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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
4年生
128/198

4年生 その124 捕縛された者

124 捕縛された者


 セーラによって戦闘力を奪われた2人は、装飾品店内に連行されると尋問を受けたが、沈黙を守り続けた。その事自体が、目的をもって追跡していた事を証明していたが、誰の指図で動いたのかは確定できなかった。

「セーラ様。いかがいたしますか?」

 縛られた2人を前にしているのは、セーラと2人の商業ギルドの役職持ちだった。エリックとアイリスは周囲の店を回っていた。アイリスが自分の身の危険について覚悟しているとは言っても、拷問するような場面を見せる訳にはいかなった。

「情報が入らないなら、殺しておいた方がいいわね。」

「え。セーラ様、よろしいのでしょうか?」

「表に出ると問題なら、密かに焼却すればいいと思うけど。そういうルートは。」

「そのようなルートはありません。郊外に連れて行って、そこで焼くという事はできますが。本当によろしいのですか?」

「問題はないわ。でも、ここで殺すのは、お店に迷惑ね。」

「迷惑という事はありませんが。その、公爵様に話をされなくて良いのでしょうか。」

「公爵家の人間だと知った上で、付け回したのだから、お父様には事後承諾で問題ないわ。」

「しかし、顔を見せれば、誰か分かるかもしれません。」

「そうね・・・。首だけ持っていけばいいわ。」

 赤いつり目の美女は冷酷な雰囲気を前面に出して、椅子に縛られて座られている2人を睨みつけていた。

 セーラは未だに相手の力量を見ただけで判断する事はできなかったが、相手の細かい動きを見る事はできるようになっていた。心情の全てを理解できる訳ではなかったが、自分の言葉に反応する小さな動きを見逃す事は無かった。

「その、セーラ様、こいつらの背後にいる人間に警告を発するだけなら、あえて放免するという手もあります。」

「もしかして、私の手を汚さないように気を使ってくれているの?」

「はい。そういう思いもあります。」

「気を使ってくれるのは嬉しいけど。モーズリー高原の戦場で、命の奪い合いは経験しているから、気にしなくてもいいわ。」

「そうはおっしゃいますが・・・。」

「他国の兵士なのだろうから。殺した方がいいと思うわ。」

「ドミニオン国のスパイなのですか!!」

「公爵家に恨みがある外国と言ったら、ドミニオンしかないわ。」

「確かに、ドミニオン国とは条約を結びましたが、彼らにとっては不本意なものでしょうから。こちらを探る可能性はあります。」

「・・・・・・。」

「いかがされましたか。」

「この2人は、フェレール国から来た人よ。」

「え。」

「今の表情の変化で分かったわ。」

「どうして、お分かりになるのですか。」

「ただ、私達の動向を探るというだけの任務に失敗して、命を賭けて、自分の所属について黙秘をするのだから、この2人が忠義に篤い人間である事は間違いないわ。そして、黙秘を続ける理由は、公爵家との関係悪化を恐れているから。ケネット侯爵派閥の強硬派やドミニオン国の積極派の人間だったら、公爵家との関係を考慮して、隠し続ける必要がないわ。どうにか生き残って、情報をもたらす方が有益と考えるはず。」

「フェレール国から来て、公爵家の様子を見ていただけで、何かをするつもりはなかったけど、見つかってしまって、どうしていいのか分からないから。黙るしかない、という事なのでしょうか。」

「それが正解みたいね。馬車を用意して、2人を、商業ギルドで捕えた盗賊という事で、フェレール国大使館に連れて行って、引き渡して欲しいのだけど。」

「大使館、という事は、フェリクス殿下、ビアンカ殿下に預けるというのですか。」

「それしかないわ。」

「もし、フェレール国の人間であれば、貴族か何らかの役職持ちの人間だと思われますから、盗賊でないという事が分かるのでは。」

「聞かれたら、正直に伝えてもらって構わないから。とりあえず、エリックとアイリスと私は公爵邸に戻ります。もう一台、馬車を手配して。」

「はい。了解しました。」

 沈黙のままの2人と別れる時、セーラが言った。

「ビアンカ殿下と、フェリクス殿下は、私の大切な友達なの。今日の事を隠す必要はないわ。それと、2人に迷惑がかかるような行動は、今後はしないように。周りの人間にも伝えておいて。」


