欺くためには切り替えて動くことも重要
「お姉さん達魔法使いですよね。 ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが……」
ものの見事に向こうから近づいてきた。
視線もばっちりグリースに向けられている。
ここはシーラの情報が掴めるチャンス、グリースは裾から扇子を取り出し口元を隠した。
「お……私、こんな声ですし、お話するのは少し恥ずかしいので、うちの弟子とでも良いかしら」
これがジークフリード直伝の会話術である。
と言ったものの、羞恥心と慣れない言葉遣いに思わず顔を背け頬を赤らめる。
しかし高貴な印象からチラリと見せた初心な表情が、兵士達の心臓を鷲掴みにした。
「いえ、お気になさらないで! 寧ろハスキーでとても素敵ですよ!」
そして彼らは顔を赤くして褒めちぎる。
グリースの内面はとても複雑だった。
「あの、お聞きしたいことって何ですか?」
お呼びがかかったリシュが会話に混ざる。
「そうそう、貴女方はこの少女を何処かで見かけなかったですか?」
ピラっと出した一枚の写真には、シーラの姿が写っている。
リシュは心臓をギュッと掴まれたように胸が苦しくなった。
「その子に何かあったんですか?!」
思わず前のめりになったリシュを、グリースは持っていた扇子をピッとリシュの前に突きだし制止すると、首を左右に振った。
「ご存知ないですか……。 我々も詳しい事情は知らされていないんですが、どうも三日程前に屋敷から消えてしまったみたいなんです。 彼女はいつの間にか魔法も使える様になっていたみたいで、探すのに苦労しているんです」
するとグリースは再び口元を扇子で隠し上目遣いで兵士達をじぃっと見つめた。
「お屋敷の中全部探してもいないのですか?」
妖艶な瞳に見つめられ、兵士達はゴクリと生唾を呑んだ。
「え、えぇ、屋敷内くまなくです」
思わず声も上ずってしまう。
「……敷地内も?」
「敷地は広いですからね。 けれどお許しが出ている所は全て捜索したと聞いてます」
「そう……」
グリースはフッと目を伏せると、兵士達も緊張が解けた様子で息をついた。
「その娘、早く見つかると良いですわね。 丁度うちの弟子の妹を探しているところなので、とても他人事には思えませんわ」
「そうだったんですね! この勤務が終わった後に良ければ我々もお手伝いします!」
深紅の瞳に魅了され、兵士達はすっかり女帝の虜になってしまった様だ。
「まぁ、言質取ったわよ」
するとグリースは咄嗟に身体強化の魔法をかけ、兵士の腹目掛けて鉄拳を打ち込み、もう一人には膝蹴りを食らわせた。
兵士達は対抗する間もないままその場で倒れ込み気絶してしまった。
「口を隠すのってはなかなか使えそうだな」
口元を隠し相手の視線を自分の瞳に集中させる。
そのタイミングで傀儡の魔法をかければ誘導尋問など催眠術的な効果が得られる。
傀儡の魔法の応用だ。
目を回した兵士二人は縄でぐるぐる巻にし物陰へ隠した。
これで暫くは動けないだろう。
背後で一部始終を見ていたリシュは、やや興奮気味に羨望の眼差しをグリースに向ける。
「グリースさんてば女性になってもカッコいいです!」
「…………開き直りゃどうってことねぇ」
グリースは顔をひきつらせながら遠くを見るのだった。
兵士達の件も片付きグリースは一息つくと、視線をガブに向けた。
「なぁガブ、頼みたいことがあるんだが」
『ん? 何だ?』
「先にエフモント家に行ってシーラを探してきてくれ。 主に敷地内だ」
その言葉にガブとリシュは目を丸くする。
『今ので何か手がかり掴めたのか?』
「先程の兵士の話が気になってな。 お許しが出てない箇所、もしかしたら離れにいるんじゃないかと思ったんだ」
リシュは驚いて目を見開く。
「確信はないが探す価値はある。 シーラが見つかったら俺達もすぐ向かう。 頼まれてくれるか?」
『……どうやら当てずっぽうじゃなさそうだし行ってきてやるよ』
「あっちには魔法使いもいるはずだ。 慎重にいってくれ」
『らじゃ!』
ガブはリシュの腕からとびだすと、上空へ向かいエフモント家の方角へと飛び去った。
その様子を見つめ、リシュは不安げな表情を浮かべる。
「シーラがあそこに……」
グリースは唇をキュッと引き結ぶリシュの肩にポンと手を置く。
「シーラはガブの存在を知ってるし、会えばすぐに俺達の事にも気づくはずだ。 とりあえず俺達は屋敷に戻ってガブを待とう」
リシュはコクリと頷き、二人は先に屋敷へ戻りガブの帰りを待つことにした。
◇
『おい! シーラを見つけたぞ!!』
屋敷に着いて一時間も立たない内にガブが戻ってきた。
「場所は?」
『お前の読み通り敷地内にある古い家の中だ。 どうする? 今から行くか?』
「あの! シーラは無事でしたか?」
『意識はあるが衰弱してる。 水かなにかは持って行ってやったほうが良い』
「リシュ、どうする?」
「……勿論行きます!」
リシュはぐっと両手に力を込めた。
「よし、じゃあ決まりだな」
すると会話に入ろうとトワが二人の間を逡巡する。
それを見てリシュはトワの首襟を優しく撫でた。
「トワちゃんはお留守番してて下さいね」
トワはゾーイ達から預かっているフェンリルだ。
傷つけるわけにはいかない。
トワもリシュの言葉を理解している様で、顔に頭をゴリゴリと擦り寄せてくる。
だが金色の瞳はもの悲しげだ。
「ちゃんと帰ってきます。 だってここが私の家だから」
リシュはトワを抱き締め小さく呟いた。




