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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
3年生(2回目)
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3年生(2回目) その115 公爵邸の晩餐会

115 公爵邸の晩餐会 


 長男が帰還した日の夕刻、晩餐室には公爵家以外に4名のゲストがいた。

「メルヴィン卿、これまでの助力、感謝します。これからも、公爵領の発展のために、力を貸してください。」

「こちらは仕事を得て、給与をもらっておるのじゃ。ご苦労の一言で充分じゃ。こうやって、公爵邸の晩餐に招待してもらった、わしらの方こそ、感謝しておる。」

「では、メルヴィン卿との堅苦しいやりとりは、今後もなしにしましょう。ですが、キャロライン嬢は別です。息子を支えてくれた事、感謝します。これからも力を貸してもらいたい。」

「お言葉、ありがとうございます。微力ですが、祖父やここにいない弟と一緒に、アラン公子にお仕えいたします。」

 1年数か月間で、公爵領が大きく発展した要因は、公子アランが現地で指揮を執ったからだった。今までは、全ての事案が王都の公爵邸に送られて、その裁可を受けなければ動く事ができなかった。ただでさえ時差が発生する上、現地での細かい問題に対処するために、再び公爵邸の許可を取る事になると、その遅れは半年単位で発生するため、公爵領の発展を妨げる事になっていた。

 アランの現地指揮が効果的なものになったのは、元財務卿メルヴィンとその2人の孫であるテリーとキャロラインの尽力があったからだった。

「メルヴィン卿には助けてもらいました。元財務卿の名で指示を出せたので、現地の官僚は反発する事もなく、指示に従いました。中には、弟子入りしたいと申す者もいました。財務に関する指導者としても活躍してもらいました。」

 嬉しそうに話をするアランの声を聞きながら、隣の席の元財務卿は役所では見せた事のない笑顔を見せた。財務省で貴族達と利益の奪い合いという交渉を繰り返した仕事と、領地を発展するために働いている若者達を見守り、時折適切な支援をする仕事を比べると、充実感、楽しさ、素晴らしさ、そのどれもが桁違いの差を見せていた。

「ワシだけの力ではあるまい。」

「そうです。テリーは優れた財務官です。何でもできるので、単独行動してもらって、飛び地で活躍してもらいました。1年前に比べて、飛び地の騎士団領の生産が増えたのは、彼のお陰です。」

 アランの1歳年上の未成年であるテリーが、騎士団領で活躍できたのは、官僚としての能力と元財務卿の孫と言う名声の2つが、その軸となっていたが、一番重要な柱となっていたのは、圧倒的な人懐こさであった。

 戦士として鍛えられた大人達に囲まれる中で、怯えて何もできなくなるという事は無かったが、子供として少しおどおどとしていた。まるで、我儘を言うように要求を述べる態度は、子供そのものではあったが、それは庇護欲をかきたてられる事はあっても、嫌悪感を増幅させる事は無かった。

無理難題に思われた要求を突き付けられた騎士たちも、「仕方がない」との一言で、テリーの言う通りに動いた。そして、実際に要求通りに動いてみれば、次々と成果を出していくのだから、自然とテリーを中心に動く事ができるようになった。

「キャロライン嬢も活躍したと聞きましたが。」

「はい。母上。キャロには秘書官として働いてもらいました。公爵領全体を把握するだけでなく、様々な提案で公爵領を豊かにしてくれました。無駄のない物資の移動を指示してくれたおかげで、商人達が潤いました。その代わりに、商人達に孤児の面倒を見させるなどもしました。複数の街の特産物を組み合わせて、新しい特産物を誕生させたりもしました。」

「アラン様、新特産物を作ったのは、私ではありません。たまたま、物資の移動の中で発生した組み合わせに目を向けた細工師の功績です。」

「それは、そうだが。物資の移動そのものは、キャロの功績があればこそであって。」

「配下を褒める事は大切な事かも知れませんが、適切に褒める事が大切です。側で働く者だけを特別扱いするような事はしてはなりません。」

「ああ、気をつけるよ。」

 アランより3歳年上のキャロラインは成年女性ではあったが、未婚の令嬢だった。全ての貴族達からある意味恐れられていた財務卿メルヴィンの孫娘は、その立場故に見合いをする事もなかった。

「その組み合わせは、全く想定していなかったのですか?」

 薄緑の簡素なドレス姿の赤髪の第二公女の質問内容にキャロラインは驚いた。

「明確に、想定をしていた訳ではありませんでした。セーラ公女。」

「私に敬称は不要です。」

「そういう訳には参りません。」

「呼び方を強制するつもりはありませんが、いつでも呼び捨てにしてもらっても構わない事は覚えておいてください。それで、その組み合わせで何かができるかもと考えた事があるのでしたら、キャロラインさんの功績と言っても、問題はないと思います。もちろん、細工師の功績を認めた上で。」

「セーラ姉上のおっしゃる通り。キャロも、そろそろ功績に見合った贈り物を受け取ってもらいたい。」

「受領した贈り物であるドレスを今日は着させていただいております。」

 淡いオレンジのドレスは、スレンダーな体型を強調する引き締まったデザインだった。セーラよりも少しきつい印象のある吊り目だが、緑髪緑目の柔らかい色が鋭さを緩和していて、冷徹さを持った女性とまでは言われなかったが、きつい感じのする女性だとはよく言われていた。また、女性特有の丸みのある柔らかさを強調できる所がほとんどないため、整った顔立ちではあったが、美人であると言う評価を得る事は少なかった。親しい者が見れば、愛らしい女性だが、初対面の者から、そのように見られる事は無かった。

