街に行ってみる
街には昼前ということもあり大勢の人で賑わっている。
これだけ沢山の人が集まるのを見たことがないリシュは目を丸くして驚いた。
「今からパレードでも始まるんですか?」
『いいや。 コレが普通だ』
どこを見てもリシュは目をキラキラと輝かせる。
その顔を見てグリースはくすりと笑った。
『リシュは何が見たい?』
「え? 今日は魔導具を見に来たのでは……」
『あれは重たいから最後だ。 今はリシュの見たいものを探しに行こう』
手の小さい少年になってもグリースは器用にガブを操りリシュの手を引いていく。
リシュはあわあわとグリースの背を追った。
色鮮やかな花々で出迎える花屋。
甘い香りとバターの香りが漂うパン屋。
ビーズや装飾石がキラキラと輝く雑貨屋等。
これまで閉じ込めてきた感情が次々と引き出されていくリシュを見て、好きそうな店を見つけては誘い連れて行く。
グリースもガブもご満悦だ。
一頻り見て周り買い物を済ませた二人と一匹は休憩がてら店に入った。
「はぁ……街って楽しい所ですね」
疲労感はあっても満面の笑みでリシュは溜息をつく。
「なら良かった。 でもこれだけじゃないぞ」
すると鼻を擽るいい香りが漂ってきた。
「お待たせしました」
リシュの目の前に置かれたのはフルーツとクリームがたっぷりのったパンケーキだ。
「ふわぁぁ……!」
「家じゃなかなか食べられないからな。 味覚も堪能しておこう。 ホラ」
するとグリースはフォークでパンケーキを一切れ切り出すと、リシュの口元に差し出した。
「へ……」
「ん? 腹空いてないか?」
「いえ……」
リシュが躊躇ったのは、初めて人から分けてもらう事、それがガブではなくグリースの手からだったからだ。
さっきまでガブが話していたのにグリースもここにきて意識が解れていたようだ。
少年姿とはいえ本性を知っている為にやはり意識してしまう。
それに気づかず首を傾げるグリースを見てリシュは頬を染めつつ口を開けた。
「美味いか?」
「はい、とっても……」
初めて人から分けてもらって食べた味は何とも言えない甘さだった。
◇
『腹も満たされたことだしそろそろ魔導具を見に行くか』
「はい!」
ようやくガブも動き出した。
そして二人と一匹は魔導具を扱う店へと向かったのだ。
「はいよ、いらっしゃい」
中は薄暗く、何やら香の匂いもする。
所狭しと並べられた装飾品に囲まれ出迎えたのは眼鏡をかけ新聞を読んでいた初老の男性だ。
「すまん、ちょっと奥を見せてもらいたいんだが」
店へと入るなりガブからグリースへと切り替わる。
「少年、見ての通りこれ以上奥はないぞ」
「そう言うな。 俺だよ、ジークフリード」
名前を呼ばれ男性は目を見開き眼鏡をかけ直しグリースを見つめた。
「その名を知っとるということは……お前まさかグリースか?」
「あぁそうだ」
「どうしたその姿は! しかも女の子を連れてくるとは」
「これには訳があってな。 今日は魔導具を見せてもらいたいんだが彼女も一緒に構わないか?」
「何だ、彼女か?」
「違う。 俺の弟子だよ」
「こんなかわいい女の子を弟子にとるとは……お前も隅に置けんな」
「だからこれには訳があるんだって」
「はいはいそういうことにしよう」
次第に頬を染めるグリースにつられてリシュも赤くなる。
そんな二人をニヤニヤと見つめるジークフリードは奥にある扉の鍵を開け二人を招き入れた。