聖女に与えられたもの 3
穏やかに晴れた日の朝の事。
何やら悲鳴が聞こえ、グリースは飛び起きた。
「リシュ! 何があった!?」
慌ててリシュの部屋に向かい扉を開けようとしが、押しても引いても全く扉が開かない。
「どうなってるんだ?」
「グリースさん! その、部屋の中が……」
「部屋の中?」
「植物だらけになってるんです!」
「はぁ?!」
グリースは家を飛び出しリシュが使っている部屋の窓から中を確認した。
すると言葉通りに部屋中が草や蔦で覆われまるで森のようになっている。
「とにかく検証はあとにしてまずリシュを助けるか」
だが火の魔法を使えばあっという間に燃え広がりリシュにも危険が及んでしまう。
「仕方ない」
グリースは再び中へ戻ると、はめていた手袋を片方外し、動かなくなった扉に手を押し当てた。
すると触れているところからボロボロと扉が木屑になり朽ちていく。
そうして腐食した扉を蹴り飛ばし部屋の中へと入った。
「大丈夫か?」
「はい、何とか……」
手袋をはめ直しグリースはリシュの側に駆け寄ると部屋の中を見回した。
「これはドライアドの力か?」
不安気な表情でこちらを見るリシュを安全な所へ移すと、グリースは再び部屋へと戻った。
中を見てみると増殖は止まっている様だが、再び動き出すと困るので、とにかく急いで魔力の発生源を探す。
すると、ベッドの下からも蔦が伸びているのに気がついた。
それを見てグリースはふむと顎に手をやる。
(まさか……)
今度はベッドの上で何かを探し始める。
その手が止まったのは、リシュが寝ていたであろう場所だ。
そこに僅かな魔力反応があったのだ。
(リシュ……それとも他に媒体があるのか?)
それから周囲を念入りに探してみたが、結局原因となるものは見つからなかった。
グリースははぁ、と溜息をつくと再び手袋を外し、部屋中を覆っていた植物に手を触れた。
植物達はそこから伝染したように次々と干乾び枯れていく。
「あの、グリースさん……」
そこへシュがやってきて声をかけた。
「こっちに来たのか。 大丈夫だ、じき終わる」
「すごい、どんどん枯れていく……」
「すごいもんか。 干乾びていく姿なんて気味が悪いだろ」
「でも……」
「ここは危ないからあっち戻ってろ」
近寄りがたい空気にリシュはしゅんと俯いた。
だが直ぐ様顔をあげもう一度グリースを呼んだ。
「あの! もし可能なら、ガブさんを貸して頂けないでしょうか……」
「え?」
頬を赤く染め、もじもじと立っているリシュを見て、グリースもじわりと体を熱くする。
「ま、待ってろ。 今連れてきてやるから!」
そう。
リシュの悲鳴で慌てて部屋を出てきた為に、ガブの存在をすっかり忘れていたのだ。
グリースは再び手袋をはめ、急いで自室へ戻りガブを連れて戻ってきた。
『リシュ? 一体どうした?』
パタパタと手を動かし近づくガブを見て固くなっていたリシュの表情も解れていく。
「ちょっと不安になっちゃって。 よかったら私と一緒に待っててくれませんか?」
『お、おう。 それは構わないが、コイツの手から離れたらオレは動けなくなるぞ?』
「それでも良いんです」
リシュはガブの手に触れ嬉しそうに笑った。
それを見たグリースは思わず息を呑む。
「本当にそれで良いなら、俺が戻るまで預けるから。 もう少し待っててくれ」
「はい、待ってますね!」
ガブを受け取ると、リシュはグリースにも同様に満面の笑みで返した。
グリースとガブと共に過ごした時間はまだまだ短かったが、それでも彼等がリシュの支えになっているのは間違いないようだ。