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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
3年生(2回目)
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3年生(2回目) その107 初日の結果

107 初日の結果


 昼食を取りながら、セーラは午後の運営方針を考えていた。第2公女とは言え、大会参加者でもなく、運営に全く関りはない立場であり、僭越である事は十分承知していたが、姉のために出しゃばる事にした。

 姉の行動原則は単純であるが故に、周囲からは、強烈な我儘に見えることがあるのは理解できた。だが、その我儘に見える一手を打つまでに姉はできる事を全てやってきた。

戦公爵の長女としての訓練、イシュア国筆頭令嬢としての行事参加のための礼儀作法の学習、知識の習得、学園においても女生徒の相談役、弓術の指導官、これらから派生する様々な事までも姉は全力で取り組んできた。

姉が我儘に見えるような事をしている時は、姉の力ではどうにもならない事態になっている時で、それを周囲が理解して支えなければならない事をセーラは理解していた。

「レイモンド殿下、お食事中ですが、少し話をしてもよろしいでしょうか。」

「・・・。はい。セーラ嬢。」

「姉レイティアは、殿下の非協力的な行動に怒っています。」

「それは。」

「殿下のお気持ちは良く分かっています。ですが、試合前の騒乱を沈めたのは姉です。結果として、この場における最大の功労者と言えます。大会参加者でも、運営側でもないにも関わらず、です。」

「その通りです。」

「姉は、これまでの事を怒っているのではないのです。過ぎたことは結果が出ているのですから、言い訳も説明も無意味です。これから、どうするかが大切なのです。」

「それは分かる。だからこそ、反省すべき事を話し合うことが大切なのだと思う。」

「反省会は、初日の予定が終わってからやってください。大会の初日が終わるまでは、するべきことをすれば良いのです。ご理解いただけますか?」

 燃えるような赤い瞳とつり目気味の視線に、第3王子は無言のまま頷いた。


 庶民の女性が着るような簡単な作りの黄色を纏った赤髪の第2公女は、姉が戻ってくる前に準備終わらせる事にした。

「リリアとキャロットにお願いがあるのだけど。」

「どうしたの?」

「午後の事なのだけど。2人はコンラッド殿下と一緒に、本部の事務作業を手伝ってもらいたいの。」

「勝利者が報告に来たのを記載する仕事よね。」

「そうよ。」

「もちろん、いいわよ。治療担当だけど、本部に来るような重症者には何もできないから。仕事をもらった方がいいわ。でも、コンラッド殿下が一緒なのはどうして?」

「私は仕事の内容は何でも構わない。ロイド卿を手伝う事ができれば。」

リリアに対して答える前に、第一王子がセーラの依頼を受諾した。

「お願いします。コンラッド殿下。3人に手伝ってもらえるから、事務担当の文官の方々には、交代で会場の見回りをしておいてもらいたいの。大会は未だ続くから、位置関係とか、会場の様子とかを実際に見てもらった方がいいと思うから。その辺りの指揮を殿下にお願いしたいのです。」