「・・・・・・。」

「お似合いです。」

「ありがとうございます。セーラ嬢。」

「この淡い色合いは初めて見ます。王都では見かけないオレンジですね。」

「そうなんだ。キャロの提案で染色液を混ぜて作り出した色なんだ。」

「アラン様。色を作り出したのは、染色師です。私は混ぜるための染料を各地から集めただけです。そもそも、騎士団ごとに旗の色を変えたいから、様々な染料を開発しようと提案したのはテリーです。」

「・・・・・・。」

 秘書官と公爵代理の関係が何となく分かったが、それを口にする者はいなかった。公子が公爵領で再び働きたいと言った意味を理解した者は、同時に、公子の思い通りに物事が進まないだろうとも予想した。

「近況報告は一通り済んだようだ。食事を運ばせよう。」

 公爵の言葉と共に食事が始まった。


 イシュア国が大きく発展した1年となったのは、表立ってのケネット侯爵派閥の活動が消失したからだった。

ケネット侯爵派閥は、第2王子に王位を継がせて、権力構造の中心に立つという目的を持っていた。そのために、宰相派や中立派の貴族達に対して、派閥に入るようにとの働きかけをしていた。2代前のような資金力を駆使して強引に取り込むような行動を、前ケネット侯爵は避けていたが、古参の貴族の何人かは、強引な手法で貴族達を取り込むという手法を未だに使っていた。

それは、徐々にケネット派閥を大きくしていったが、同時に宰相派と中立派の防御力を高める事になった。ただし、その防衛力を維持するためには資金力が必要で、多くの貴族達が自領の開発に大金を投資する余力を奪われていた。

前ケネット侯爵がエリック襲撃事件の責任を取って引退し、その座をより穏健な子息が継承した事と、新ケネット侯爵が王都に上がらずに領地の運営に専念する事を発表した時、貴族間で行われていた勢力争いという綱引きが終わった。

万が一に備えて蓄えていた金貨達が自在に使えるようになった貴族達は狂喜乱舞ではなかったが、自領が発展する夢を描いての活動を始めた。そんな中、前財務卿メルヴィンが残しておいた財務改革の中身を、ギルバード公爵と臨時で公爵代理となったエリックが断行した。それは、投資を行うための仕組みを整備したことになった。

そして、宰相府の長であるセドリック宰相は、その能力を権力構造の維持ではなく、得意の行政分野に注入する事ができた。資金不足か、ケネット侯爵派閥の牽制で止められていた開発が次々と動き出して、成果を上げた。

今日の公爵邸の晩餐会は、この1年間のイシュア国の発展の土台を作り、実際に発展に導いた者達の集まりであった。そして、未来切り開こうとしている者達の集まりでもあった。

「色を増やしたいのであれば、木の実だけでなく、樹皮を煮込んで出てきた汁を使う方法もあります。私が知っているのは、ベネムの樹皮を使うと、濃いピンク色が出る事だけですけど。」

「ベネムの木の、皮の部分ですか。花弁ではなくて、樹皮を使うのですか。」

「そうです。花弁だとあまり色は出ないですし、実は美味しいけれども、染色用には使えません。」

 隣席になったセーラとキャロラインは、染色剤の話で盛り上がっていた。

「他には何かありますか?」

「綺麗な色が出て、商品に使えそうなのは、この1つしか知らないんです。ただ、樹木は燃やす以外にも使い道があると、もう1人の母から習いました。」

「それを伺ってもよろしいですか。」

「もちろんです。」

 赤い瞳が優しく輝いているのを見つめながら聞いた話は、公爵領の発展を担う秘書官にとって極めて有益なものだった。いくつかの樹皮を使った燻製方法はすぐに実践できるものであったし、今後の研究の対象になるものもあった。食材の長期保存技術は、各都市間の交易によって経済活動を推進させようと考えている秘書官にとって重要なものだった。さらに、通常では交じり合わない染料を混ぜる事ができるようになる樹液の存在を教授してもらった時には、彼女らしからぬ笑顔を見せる程に喜んだ。

 話をしている内に、キャロラインには1つの疑問を持った。公女セーラが、12歳まで庶民として国境の町で暮らしていて、母娘で食堂の女中として働いていた。その中で、各街を行き来する商人達と会話する機会があった。それらの事をアランからは聞いていたので、王都と自領の情報しか得ていない貴族とは全く異なる知識を持った公女であるとの認識はあったが、その知識の広さと深さは、商人達と会話するだけで身に着くようなものではないと思った。

「ミーナ様は、とても博学な方なのですね。」

「母は商人達から聞いた事だと言っていました。」

「・・・・・・。なるほど。聞いた事とは言え、そういった情報をセーラ嬢にきちんと伝えたのですから。ミーナ様は、素晴らしい方だと思います。公爵領に戻る前に、もっと詳しい話を聞かせていただきたいです。」

「分かりました。」

 この時、キャロラインは、セーラの実母ミーナの優秀さに気付いた。セーラに教えてもらった貴重な情報の中には、商人の間で広まっていないものがいくつかあった。その中の1つだけでも、莫大な利益を作り出せる情報であり、食堂の女中がそれらを複数知っている事は異常な事と言えた。

余程優れた情報収集の組織を運用していなければ手に入らない情報をミーナは手にしていて、幼い頃からセーラにそれを伝達していた。その現実がある以上、ミーナが優れた人物である事は間違いないなかったが、その優秀さが何であるのかは分からなかった。

 ただ、この母娘から飛び出した知識の多くが、公爵領と隣接する貴族達、複数の交易路上にある町を大きく発展させていったのは確かだった。


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