 当日夕刻、公爵邸に豪奢な一台の馬車が到着すると、王子王女の礼服正装に身を包んだ双子殿下が降りてきた。薄い緑色の正装は爽やかさだけを放っていたが、両殿下の表情は極めて厳しいものだった。訪問の事前通告を受けていた公爵家は、セバスチャンとザビッグが待ち構えていて、2人を晩餐室へと案内した。

公爵の右手側に並んでいる夫人、公女、公子、婚約者は全員、正装と言える装いで身を包んでいた。紺地の夫妻に、淡いオレンジ色の公女、薄緑の公子、黄色の婚約者は、普段とは真剣さが異なるレベルで着飾っていた。

「フェリクス殿下、ビアンカ殿下、こちらの席へ。」

 公爵が立ち上がって左手側の席を勧めると、2人の正面となる4人も立ち上がった。

 儀礼に則った形で着席すると、フェリクスが話し始めた。

「先程の、王都での無礼を謝罪します。あの2人はフェレール本国から来た、情報部門の者で、情報収集の一環で、公女、公子、アイリス嬢を追跡していました。」

「殿下、質問してもよろしいでしょうか。」

 公子エリックが公爵家側の代表として応答する事になっていた。

「はい。どのような事でも。」

「両殿下が、公爵邸に来る機会もあるというのに。今更、何の情報を集めると言うのでしょうか。」

「情報部門の者ですが、当国の第2王子ユーグの手の者で、兄の依頼を受けて、情報収集に来ました。」

 公爵家の5人が顔を見合わせた。どこまで聞いて良いのか、また、どこまで知っておいた方が良いのかが分からなかった。一般的な話で言えば、兄弟同士が牽制するのは、後継者争いがあるからで、他国の公爵家としては、異国の後継者争いに近寄りたくなかった。

「聞かない方が良いと言うのであれば、何もなかったという事でも、当家は構いませんが。」

「いえ、なかった事にはできません。これから先に迷惑をかけるつもりはありませんが、貿易で交流がある以上、何らかの事件に巻き込む可能性があります。ですから、事情を説明します。」

 そう断ってから、フェリクスは自身のフェレール国での立ち位置についての話を始めた。

「私は、本国では、愚かな王子でした。周りにちやほやされて、傲慢になりました。女性に対してもそうです。父王と3人の王妃を見て、自分も複数の妻を持つのだろうなどとも考えていて、令嬢たちの心を傷つけるような事もしました。その結果、姉にも迷惑をかけました。私は本国では問題児でした。イシュア国への留学も、そう発言するものは誰もいませんでしたが、厄介払いでした。それに姉が付き合ってくれたのです。」

「では、フェリクス殿下が、イシュア国で実績を上げた事で、後継者争いに加わったという事ですか。」

「いいえ、それは違います。あれだけの愚かさを示した私に王位を継がせようと考える者は誰1人いません。私自身もそれを望みません。」

「それでは、どうして、今になって、殿下の周囲の情報を集めようとしたのですか。」

「捕まった2人によれば、私と姉がここで実績を上げた事で、後継者ではなく、次期王の支持者として役立つだろうと考える者が増えたとの事。」

「第2王子ユーグ殿が、フェリクス殿下の力を借りるにあたっての、事前調査をしたという事でしょうか。」

「その認識で間違いはないと思います。それに加えて、私が大きく変わった要因を調べたかったそうです。」

「その大きく変わった要因と言うのが、公爵家という事なのですね。それで調べてみようと考えたのですか。」

「はい。私も、姉も度々、本国には連絡と同時に個人的な手紙を送っています。その中には、公爵家で学んだ事などを書いています。それを読んだ兄が、愚かな弟を成長させた公爵家に興味を持ったのだと思います。王位争いの時に私に力を借りるにしても、その後に何らかの権力を与える時、愚かな弟に戻るのは困ると考えて。色々と調べたいと考えたのだろうと考えています。」

 どこの国でも後継者候補が複数人いれば、派閥が作られて、後継者争いが起こるのは歴史が証明していて、その事は王国の盾である公爵家でも良く理解していた。イシュア国でも、ケネット侯爵派閥の暴走を原因とした争いがあり、その争いに公爵家は巻き込まれていた。旗頭である第2王子ジェイクがフェレール国に留学する事によって、一時的に後継者争いが棚上げになっているだけで、本質的な争いは消えた訳ではなかった。

