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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
3年生(2回目)
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3年生(2回目) その104 剣技大会へ

104 剣技大会へ 


 収穫祭が一段落してからの11月に開催される剣技大会が盛り上がるだろう事は、誰しもが予測したが、王都内の騎士団の参加希望者だけで1000名を超える事が判明すると、軍部は大会参加者を制限する事にした。

騎士団の小隊からは代表者1名が参加できる事にすると同時に、学園生徒や傭兵ギルドの冒険者の参加についても選抜条件を示す事で、2日間で大会が終わるように調整をしたが、地方騎士団からの参加も受け入れるようにとの強い要望が、領主貴族達から出てきた結果、国を挙げてのイベントになった。

9月の収穫と収穫祭に剣技大会予選が各地で行われる中、学園でも選手選抜の予選大会が開催される事になった。

「セーラが出場しないのは本当なのか?」

「はい。本当です。」

授業以外の事でフェリクスが隣席の公女に話しかけるのは久しぶりだった。

「中等部3年の中で、一番強いのに・・・。参加しない理由を聞いてもいいだろうか?」

「私も聞きたいわ。」

 姉ビアンカも会話に参加してきた。双子殿下に挟まる形で真ん中の席に座っているセーラは、親友の方に振り返ってから、困ったような表情を見せた。

「大した理由ではないのだけど。」

「セーラが言いたくない事を聞きたいとは思わないわ。」

「私は聞きたい。強い相手と戦いたいと思っているから。もし、その理由を解決できる手助けができるのであれば、手助けがしたい。私としては、予選でも良いから私と戦ってもらいたい。」

 弟が望んでいる事は、セーラとの実力差を知る事だとビアンカは知っていた。自らを鍛える事に熱中している弟は、バース先生の指導のおかげで、精神的にも以前よりは成長していた。そして、自分自身が未だ甘えのある人間である事は自覚しているようで、少し強くなり始めた自分を戒めるためにも、同年代にいる圧倒的な実力者に挑戦して、自分の弱さを確認して、気を引き締めたがっていた。

公子アランとイシュア国第2王子ジェイクが不在となった中等部3年では、最強の戦士セーラと手合わせをする事が、自身の未熟さを痛感する唯一の方法だった。

「フェリクスの気持ちは分かるけど、セーラにもそれなりの理由があるのだから、自分の気持ちだけを押し付けるのは良くないわ。」

「もちろん、言いたくないのであれば、無理には聞かない。」

「理由は、勉強に集中したいからです。」

いつもとは違ったか細い声のセーラの言葉を聞き取ることはできたが、その意味を2人共理解できていなかった。

「セーラが勉強に手を抜いているようには思えないし。もしかして、授業中に私たちが言葉の事で質問するのが邪魔になっているの?」

「違うの、ビアンカ。違うの。ここでは、なんだから、お昼の時に個室で話を聞いてもらいたいの。フェリクスも、よければ。」

「食事しながらって事ね。」

「はい。」

「分かった。聞かせてもらえるのであれば、聞いておきたい。」

 食堂で昼食を調達した後、個室を借りた3人は食事を共にしたが、食事が終わるまでの談笑は2人だけの間で交わされた。フェリクスとセーラの間に、気まずい雰囲気があった訳ではなく、共通の話題がないだけだった。共通ではないが、お互いに聞いてみたい事はあったが、親交を深める事をしてこなかった2人は、聞いても良いかが分からなかった。唯一話す事ができる話題をフェリクスはようやく持ち出した。

「それで、先程の件なのだが。勉強に集中したいというのは、どういう意味なのだろうか?」

「前期試験の結果が良くなかったから、もっと勉強しようと思って。剣技の訓練にこれ以上時間を取ることができない。」

「セーラは、去年に前期の授業も試験も受けているから。今回のテストの結果は成績には関係ないはずだったわよね。私たちと一緒に試験を受けてはいたけど。」

「・・・。去年の結果が私の正式な成績になっているわ。ただ、目標にはなるから、テストは受けさせてもらって、点数を出してもらった・・・。今回のテストで順位は出ないのだけど、点数だけで比べると、20位の生徒と同じくらいの点数なの。」