「分かった。」

「あと、落ち着いて時間が取れたら、3人で試合場の大会会場の視察をしてもらいたい。」

「それも分かった。王家主催なのだから、試合会場の方も見回った方がいいな。」

義兄ロイドがこれからするだろう行動を他のメンバーに割り振る事で、姉と2人きりの時間を作る事がセーラの任務だった。

「セーラお姉様、私も何かお手伝いすることはありませんか?」

「アイリスは僕の応援に来てくれると、嬉しいのだけど。」

 普段であれば、弟達の微笑ましい様子を笑顔で見守るのだが、今日の最重要課題の前では、弟の提案の価値はとても小さいものだとセーラは考えていた。

「アイリスは、私と一緒に、本部で雑用の仕事をしてね。」

「えー。」

「エリック。試合場にアイリスを1人にする事ができないのは、もちろん分かっているわね。今日はダメよ。」

「分かったよ。姉さん。」

「セーラ嬢、私がアイリス嬢を連れて。」

「レイモンド殿下。本部の主賓席にいるという大切なお役目をお忘れですか?」

「もちろん、忘れていない。」

 第3皇子レイモンドは3人の王子の中でも、公爵家贔屓で、特にエリックとの友情を深めていた。普段から、戦役や財務改革などにおける公爵家の功績に対して、少しでも王家として何かを返したいと考えていた。その意識と行動は真っすぐで、エリック個人だけであれば、満点の評価を得られるが、今回の事案においては、マイナスにしか働かなかった。

 姉の機嫌を損ねるような何かをしそうだと不安になったセーラは、決して外れない重しを付けることにした。

「ビアンカ、お願いがあるのだけど。」

「私で手伝えることがあれば、手伝うわ。」

 本当は女子4人で王都の祭りを楽しむはずだったのに、剣技大会の運営本部で座っているだけの状況に申し訳ない気持ちでいっぱいだが、ここから離れる訳にはいかない今、異国の姫の力を借りる事が最善であると考えた。

「主賓席で、レイモンド殿下の隣に座っていて欲しいの。両国の交流も兼ねて、楽しい会話に花を咲かせて欲しいの。後日、素敵なお話の様子を聞かせてもらいたいの。」

 敷居がある訳ではない本部において、会話が筒抜けである以上、セーラが放った最後の一文には意味があるはずだとはビアンカにもすぐ分かった。ただ、今日の状況から午後に祭り見物ができない事は共通認識であるのだから、今日の埋め合わせを後日にしてくれるというのは当然であり、ここに来る前に明日の空いている時間を聞いてもいた。

当たり前の事をわざわざ言う事は、その裏にある何かを伝えたいはずで、皆の前で伝えにくい内容であるはずだと考えると、セーラが今一番気にしている人物の方に、ビアンカは微笑みを向けた。

「レイモンド殿下。話し合いの相手になっていただけると、嬉しく思います。」

すっと立ち上がってから淑女の礼を示すと、レイモンドも立ち上がって騎士の礼を示した。

「私の方こそ、話す機会をいただき、感謝します。」

 お揃いの黄色の服の姫たちは、少女と女性とわざわざ別の表現をしたい程に、周囲に与える印象が違った。目尻の向きだけでなく、輪郭も唇も、雰囲気さえ、愛らしい少女と強気な女性と全く共通点がなかった。ただ、一緒に過ごす時間が長かったからか、共通の視点で物事を見る事ができた。


 午後の試合は、試合会場に遅刻した剣士たちが到着する度に消化されていった。遅刻した者の殆どが、地方から来た傭兵ギルド所属の戦士達だった。彼らが宿泊したのは、王都南側の外縁の駅馬車停留所の近くの安宿だった。王城と貴族街、学園、大会会場、様々な主要施設が王都の北部にある事は聞いていて、安宿からかなり遠いとも聞いてはいたが、イシュア国最大かつ特大の都市である王都を初めて訪問した者には、かなり遠いという言葉の真の意味が分からなかった。

 安宿の主に聞いた時間に出発した剣士たちは、時間通りに大会に到着する事はできなかった。王都の住民にとって常識である、南端地域から北端王城に向かう場合、乗り合い馬車を利用する常識が、地方出身者には当然無かった。乗り合い馬車の乗車時間と徒歩の所要時間の差だけ、剣士たちは遅刻する事になった。

 遅刻組の中で一番に到着した傭兵ギルドの剣士達に事情を聴いたロイドは、商業ギルドに連絡をして、遅刻組で未到着の剣士たちを探すように依頼を出した後、セーラの強い要望を受けて、試合会場を視察する事にした。闘技場は剣士達しか存在しない場所ではあったが、2人で歩くという行為そのものに価値を見出してくれた婚約者の笑顔を見られた事に満足していた。

