聖女に与えられたもの 4
枯れた植物を片付け居室へ戻ると、ガブを手にはめ何やら喋りかけているリシュが待っていた。
「はっ! ごめんなさい! 勝手に手を入れちゃって……」
「いや、気にしないでいいから」
恥ずかしい所を見られたと赤くなるリシュからガブを受け取ったグリースは、じっとそれを見つめるといつものように手にはめた。
『あーー! 何かわいい事してんだよ!!』
「「!?」」
突如外まで聞こえそうな程に大きな声で叫ぶガブに驚きグリースは思わずガブの口を抑えた。
「ど、どうなってんだこれは……」
「ど、どうなってるんでしょう……」
ガブを見つめたまま耳まで真っ赤にして黙り込む二人。
グリースは己の動悸が治まるのを待ち、大きく深呼吸をして恐る恐る手にはめた。
『……悪い、大きな声出して』
ガブは通常運転に戻っておりペコリとリシュに頭を下げた。
その様子に二人は安堵の溜息をついた。
だがこれで先程の原因が解明されたのだ。
「よいしょっと」
あの後グリースは大きな水晶玉のような物を持ち込み、リシュの前にドンと置いた。
「これは何ですか?」
『魔導具の一種だ。 これに手を当ててみろ』
「魔導具なんて魔法使いっぽいですね。 これで良いですか?」
リシュが両手で水晶玉に触れた途端、透明だった玉がどんどん鮮やかな緑色へと染まっていく。
「綺麗……」
『やっぱりリシュが原因だったんだな』
「え、私が原因なんですか!?」
元々魔法使いの素質があったかは不明だが、ドライアドに分けてもらった魔力がリシュの体内で徐々に増幅していた様だ。
本来なら自然に魔力量が増えることなど有り得ないので、リシュに流れる聖女の血がそうさせたのかもしれないという見解だ。
今回はまだリシュの体が弱いため増え続ける魔力を体内に留めておくことが出来なくなったのだろう。
先程ガブが大きな声を出したのも、リシュが動かしていた時に溢れ出た魔力がガブへと移り、そこにグリースの魔力が加わり暴発したのだ。
『ようは魔力量に対してそれを溜め込む器がまだ小さいって事だ』
「魔力があれば魔法使いになる素質があるって事でしたよね。 嬉しいですけど、魔力が溢れてしまうなんて一体どうしたら……」
ここに来てから三度の食事に適度な運動からリシュの顔色も肉付きも少し良くなり健康状態も良好だ。
しかし体作りはまだ始まったばかりでそう簡単に変えられるものでもない。
リシュは眉を下げて頭を悩ませる。
『だからこれを使うんだ』
そう言ってガブは緑に染まった水晶玉をポンと叩いた。
『魔導具を使って魔力をコントロール出来るようにしていくぞ』
「魔力を、コントロールですか……」
『今は魔力が作り出される速度の方が勝っているからこのままだと魔力に体を乗っ取られてしまう。 だから体が耐えられるようになるまで魔導具を使って魔力の量を調整していくんだ。 だが……』
説明した後、水晶玉の色が深緑へと変化しているのを見てグリースとガブはふむと考える。
『もしかしたら毎日これぐらい魔力をはき出さないとダメかもな。 となると、今家にあるのでは間に合わないな』
「そうですか……どうしましょうか?」
『よし、出かけてこよう』
「え? お出かけですか?」
『あぁ、思ってたより量も多そうだし街に出て魔導具の材料になるものを買ってこよう。 リシュ、体調は大丈夫か?』
「はい、問題ないです」
『よし、じゃあ着替えて一緒に行くぞ』
「え! 私もですか!?」
『あぁ。 グリースだけで行っても良いんだが、一人きりの時にさっきのようなことになったら対処できないだろう。 だから一緒に行こう』
「で、でも私は……」
首を振り躊躇うリシュの手にガブが手を添える。
『あの日行く予定だった所とは違うだろうが、今日行くところもきっと楽しいぞ』
リシュは顔をあげガブとグリースとを交互に見る。
そしてじわりと涙を浮かべた目を細めて笑った。
「お二人と行く所ならどこでもきっと楽しいと思います」
『よし。 じゃあ早速準備するぞ』
◇
そして約三十分後。
「準備出来ました……って! グリースさん!?」
「ん? 何だ」
「背が縮んでます!!」
支度を済ませたリシュが見たのは、ガブを抱え真っ黒の髪をサラリと靡かせる十歳程のグリース少年だった。
「いつもの姿じゃまずいだろ。 だから変装していくんだ。 リシュもかがんでくれ」
グリースの言う通り小さくなって屈むと、グリースはリシュの頭をサラリと撫でた。
すると撫でたところからグリースと同様に艷やかな黒髪へと変化する。
「今日の俺達は姉弟だ。 これならバレないだろ」
「姉弟……」
その響きにリシュは何やら感動している。
「まぁガブを抱えて街に行くのは違う意味で目を引くからな。 子どもなら持ってても違和感ないだろう。 さぁ行こうか、リシュお姉ちゃん」
そう言ってグリースはガブ越しにリシュの手を引き外へ連れ出した。