セーラは学問の面で、姉弟に圧倒的に劣っているだけでなく、他の貴族令息令嬢よりも優れていない事を自覚していた。ただ、これまでの3年間、自分なりに必死に勉強を重ねていた。3年生の前期はしっかりと学習に励んでいて、留年後の3年生前期でも、もう一度授業を受け、公爵邸でも学習を繰り返していたから、分からない所は何1つ無かった。

だから、今回のテストには自信があったし、実際にテストでは全く分からない問題と言うのは一題もなかった。それにも関わらず、上級クラス40人の真ん中の成績だった事は、双子殿下の通訳兼お世話係兼お姉さんポジションとしては面目ない思いだった。

「それで、後期の勉強に集中しないと、という事か。」

「そうよ。去年勉強していた前期のテストでこの結果。同じように後期の学習を進めたら、20位よりも下がるのは間違いないわ。後期の内容は初めて習うことばかりだから。」

「理由は分かった。教室では、手助けをしたいと言ったが、撤回する。私には手助けするのは難しい。今は自分の事が精いっぱいで。」

 フェリクスは学問面で言えば、セーラを教えるだけの実力はあった。実際に、今回のテストで学年10位の成績を取っていた。甘やかされていたとは言え、王族としての学力は身に着けていたし、褒めて伸ばす教育を徹底的にされたためか、彼は幼少期から学習する事への嫌悪感を持つ事は無かった。そのフェリクスが自身の愚かさを払拭するために学問にも打ち込んだのだから、この成績を取るのは難しくはなかった。言語の問題があると言っても、2人共留学前にイシュア語は身に着けていて、セーラに通訳として側にいてもらった理由は、学問上の難解な表現を分かりやすくフェレール語で説明する場合を考えたからだった。

「気を使ってくれてありがとう。」

「いや。礼を言われるような事ではない。」

「セーラ、ごめんなさい。」

「ビアンカがどうして謝るの?」

「休日に、公爵邸で時間を取らせているから。」

「ビアンカに責任はないわ。」

 そう答えたセーラも、責任ではなく、勉強が疎かになっている原因がビアンカと休日を過ごしている時間が多すぎる事は分かっていた。これから先、勉強時間を増やすには、その時間を減らす以外の方法は無かった。

「セーラ。休日のセーラと一緒に居る時間が多すぎる事は分かっているの。だけど、今まで通りに会う時間を取って欲しいと思う。それで、一緒に勉強する時間にしてもらいたいの。少しは私も教える事ができるから。」

「そうしてもらえるなら、助かる。お願いできる?」

 留学生ながら、学年3位の実力者のビアンカの学力と指導力にセーラは期待すると同時に、愛らしいお姫様との時間を減らしたくはなかった。リリアとキャロットが親友である事に変わりはないが、公爵邸を気軽に訪問できる友達は、異国の王女である彼女だけだった。


「セーラお嬢様、お茶をどうぞ。」

「ありがとう。ザビッグ。」

 自室で学習した後の一服を差し出された公女は、本日のノルマを終えた事に安堵しながら、ソファーに身を沈めた。

「申し上げたい事がございます。よろしいでしょうか。」

「いいわよ。」

「勉強する事の大切さは分かりますが、晩餐後の会話の時間を減らすのはどうかと思います。」

「どうかとは?」

「公爵、公爵夫人が寂しがっておいでです。セーラお嬢様が晩餐室を出てからですが、そう思える表情をしています。」

「そうだったの。教えてくれてありがとう。レイティアお姉様も寂しそうにしていた?」

「いえ、レイティアお嬢様やエリック様は、そういった表情を見せることはありません。」

「もう少し、晩餐室でお話をするようにするわ。」

「そうなされば、公爵も公爵夫人もお喜びになると思います。」

 東に位置するドミニオン国における最強の武人の1人であったザビッグは、妻と子供達を病気で亡くした元男爵で、セーラたちに敗北した時に、その身を彼女たちに預けて、祖国を出奔した。

 その武人の今の役職は、公爵邸で働く執事見習いの36歳で、家令セバスチャンの直属の部下と言う事になっていた。ただ、この公爵邸では、2つの特別な役割があった。1つはその武力を活かして、公爵家の訓練相手になる事だった。特に、暗闇の暴走時にだけ出現する中の魔獣と大の魔獣は、速さだけでなく圧倒的な膂力を持った獣であるため、ザビッグはその魔獣達を想定した訓練相手として適していた。

