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再び聖女の力が目覚める

 二人はガブを追いかけエフモント家の屋敷へと向かったが、屋敷に近づくにつれリシュの呼吸が乱れ何度も足が止まってしまう。

 何年も軟禁されていた場所に向かうのだから無理もない。

 

「リシュ、大丈夫か?」


「……大丈夫、です。 まだ進め……きゃっ!!」


 するとグリースは冷や汗を拭うリシュを抱き上げ再び走り出した。

  

「グリースさん! 自分で歩けますから!」


「今の内に呼吸を整えとけ。 落ち着いたら下ろしてやるから」


 浮遊の魔法がかかっているのか、さほど揺れは感じない。

 リシュは真っ直ぐ先を見つめるグリースの横顔を見つめながら身を預けるのだった。


 そうしてようやく辿り着いた大きな門の向こうに、エフモント家の屋敷があった。

 リシュ達は警備兵の目を掻い潜りシーラが居る離れへと急いだ。

 兵士達が言っていたように、敷地内はとんでもなく広い。

 だがガブの誘導で屋敷から遠く離れた森の中、ひっそりと建つ小さな小屋を発見した。

 扉の前に来てリシュはとうとう座り込んでしまった。


『リシュ、本当に大丈夫なのか?』


 ガブがリシュに近づき背中を擦る。

 

「はい。 だって私には皆さんがついてますから」


 リシュは涙をためつつも笑顔で返す。


「なんだこの扉、魔力無効化の魔法がかかってる。 まさかシーラがやったのか?」


 グリースが訝しげに扉をペタペタと触わる。

 

「じゃあ扉を開けることは無理なんですか?」


「いや、これ以上の魔力で押し消せばいいだけだ。 なぁ、ガブ?」


『あぁ。 オレの魔力の足元にも及ばないさ』


「リシュ、ここの扉壊してもいいか?」


「えぇ。 思い切りやってください!」


 リシュは大きく頷いた。 


「よし。 ガブ、手伝ってくれ」


『おっしゃ!』


 そうしてグリースはガブを肩に乗せ、虚空の魔法で扉をどんどん腐らせていく。

 そして閉ざされた扉を壊し中を覗くとシーラが小さなベッドに横たわっていた。


「シーラ!!」


 リシュは直ぐ様シーラに駆け寄り懸命に名を呼ぶが返事がない。

 顔色も悪くぐったりしている。


「シーラ、しっかりして! お願いだから目を開けて!」 


 ようやくリシュの声に反応したシーラは目を薄っすらと開けた。


「……魔法使い様……?」


「え……?」

 

 シーラは覗き込むリシュの顔を見て呟いた。

 予想外の一言にリシュは目を瞬せた。


「やっと来てくれたんだ……! 会いたかった!!」


 そういってシーラは何とか体を起こすとリシュに抱きつきワンワンと泣き始めたのだった。


 まだ小さかった頃、クローバーを探している最中に敷地内で迷ってしまった時、偶然辿り着いたこの場所でリシュと出会った。

『あんな美しい魔法使いが居るんだ!』

 真っ赤な髪色を揺らして立つリシュの姿に子どもながらにいたく感動したという。

 それからあの家から出られなくなると悟ったシーラは、そうなる前にもう一度会うために敷地内を懸命に探しようやくこの場所に辿り着いたのだった。

 だが中には人など居た気配もなくシーラは絶望する。

 それでもここで待てばいつか出会えるのではと、必死に覚えた魔力無効化の魔法をかけ身を隠していたのだった。


「シーラは……私のこと覚えててくれたんですね……」


 シーラを抱き返し涙が一粒落ちた時、リシュの両手が淡い光を放った。

 以前レフカの傷を癒やした時と同じように淡い光が衰弱したシーラの体へと移っていく。

 ネズミの体と違い体が大きいためか、リシュの慈悲の力はゆっくりと流れていく。

 そしてようやくシーラの顔にほんのり赤みが差してきた時だった。


「ここで何をしている!!」


 静寂を切り裂く様な怒声が響いた。

 驚いて後ろを振り向くと、入り口でアランが立っていたのだ。

 強い魔力と魔力無効化の魔法が解けたことで異変に気づき駆けつけたのだった。


「アラン、お兄様……」


 シーラを抱いていたのが死んだはずのリシュだと気づき、アランは酷く動揺する。


「まさか……本当にリシュなのか? 生きていたのか!?」


 そしてシーラの顔色が良くなっていく様子に目を見張った。


「それは、聖女の力か……?」


 一歩近づこうとするアランの前にグリースが立ちはだかる。


「なんだ貴様は……」


「今はシーラを治す事が先決だ。 争う気はないから待ってくれ」 


 両者が睨み合う中、慈悲の力を使い切ってしまったのかリシュがふらりと倒れ込む。

 グリースが慌ててリシュを抱きとめた。


 その時、重く鈍い音が耳に響いた。


 その音にリシュが目を開けると、視界が赤に染まっている。

 リシュを抱えたグリースの肩にアランが剣を振り下ろしていたのだ。

   

「リシュを渡してもらおうか」


 アランは少しずつ柄を持つ手に力を込めていく。


「リシュを……? シーラじゃないのか?」


 咄嗟に《防御(プロテクト)》をかけたが既に傷が深い。

 だがグリースはリシュを離すまいと片方の手に力を込め抱き締める。


「聖女の力が目覚めて居るのならそれで充分だ」


 アランはグリースの肩から剣を引き抜くと、そのまま襟ぐりを掴みリシュから引き剥がした。

 

「グリースさん!!」

 

「さぁ、屋敷に戻るぞ」


 アランは立てなくなっていたリシュを抱き上げると、そのまま踵を返した。


「待て!! リシュはお前の妹だろ! リシュがここでどんな仕打ちを受けていたか知らないはずがない! お前はまたそこへ妹を引き戻すのか!?」


 グリースは手で肩を覆いながらアランを問い詰めたが、アランは振り返ることなくリシュを抱え離れから出て行ってしまった。




 ここまで読んでくださりありがとうございました。

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