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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
3年生(2回目)
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3年生(2回目) その99 弓術

99 弓術


 イシュア国は軍事面において、東の国ドミニオン国、北の国フェレール国と大きく違う点があった。2国が対人戦を想定した軍を整備するのに対して、イシュア国は対魔獣戦を想定していた。

 対魔獣戦とは、主に魔獣の巣と呼ばれる洞穴内で出現する4本足の魔獣を狩る事だった。管理下にある魔獣の巣では、巣の中に毎日戦士達を送り込んで、出現する魔獣を狩り取って、その肉と魔石を回収する作業を行っていた。熟練の騎士でなければ、魔獣と1対1で戦う事ができない強さを持つ魔獣を狩る作業も、駆け出しと呼ばれる戦士達には命がけであり、毎年少なくない死者を出していた。

 そして、25年に1度発生する暗闇の暴走では、大量の魔獣が一度に出現して、巣の外へと溢れだろうとした。これを防ぐ事が、領地を維持するために必要な不可欠の戦いであり、これに勝利する事が、次の暴走までの25年間、安定して魔石を手にする資格を得る条件でもあった。

 これらの戦いにおいて、弓矢はほとんど役に立たなかった。洞穴内の空間が、近接戦闘をするのには十分な広さを持っていたが、弓矢を運用するのには狭いからだ。それ故に、イシュア国には弓隊なる部隊は存在しなかった。

 もちろん、弓なる武器は存在していて、猟師が普通の獣を取るのに使用はしていたし、未開拓地に騎士団が乗り込む場合は、巣の外を徘徊している魔獣を退治する時には活用できた。それで、一部の戦士達が、弓術を趣味で鍛えていたというのが、イシュア国における弓術の立ち位置だった。

しかし、モーズリー高原の戦役で弓術を極めた公爵夫人と公女達が活躍した事から、弓術に対する認識が大きく変わってきた。


 5月の下旬、太陽の日、公爵邸での昼食パーティーが終了した後、野外会場の片づけをする従業員が忙しく動いている中、1つの丸テーブルを囲んでいる3人がいた。

紺色のワンピースに身を包んだ金髪の女性が満面の笑みで娘に話しかけた。

「今日は、楽しかった?」

「はい。」

 淡いオレンジ色のワンピースの赤髪の公女は、母親から送ってもらった黄色い花をモチーフにした髪飾りを付けていた。

「そう。それは良かったわ。」

「ところで、セーラ。」

「はい、お父様。」

 白いシャツと青いズボンの普段着の公爵は、娘のにこやかな表情に満足しながら、大切な質問をするタイミングを作った。

「今日、話をした中で、気になる事はあったか?」

 太陽の日の公爵邸の昼食会は、下級貴族や軍人、大商人達を招いたパーティーで、気軽に参加できるようにドレスコードはなかった。また、妻子同伴の参加は推奨されていて、既婚者と未婚者の区別ができるようにしていた。その結果、未婚の男女は豪奢な衣装ではないが、自身をより美しく見せるために着飾っていた。

 今日、セーラに単独で話しかけた男性達は、騎士爵の戦士や成長著しい戦士ばかりだった。公爵が裏で何かを画策する事は無かったが、婚約者のいないセーラには集団お見合いの場になっていた。少なくとも、公爵夫妻は公女に出会いの場を提供しているつもりだった。

「お父様、どなたとの話の事でしょうか。お父様に対しての話題を持ち出した方はいませんでした。」

「私に対して何か言っていたと言うのでもなく。世間話の中で、その、セーラが気になるような話はなかったかと思って、聞いてみたのだ。」

 夫人はカップに手を伸ばしながらも、娘の言葉を気にかけていた。公爵夫妻が娘の婚約者に求める条件は、娘が好意を寄せているとの1点だけなのだが、娘の方は公女としての立場をとても気にしていた。その事を気にしなくてもいいのだと2人とも言いたいのだが、それでは公爵家として娘に何も期待していないと言うのと同じになるので言えなかった。