もう1つの役割は、セーラを主として仕える騎士として、忠言をしてくれる事だった。公爵邸にはセバスチャンを筆頭とした忠臣ばかりだが、英雄一家を慮って何も言えなくなってしまう事が多かった。そんな中、異国出身だから何も分からないふりをして、直言する巨人は、老紳士にさえ頼りにされていた。

「ザビッグ、聞きたい事があるのだけど。」

「何でしょうか?」

「今度の剣技大会に出場をしてみたいとは思わない?」

「思いませんが。私が出場した方が良いのでしょうか?」

「・・・・・・。ザビッグが公爵家に仕えてくれるのは嬉しいけど。ザビッグはイシュア国で出世したいとかは思わないの?今度の大会に出れば、ザビッグなら上位になれるわ。そうすれば、騎士爵を受けて、騎士団に入る事ができる。」

「お嬢様や公爵家の皆様にお仕えする事が、今の私の喜びです。個人の権力や名誉を求めることはありません。」

「今の、という事は、前は違ったんでしょ。」

「もちろんです。お嬢様にお会いする前と今とは違います。以前は、男爵位を持ち、領土を持ち、守るべき領民もいましたから、守るために権力や名誉を求めていました。」

「それを、もう一度手に入れたいとは思わないの?」

「思いません。自分でも不思議な程に、以前持っていた物を再び手に入れたいとは思いません。今私が得ている、仕えるべき主、共に働く仲間、美味しい食事に、便利な住居。その全てに満足しています。」

「騎士爵を手にしても、今言ったものを手にする事はできると思うのだけど。」

 来月で出会ってから1年になる公爵令嬢の生き方や個性の特異性を知れば知るほど、好ましく感じ、この公女を見守りたい気持ちをザビッグは強くしていった。病で失った妻や子の代わりに娘のように思えた部分も確かにあって、この気持ちが強いからこそ、従者としては相応しくないような直言もしてきた。ただ、今日の会話でザビッグは、娘を守りたい父親の思いではなく、これから生まれる英雄の成長を支えたて見守りたい師匠のような思いを自分が持っているのだと気付いた。

「いいえ、側で仕える時間が減ってしまいます。」

「そう。ザビッグが満足しているのであれば、それでいいのだけど。」

「セーラお嬢様、以前領主だった経験から、申し上げたい事があります。申し上げてもよろしいでしょうか。」

「いいわよ。」

「お嬢様は、最近、相手の気持ちを上手に思いやることができるようになったと思います。その事はとても良いことだと思いますが、私達使用人に気を使いすぎるのは良くないと思います。」

「気を使いすぎているとは思わないけど。」

「それは、お嬢様の感覚であって、私達使用人の感覚から言えば、気を使いすぎているのです。先程の私への配慮ですが。大会に出るようにお嬢様が私に命令しても良かったのです。」

「・・・命令すれば良かったの?」

「お嬢様の今後を考えれば、命令した方が良かったと思います。そういう事ができる立場を忘れないために。」

「忘れてはいないわ。」

「お嬢様は忘れないでしょうが。私達が忘れてしまう可能性が高いのです。親しく話をしていただいてうれしく思いますが、私達はあくまでも上下関係がある事を忘れてはいけないのです。忘れないまでも、お嬢様に対して、気安い態度を取ってしまう可能性があります。お嬢様はそれを気になさらないかもしれませんが、そういう態度を取ればセバスチャン殿に注意を受けますし、状況によっては解雇につながることもあります。」

「・・・・・・。」

「仕える者に勘違いさせない事も大切なのです。」

「親しい態度を取ってはいけないという事?」

「セーラお嬢様の場合、全てが優しく、親しく接する事が問題だと私は考えています。問題なのは、全てという点です。私達に対して気を遣うのは時々でよいのです。お嬢様は、私達と線を引くようなことをお嫌いかもしれませんが、下で働く者としては、明確な線を引いてもらった方がやりやすいのです。」

「そうなのね。こうやって、1対1になった時以外は、公女と使用人という関係を崩さない方がいいのかしら。」

「私の意見ですが、そうだと思います。」

「分かった。少し考えてみる。」

「はい。」

 ザビッグは公女がこのままイシュア国の中だけで生きていくのであれば、今のままでも問題ないと考えていた。しかし、フェレール国の王族との友誼を結んだ以上、より貴族という身分を重要視する人々と触れ合う機会が増えるのだから、その事を理解する必要があると考えていた。


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