「本国には、イシュア国を巻き込まないように。特に公爵家を巻き込まないようにと、抗議します。今回の事、本当に申し訳ありませんでした。」

ビアンカ王女が深々と頭を下げた。1年半、仲良くしてもらった公爵家の人間の人柄は良く分かっていた。そして、公爵家の権力に対する特異と言える思いも良く理解していた。権力は貴族達を守るためにあるのではなく、民を守るためにあるという建前を、本気で信じていて、実際に命を捧げて民を守り続けていた。だからこそ、公爵家はイシュア国の絶対的な盾として、民の絶大な支持を受け続けていた。そこには貴族と民の関係を正当化する虚偽ではなく、絶対的な信頼関係があった。

誰よりも国と民に貢献して、最高の権威と権力を持ちながらも、公爵家の人間が下の人間を粗雑に扱う事はなかった。庶民生まれのセーラが、公爵家の人間に最初から受け入れられていた事が、その証だった。公爵家では、階級こそが建前で、真の実力を持つ者と真の貢献者を正しく評価して敬っていた。人間そのものの価値を評価するのが公爵家の伝統だった。娼婦や裏切り者と罵られる事があったミーナとその娘セーラが、公爵家では敬愛と信愛の対象にしかなりえなかったのは、公爵家の命脈を次世代に繋いだという実績があったからだった。

王女は頭を下げたまま、公爵の言葉を待った。王都内で公爵家に警戒させたことが大罪であると理解していた。公爵家と王都民の信頼関係を傷つける行為は、イシュア国への宣戦布告に等しいと考えていた。

「ビアンカ殿下、頭をお上げください。謝罪とお気持ちは受け止めました。実害はなかったのですから、捕らえた者の処罰も求めません。」

「ありがとうございます。」

「ビアンカ、そんな顔をしないで。フェリクスも。私達の関係は変わらないわ。」

 公式の場を2人から求められた時点で、2人が謝罪をするのは想定していたし、深刻な事態であると受け止めているだろうとは考えていたが、ここまでとはセーラも公爵家の面々も想像できなった。

「そう言ってもらえると・・・。感謝する。」

「ありがとう、セーラ。」

 そう応じた双子殿下が、謝罪だけでは済むものではないと考えているのが、その表情から分かった。セーラとしては2人を呼び捨てにして、友として今後も変わらないことを示しながら、公爵家側に怒りも不満も持っていない事を提示して、一件落着にする予定だったが、2人がそう思っていない以上、終わっていなかった。

「ビアンカ殿下、フェリクス殿下、謝罪をすると言うのであれば、償いがないといけないと思います。」

「エリック公子、何なりと言ってください。」

「情報が欲しいのです。」

「情報ですか?」

「情報を取りに来た者たちの無礼ですから。その報復としては情報の提供が一番良いと思います。」

「償いになるような情報はないと思います。」

「お二人に対しては、無礼になるかもしれない質問をするつもりですから。それを受容してもらうというのが、償いになると思います。」

「分かりました。何でも答えます。」

「私も答えます。」

 弟の笑顔を見て、止めようかと迷った公女は、償いができる事を喜んでいる2人の表情を見て、止める事を断念した。

「お二人に質問したいのは、フェレール国の方で、両殿下の政略結婚の話が出ているのかどうかです。先程のフェリクス殿下のお話では、イシュア国に来る時点では、そういう動きは無かったと思われます。ですが、両殿下を味方に取り込みたいと考える勢力としては、婚姻を利用して、強固な仲間になってもらいたいと考えるはずです。それに、我が国で実績を得た後ですから、フェレール国での印象も変わったと思います。この質問に答えてくれるのであれば、償いとして受け入れます。あ、なぜ、この情報を欲しいのかと言うのは聞かないでください。ただ、気になっただけです。」

 双子殿下が顔を見合わせてから答えた。

「そういう話は全くないです。貿易に関する実績があっても、それを上回る失態があったので。この先もないと思います。兄も政略結婚の道具として利用する事だけはしないと思います。味方の貴族に対する嫌がらせになってしまいますから。」

 恥ずべきことはすでに話してしまっているので、第3王子は淡々と答えた。

「今の所、私もそういう話はありません。父王からは書簡で、イシュア国で、婚約相手が見つかったのなら、婚約を結んでも構わないとは言われています。」

少し恥ずかしそうに答えた本当の理由をエリックだけは理解していたが、他の4人はエリックの失礼な質問に表情を変えただけだと考えていた。

「では、償いもしていただいたので、少し休憩を取ってから、晩餐会にするというので、よろしいですか。父様。」

「そうしよう。」

 双子殿下が公爵邸で晩餐会に参加したという事だけが公式な記録となった。


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