 結局、公女の夫として相応しいという条件が加わると、上位貴族の令息との恋愛結婚が、両親と娘の両方の希望を満たすものだった。ただ、この条件を満たす男性は、現時点で学園に通っている男子生徒になるが、その中で公爵令嬢に果敢に挑んでくる貴族令息は1人もいなかった。セーラが幼少期は庶民だったというのが理由ではなく、天才美少年である第2王子ジェイクの代わりに、その位置に立つ事ができると自信を持てる学園生はいなかった。

 そんな中、両親が唯一の可能性を感じていたのが、優れた若手戦士達だった。戦公爵とも呼ばれる一族にとって、武力は爵位と同様以上の価値を持っていた。現に、第2公子エリックが、5歳も年下の幼女と婚姻を結んだことが歓迎されたのは、アイリスの父ランドルフが国内騎士の中でも間違いなく十指に入るからだった。戦公爵の血とランドルフの血が混ざった子供が生まれる事への期待は大きかった。

 多くの国民から歓迎される恋愛結婚を実現するには、若手騎士の挑戦に期待する他なかった。

「世間話と言うと、騎士の中では、弓を習う者が増えて、弓の訓練所がいっぱいになってしまう事が多いみたいです。」

「ああ。確かに。モーズリー高原の戦いで、弓は活躍した上。高原の入り口に作った砦で防衛する場合、防壁を挟んでの弓矢でのやり取りが主なものになるから。騎士達の中には、防衛派遣の任務を希望する少なくない。」

「何か、軍部の方で対策を取るのですか?」

「そうだな。弓部隊を作るような事はないだろうが。弓が使える事は悪い事ではないな。新開拓地の近くには未知の魔獣の巣は存在していないが、南部の方に開拓地を広げると、危険地域に接触するかもしれない。そうなった場合、弓は対魔獣に効果の高い攻撃方法になるから・・・。」

 両親が聞きたいのは、弓そのものの話ではなく、弓上手の武人達が、セーラに対してどのように自分をアピールしているかという話であった。

「セーラ、お話した方の中で、弓に優れた方はいたのかしら?」

「実力を試す機会はありませんから。騎士達も、どの程度の実力なのかは分からないようです。10射中9射を的に当てる事ができるという方もいましたが。どのくらいの距離の、どのくらいの的なのかが、分からないので。皆様、実力を測りかねているようでした。」

「軍部でも弓に関する記録は特に付けていないな。何人か、特に優れていると話に出てきたことはあったが。酒の席で名前が出るくらいだったな。」

 両親が何かを考えながら会話をしている様子は分かっても、何を考えているのかが、最初は分からなかった。だが、ここまでの話の流れの中で、セーラは1つの結論を出した。

 将来の開拓と砦防衛戦で有効な攻撃手段となる弓について、軍部は積極的に取り入れたいが、騎士達の意識がある程度高くないと導入は難しいから、その点を両親は確かめたかった。ただ、公爵夫妻の質問に否定的な答えを出す者はほとんどなく、本心を聞き出す事は難しかった。そこで、騎士達と会話をしていた第2公女が、弓に関する話をしていなかったかどうかを両親は確かめた。そして、騎士達の関心は高いものであると判明した。

 戦士たちの興味があるのであれば、弓隊を正式に軍に導入する方向で動くべきではあるが、今のイシュア国には弓隊についての知識がないだけでなく、弓兵の実力を把握するための基準すら存在していなかった。

セーラは現状の把握を済ませると、お父様とお母様の力になりたいと考えた。国のために尽くしている尊敬できる両親の力になり、褒めてもらいたかった。

「お父様、射撃大会を開くと言うのは、どうでしょうか?」

「弓の射撃大会か。」

「はい。」

 可愛らしいオレンジ色の妖精から聞きたいのは、素敵な男性の話であって、武技について語り合いたい訳ではない事を、娘に伝えようと口を開きかけた夫人は、そのまま何も言わない事にした。父親に進言をしている娘が嬉しそうにしていたからだった。

