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終章

 窓から朝日が差し込む中、リシュとグリースが穏やかに朝食を食べている時だ。

 コンコン!と、軽快に扉を叩く音がする。


「はーい!」


 リシュは早朝の訪問にも関わらず嬉しそうに玄関へと向かい扉を開けた。


「リシュお姉様、おはよう!」


 そこにはぴしりと背筋を伸ばして立つシーラと首にリボンをつけたトワがいた。


「おはよう。 もしかしてそのリボン……」


「そう、昨日登録しに行ってきたからその報告と……」


「朝食を食べに来てくれたのよね」

 

 目を細めて笑うリシュにシーラは大きく頷いた。


「うん! リシュお姉様のジャムトーストが食べたくて!」


 リシュがエフモント家と決別したあの日から二週間がたった。

 あれからシーラは頻繁に朝食を食べに来ては近況を報告していくのだ。


「今日もちゃんとお家の人に伝えてきてる?」


「ちゃんと言ってきてるよ。 約束だもん」


 それを聞いてリシュは安心した様子で家へ招き入れた。 

 今シーラはエフモント家で暮らしている。

 だがそれはシーラから申し出た事だった。


「魔法の勉強もちゃんと続けてるのよ。 十六歳になっても聖女にならずに済んだらトワと一緒に旅に出るの!」


「シーラの夢だもんね」


「へへっ」


 家に残る代わりに過剰な干渉と行動の制限を撤廃させた。

 更には聖女の力が目覚めた時は、その役目を果たすと自身で決めたのだ。

 

「どうなってもトワと一緒だからもう大丈夫だよ。 本当にありがとうね」


 そういってシーラは前を歩いていたリシュを後ろから抱き締めた。

 リシュもそれに応えるようにシーラの手を優しく握り返した。

 トワはゾーイ達の元に返す予定だったが、トワがそれを固く拒否したのだ。 

 だがグリース達の屋敷で暮らすとなると少々窮屈な思いをさせてしまう。

 そこでシーラの監視役としてトワをシーラの側に置くことにしたのだ。

 トワは当初リシュの側を離れるのに躊躇していたが、シーラにも聖女の血筋を感じ取ったのか、直ぐに打ち解ける事ができたのだった。

 それを見てゾーイ達も安心した様子で譲渡したのだった。 


「やっぱりシーラか。 ちゃんと言って出てきたのか?」

 

 グリースはテーブルにバサリと新聞を置き、シーラを出迎えた。


「言って来たってば! もう、二人しておんなじ事聞かないよ!」


「前科があるんだから仕方ないだろ」


 シーラは頬を膨らませながら椅子に腰掛けた。

 

「トワのそれは同伴許可証か?」


 膨れるシーラの隣に座るトワの首には、銀のメダルと赤いリボンが付いている。

 人に慣れているとはいえ魔物なので、これが街を出歩く時の証明書になる。


「昨日登録しに行ってきたの。 審査も問題なく通ったよ!」

 

 シーラに頭を撫でられトワもどこか誇らしげだ。

 

「そういえばアランお兄様からまた手紙預かって来たよ。 今回はグリースにも。 はい、これ」


 そういってポシェットから取り出したのは二通の手紙だ。


「アランが俺にだと? 一体何が……」


 グリースは封を開け静かに手紙に目を通す。

 しかし次第に手紙を持つ手が震えてきた。


「何で俺がアランの武器代まで払わなきゃならないんだよ!」


 グリース宛の手紙に同封されていたのは二枚の領収書。

 一枚はグリースが壊した離れの扉の修繕費。

 それは解る。

 もう一枚はグリースが魔法で飲み込んだ為新調する羽目になったアランの武器代である。

 勝負に負けたとはいえ、そこはきっちりしていおきたいアランだった。


 今回の件でリシュの存在をもみ消そうとしたことが国にばれ、エフモント家は窮地に追い込まれている。

 信頼を取り戻そうと今はアランが奔走しているようだ。

 元々騎士団に属していた為、周囲からのアランの信頼度はかなり高い。

 そこに同情も集まり、ドルマンは益々頭が上がらなくなり近々譲位することも決まったようだ。

 

「大きな声をだしてどうしたんですか?」


 するとリシュが美味しそうな匂いをさせてシーラの元にハムエッグを運んできた。

 

