものはないと弟は考えていた。

「母様、僕はこれがセーラ姉さんの幸せになると考えています。」

「セーラに政略結婚をさせる事がですか!」

「重要なのは、姉さんが好意を寄せる男性と結婚する事であって、それが政略結婚の形を取ったとしても問題はないはずです。それに、母様、もう姉さんは政略結婚の形以外では結婚できないと思います。」

「そんな事はありません。」

「姉さんは、自分の結婚が公爵家の利益になるようにと考えています。姉さん自身が政略結婚を望んでいるんです。」

「勝手なことを。」

「エリス、エリックの言う通りだ。セーラは、公爵家の娘として、公爵家の事を第一に考えている。いくら、私達がセーラの気持ちが一番だと言っても・・・。」

「そうだとしても。」

「母様、姉さんが好きになる人を探すのを待っていると、結婚しないという選択をするかも。と僕は考えています。」

「・・・・・・。」

「セーラ姉さんは、強くなり過ぎました。僕たちにとってこれほど喜ばしい事はありませんが、姉さんの結婚にとっては、良い事ではないと思います。今の姉さんよりも魅力的な男性、姉さんを魅了するような男性はいない。強さが絶対的な魅力ではないとは僕も思います。ですが、姉さんは、強さも大きな魅力だと。」

 公爵邸に来てからのセーラの生活は、全てではないが、強くなることに特化したものだった。彼女の功績も、公爵家の娘としての誇りも、公女が手にした強さによって成立していた。その強さを小さいものとして、脇に置いて思考する事はできなくなっていた。セーラの結婚を望む家族たちでさえ、その結婚相手が強い男性である方が良いとは考えていた。公女セーラに相応しい男性を探そうとした時、絶対的な強さでなくても、相当の強さを持っている事を前提にしていた。

「それでは、セーラは、結婚相手を見つけられないって事。エリックはそう思っているの。」

「このままでは。」

「だから、フェリクス殿下との政略結婚を考えているの。」

「はい。ですが、結果として政略結婚であっても、恋愛結婚と同じように、お互いに慕いあって結婚できると思います。」

「政略結婚でも、結婚してから愛情を持つという話もあるわ。2人にそうなってもらうという事なの?」

「違います。2人には結婚前に、愛情を持つように・・・。母様、フェリクス殿下は姉さんの事が好きです。その思いを貫けば、姉さんも殿下を好きになると思います。」

「殿下から聞いたの?」

「聞いていません。ですが、殿下の思いは間違いありません。先週の剣技大会で、最初から諦めることなく、セーラ姉さんと戦ったのは、フェリクス殿下だけです。勝てないと分かっていながら、万が一の可能性にかけて、全力で挑んだのは1人だけです。相当の思いが無ければ、あそこまではしません。」

「エリックは、殿下がセーラに相応しい男性だと思っているのね。」

「はい。自分自身の欠点や失敗した事を隠さない事は、誠実な人である証明になります。誰もが諦める中で諦めなかった姿勢は、その思いの強さの証明に。学園での勉強も訓練も誰よりも熱心です。王族としての傲慢さのようなものはありません。剣技大会が終わってから、ザビッグに指導して欲しいと、頭を下げに来ました。僕は殿下を兄さんと呼ぶことに躊躇いはありません。それに、フェレール国の第3王子である地位は、イシュア国の公女に相応しい地位です。」

「フェリクス殿下が、申し分ない相手である事は否定しません。ですが、セーラの気持ちが。セーラはフェリクス殿下の事を。」

「お母様、料理をお持ちしました。」

 お盆に乗せた料理皿を4名分配っている少女は笑顔のままだった。

「お父様、お食事しながら、お話をするのではいけませんか?」

「いや。食事にしよう。」

「はい。」

 公爵夫人も、形が政略結婚であっても、セーラがその相手を慕っていると言うのであれば、大歓迎できた。だが、政略結婚が決まった瞬間から、本音を隠して愛している演技をするかもしれないと、そういった事がエリスは不安だった。公爵夫人は、人の心の駆け引きには強くなかったが、そういう事が存在していることはもちろん知っていた。人間の心には、表と裏があり、善意の装いで悪意をぶつけることができる人間がいるのも知っていた。

ミーナとその娘セーラは、自分の役割を自分自身の幸せよりも大切にする性質を持った女性だった。それを知っているからこそ、エリスは政略結婚だけは認められなかった。ミーナが、セーラにも同じような思いをさせたい訳がないと信じていた。

「お母様、私もエリック様のお考えに賛成です。」

「アイリス・・・。」

「フェリクス殿下なら、お姉様をずっと思い続けて、お姉様の気持ちを手にすると思います。」

「アイリス、政略結婚になれば、セーラは・・・。」

10歳の少女に公爵夫人は言葉を失っていった。優しさしか見せた事が無かった可愛らしい娘が見せる強い意思に戸惑った。

「お母様、私はエリック様に告白を受けた時、嬉しい気持ちにはなりましたが、今ほど好きと言う気持ちではありませんでした。ですが、今は大好きです。エリック様に思われるよりも、私の方が強く思っている自信があります。それは、エリック様がずっと私に事を思ってくれたからです。だから、セーラお姉様も、フェリクス殿下に思われ続ければ、立場や政治に関係なく、1人の女性としての思いを持つようになると思います。」

「母様、僕は、2人にきっかけを提供したいとは思うけど。誘導するつもりはないし、すぐに政略結婚という形にしたいとも思っていない。今すぐ、政略結婚と言うのであれば、僕も大反対する。フェリクス殿下が、どういう形になるかは分からないけど。姉さんの気持ちを掴むまでは、政略結婚で姉さんを縛りたいとは思わない。ただ、殿下を見ていて思ったんだ。レイモンド殿下の時もそうだったけど、一途に思っている男子を僕は応援したくなるみたいなんだ。」

「エリック様もそうだったからですか?」

「ああ、そうだと思う。僕はアイリスに思いを受け止めてもらえて、とても幸福だから。周りの友達にも、そうなってもらいたいと思うんだろう。」

 この昼食時に、公爵夫妻は2人を見守ることを決めた。積極的に何かをするつもりはなかったが、弟であるエリックが何かをする事は容認した。


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