「実力を試すのであれば、試験をすれば良いだけだと思うが。」

「はい。試験をすれば、試験の基準を作る事にもなるので、それぞれの戦士達の実力を測ることができるようになります。ですが、弓での活躍の場は、すぐにはないと思います。だから、活躍できる場を作る必要があると思います。」

「その必要性は分かった。だが、大会を開いても、実力を見定める機会を作るだけではないのか。」

「大会と言っても、えーと、お祭りみたいな大会にしてはどうでしょうか?」

「祭りとは、各学校で実施しているような祭りの事?弓の大会なのに?」

 娘の提案が全くイメージとして描けない公爵夫人が戸惑いながら聞き返した。美女神には、楽しむための祭りと軍事訓練の一環である射撃大会が、どのように結びつくのかが想像できなかった。

「はい。お母様。射撃大会では、弓を競い合います。その中で優勝者を決めるのですが、その競う場を見学できるようにします。そうすれば、騎士達だけでなく、王都の民も見に来ると思います。そういった人が集まる場所で、学校の祭りのような屋台の出店をします。」

「なるほど、それは祭りだな。優勝者には、栄誉が与えられる訳か。」

「はい。それに、優勝者や成績優秀者には、賞金を出すと、参加者の意欲が上がると思います。」

「賞金を出すには、軍部から予算を出さなければならないが。本年度の予算はすでに決まっている。あまり多くは出せない。それだと、優勝者の価値が下がってしまうかもしれないな。」

「屋台の出店をする場合、参加料を取ります。それを賞金に回す事で、ある程度の金額になると思います。」

「集まる人数によると思うけど。セーラは、何人ぐらいは集まると思うの?」

「王都の人口とこれまでの祭りの事を考えると、5000人以上は射撃大会を見に来ると思います。大会に興味が無くても、出店を目的にして集まる人を考えると、1万人以上が集まると思います。」

 王都の人口と経済規模を考えれば、無理な想定ではなかった。

「弓の訓練場の拡大整備をする必要があるのですから、学園に隣接する草原部に、観客席を付属した弓技場を作れば良いと思います。」

セーラが次々と語ったお祭り弓術大会の構想は、結果として実現した。


観客席を付属した弓技場の建設。

毎年7月第2週の土の日、太陽の日の2日間で開催する事。

優勝者には金貨100枚の多額過ぎる賞金。

大会参加者は騎士のみならず、冒険者、傭兵や狩人などの庶民の参加も認める事。

また、軍部における弓技の評価基準と共に、それに準ずる形で大会ルールも決まった。

詳細は、軍部での会議で最終決定されるが、概要はこの片付けられつつある野外パーティー会場に残された丸テーブルの上で決められていった。

「セーラ、こんな事を思いつくなんて、素晴らしいわ。」

「ミーナ母さんの教えです。」

「ミーナの・・・。」

「ファルトンの町を豊かにするために、母さんは色々な提案をしたそうです。おじさんが、それを教えてくれた時、母さんに聞いたんです。人は皆で集まって何かをすると楽しい気分になれるから、祭りのようなことを皆でする提案をすれば喜んでもらえる。ただ、参加してもらうためには、それぞれの参加者の利益と役割を考える事が大切。そして、その大切な部分は、皆で話し合いをしながら、決めていく必要があるって。」

「ミーナが、そんな事を。」

「だから、今も、お父様とお母様と話をする中で、色々な事が思いついたりしたんです。最初に考えていた事と全然違う提案も思い浮かびました、」

「そうね。良い話し合いができたと思うわ。」

「軍部でこの話を通してみるが、提案通りになるとは限らないぞ。」

「はい。軍部の方でも皆で話し合って、決める事が大切だと思います。」

「そうだな。とりあえず、今夜の食事の後、レイティアとエリックの意見を聞いてみよう。黙っていると、レイティアは相談してくれないと不満を持つかもしれない。エリックが不満を持つ事はないだろうが、色々なアイデアを出してくれる。」

邸宅の中での片付けもあるためなのか、3人だけの時間を作るためなのか、丸テーブルと3客の椅子だけが野外に残されていた。3人は協力して、その片づけをしながら、公爵邸内へと戻っていった。


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