「いや、アランから手紙が届いてな……。 こっちはいつもだ」 


「私宛て、ですよね」


 リシュは少々困り顔で手紙を受け取る。

 アランはリシュが離れで暮らしていた時も変わらず気にかけていたらしく、再会を果たし柵も無くなった今、重度のシスコンへと変わってしまった様だ。

 因みに呆然とする中で聞いたリシュの『あなたのもの』発言は相当ショックだったらしく、数日寝込んでいたようだ。


「あんな男に誑かされて……」


 次に起きた時にはグリースへの殺意しかなかったと聞く。

 コテンパンにやられた上に、以前ジーフリードの店で会った少年がグリースだったこと、更にはグリースの方が歳上だった事。

 敵対視される要素しかない。

 いつか殺されてしまうかもしれない。

 そんな懸念を抱くグリースだった。


「今回はなんて書いてたんだ?」


「『早く帰ってこい』ですって。 どうしましょうか……」


 リシュが難しい顔をしたことにグリースは慌てて椅子から立ち上がった。


「リシュ! まさか家に戻るつもりなのか!?」


 グリースの慌てっぷりにリシュは目を白黒させる。


「いえ、どう断りの手紙を書こうかと思ったんですが」


「そうか……」


 グリースは大きく溜息をついた。

 シーラはハムエッグを頬張りながら目尻を下げて二人を見ている。


「もう二人は完璧な恋人だねぇ」

 

 隣でリシュからもらったりんごを頬張っているトワも同じ顔をしていた。



 ◇



「グリースさん、後でジャムの味見してもらって良いですか?」


「さっきのジャムじゃなくて?」

 

 シーラが帰宅し食べ終えた食器の片付けを一緒にしていた時だ。

 

「柑橘系の美味しい季節になったのでそれで試作を作ったんです」


 そういってリシュは鍋から一匙スプーンでジャムを掬うと、グリースの前に差し出した。

 するとグリースは差し出されたその手を掴み、そのまま自分の口に運んだ。

 

「ん。 今回のも香ばしさは感じないな。 もうちょっと甘みがあってもいいと思うが……リシュ?」


「……」


 二人の元に再び平穏な生活が戻ってきた。

 お互いの気持も固まりより親密さは増したものの、こうした展開には未だ慣れないリシュは固まってみるみる顔を紅潮させる。

 それを見たグリースもパッと手を離し頬を赤くした。


「そうだ、リシュ。 相談があるんだけど」


 気まずさを解消しようとグリースはある話を持ちかけた。


「何ですか?」


「リシュが良ければ、ガブを呼び戻そうとおもうんだが」


「えぇ!?」


 ガブはグリースの体内に戻った事で只のぬいぐるみに戻ってしまった。

 今はリビングのチェストの一番日当たりのいい場所を陣取っている。

 

「実はな、ガブに魔力の調整を手伝ってもらおうと思っててな……」


 一度リシュの中に入った魔力は容量アップしてグリースの元に戻ってきたのだ。

 喜ばしいことだが、溢れんばかりの魔力の調整にしばし手間取っている。


「グリースさんが良いなら、私は大歓迎ですよ」

  

 グリースの提案にリシュも嬉しそうだ。

 するとグリースは首を傾けリシュの唇に自分の唇を重ねた。

 途端にリシュは頭から湯気を出した。


「グリースさん! 突然何ですか!?」


「いや、二人きりじゃなくなるからこういう事もあんまりできなくなるかなぁ……と思って」


「それはっ……そうかも、知れませんが……」


 不意打ちに嫌がる様子はない。

 寧ろ受け入れてもらった事にグリースの心中は穏やかではいられない。

 

(ダメだ……可愛すぎる……)


 そんな心の声も直に聞こえてきそうだ。

 

「ガブさん、私達の事覚えてくれてますかね?」


「『会いたかった!』とか言うんじゃないか?」


 リシュはまだぬいぐるみのガブを手に取り抱き締めた。

 そして初めて会った時の事を思い出す。


『おまえはオレのもんだ』と頬を撫でながら呟いた動くぬいぐるみと、その隣には『何でも願いを叶えてやる』と言ってくれた魔法使い。

 彼等に出会って二度目の人生が始まった。

 それはこれまで感じた事のない程にキラキラと輝き、そしてそれがこれから先も続くことを願う。 

 

「ガブさんとちゃんと仲良くしてくださいね、師匠(せんせい)

  

 聖女から魔法使いの弟子になったリシュは満面の笑みでグリースを見る。

  

「あぁ、努力するよ」 


 そういってグリースはリシュとガブの頭を優しく撫でた。





 

 これにて完結です。

 最後まで読んでくださり本当にありがとうございました。

 次回作でもまたお会いできますように。

 

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