「レイモンド様は、試合を側で見たいのですか?」

「はい。今後の参考になりますから。」

「午前よりも長く歓声が続いている試合が多くなったみたいですね。」

 イシュア国第3王子が主賓席から試合会場の方をじっと見つめていたため、フェレール国第一王女は牽制球を投げてみた。

 運営本部に、第一王子と第一公女が不在だった。それは、第3王子に指示を与えることができる人間が誰もいないことを意味していて、彼が試合会場に行きたいと動き出されると、異国の姫では止めようがなかった。

「地方の傭兵ギルド所属の剣士達も、魔獣の巣で命を賭けて戦っています。弱い剣士はいません。中には近衛騎士と同等の力を持つ者もいるそうです。皆が皆、騎士を目指すわけではありませんから。」

「見に行きたいのですか?」

「正直に言えば、見に行きたいです。対戦する可能性がある以上、剣筋を見ておきたいですから。」

「優勝を目指しているのですか?」

「目標にはしていますが、無理だと思っています。エリックには勝てませんから。」

 ビアンカ王女には剣の素養は全く無かったが、公爵家の異常な強さだけは分かった。特に双子女神であるレイティアが、一家の中で一番強いのではないかと思っていた。

 公爵夫妻は若々しく見えるが、年齢が38歳である現実は存在して、それは戦士としての成長期はすでに終わっている事を意味していた。現在、行われる訓練は、夫妻にとっては現状維持のためであった。

それに対して、4人の子供達は尋常ならざる両親の指導を受けて成長し続けているのだから、両親を越える力を持っても不思議はなかった。そして、一番長くその指導を受けていたのが、長女レイティアであるのだから、最初に両親を越える力を持つのは彼女であるに違いなかった。

剣士の強さはを掌を見れば分かると、弟フェリクスの剣師が語っていたことを覚えていたビアンカは、セーラだけでなく、レイティアの掌を見せてもらった事があった。それは、あの剣師を上回る強さを感じさせるものだった。

「公爵家の方々の強さは、想像を絶するものなのでしょう。」

「そう思います。ただ、同じ人間として、同じ強さを求めたいと思っています。」

「剣士の意地と言うものですか。」

「剣士と言うか、友として肩を並べるようになりたいのです。」

「私もセーラと肩を並べるようになりたいです。剣の道は無理ですけど。」

レイモンドもビアンカも、公爵家の面々に魅了されている点では同じだった。何に魅了されているのかは、出会ってから最初のうちは色々と考えていたが、今となっては、全てに魅了されていると言えた。

強さや美しさといった外面的なものにも、内に秘めた闘志や責任感といった内面的なものにも、魅了され続けると、当人たちが欠点と認識しているものも、魅了される要因になっていた。

「エリックの戦いだけでも見ておきたいな。」

「いつも、一緒に訓練していると聞いていますけど。」

「戦っている姿を横から見てみたいのです。」

「予選が終われば、1戦ずつの観戦ができますから。」

「まあ、そうなのですが。」

「私との話は退屈ですか?」

「いえ、そのような事はありません。あ、3番目の試合会場の戦いがようやく終わったようです。長かったなぁ。誰が戦ったのだろう?」

「対戦時間が長い試合が気になるのですか?」

「実力が拮抗する者との対戦が1回戦で行われる事は珍しいです。しかも、これだけ時間がかかるとなると、両者とも相当の実力者である可能性が高い。」

「そうなのですね。」

「でも、勝ち抜いていけば、いずれ対戦できるはずですから。」

「分かっています。兄上にも言われていますから、今日はここで会場を見守ります。」

 ビアンカがセーラから与えられた使命は達成できそうだったが、姫の顔を曇らせる情報が伝えられた。事務席で、勝者の氏名を書き込んでいた文官の1人が、わざわざビアンカ王女に話しかけて来たのは、1回戦でフェリクス王子が敗北したとの連絡をするためだった。


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