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聖女に与えられたもの 2

『うんうん、その格好もかわいいな』


「もう! 恥ずかしいからそういう事言わないで下さい!」


 赤くなった頬を膨らませ眉を顰めるリシュを見て一人と一匹は満足気だ。

 赤い髪は高い位置で一つに括られ、動く度にそれが揺れる。

 服は白地に淡いピンクのラインが入った靴とお揃いの運動着で、痩せ気味のリシュの身体をすっぽりと包む。

 思わず抱きかかえて守ってやりたくなるような愛らしさだ。


(これは店員に感謝せねば……)


 心の中で勧めてくれた店員を褒め称えていた。


「それにしても、魔法って本当にすごいですね。 怪我してた筈なのに傷も痛みも消せるなんて……。」


 リシュは袖を捲くって昨晩ガーゼを貼っていた部分を見つめる。


『限度はあるが回復魔法も覚えりゃ医者要らずだぞ。 リシュの性格には案外向いてるかもしれないな』


「本当ですか?」

 

 首を傾け笑うリシュを見ていると昨日よりか幾分顔色がいい。

 ベッドに上がると瞬く間に寝てしまったと言っていたのでそれが効いたのかもしれない。

 

『よし、早速始めるぞ』


「はい。 ガブさん、グリースさん、よろしくお願いします」


 昨日の雨で地面には水たまりが沢山出来ていたが、空気がとても澄んでいて気持ちがいい。

 何かを始めるには好条件だ。

 

『じゃあこれからこの家の周りを走ってくるんだ』


「え? この周りって言っても、お家は結構大きいですよ?」


『まずは走り込みして体力をつけるんだよ。 最初は一周! さぁ行って来い!』


「は、はい!」




 およそ三分後。


 リシュは座り込みゼーゼーと苦しそうに息をしていた。


「……まぁ、運動なんて縁が遠かったんだろう。 いきなりはムリか」


 グリースとガブはふむと考える。

 

『よし、散歩に行くか』


 そう言ってリシュの動悸が治まるのを待ってから屋敷周りの森へ探索に出かけた。

 泥濘みに足を取られないようガブが手を引く。

 そして何とか辿り着いた場所には大人四人で囲める程の太さの大きな木が(そび)え立つ。

 グリースはガブを外すと木に手を当てた。


「誰かいるか? 居たら出てきてほしいんだが」

 

 すると太い木の根元がほわっと淡い光を出した。


「リシュ、なにか見えるか?」


「え? 何か居るんですか?」


「見えてないか。 ホラ、手を貸せ」


 そう言ってグリースはガブと手を繋ぐように指示を出した。

 言われたとおりにガブと手を繋ぐと、先程光った辺りに緑色の髪をした掌サイズの女の子がちょこんと座っているのが見えた。


「わぁ! かわいい!」


「よしよし。 彼女はドライアド、木の精霊だ」


『グリースさん、お久し振りですね。 そちらのお嬢さんはどなたです?』


「こっちはリシュだ。 俺の弟子みたいなもんだ」


『彼女さんじゃなくてお弟子さんでしたか! グリースさんがお弟子さんをとるなんて驚きです』


 『彼女』の一言にリシュは思わず赤面する。

 

「……まぁ、そこはそれぐらいで。 良ければドライアドの力を少し分けてほしいんだが」


『リシュさんに? じゃあ近隣に落ちてるゴミを集めてもらって良いですか? この辺にも最近人の出入りが増えて困ってるんです』


「お安い御用だ。 では交渉成立で」


『はい! ではリシュさん。 そのまま反対の手を貸して頂けますか?』


「は、はい!」


 ドライアドはリシュの手に飛び乗り何かを唱えた。

 するとドライアドの姿がよりはっきりと見えるようになった。


「最初にこうやって精霊達に少しずつ力を分けてもらったら成長スピードも上がる筈だ。 その代わりに精霊の頼み事を聞く。 等価交換だ」


「解りました。 じゃあ目一杯ゴミ拾いします!」


『よろしくお願いしますね』


 にっこりと笑い、ドライアドは手を離れ木の中へと戻っていった。


「何だか温かい気持ちになりますね」


『魔力がちゃんと吸収出来てる証拠なんだろ。 じゃあゴミ拾いに行くぞ』


 再びガブが現れリシュの頭をポンポンと優しく撫でた。


「はい。 がんばります!」


 二人は家に戻り、ゴミ袋をもってゴミ拾いを始める。

 そして袋一杯になる頃には相当な運動量となっていた。

 

「疲れましたけど、とっても気持ちいいですね」


『だな。 じゃあリシュ、ご褒美やるから目を閉じて口を開けてくれ』


「え?」


 リシュは緊張して面持ちで口を開けると、何やらコロンと丸いものが飛び込んできた。


『アメだ。 飲み込まずに口の中で転がしとけ』


「お、美味しいです……!」


『疲れた後は特にうまいよな。 今日の修行はここまでだ、お疲れさん』


 そしてリシュはガブに手を引かれながらこの甘さを噛み締めるのだった。






 




 





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