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溢れた力の使い道 2


「グリースさんの《虚空》の魔力で動くガブさん、ていう事ですか?」


『あぁ、だからちゃんと自我もある。 魔力が原動力だから使い魔に近いし結構自由に動けるぞ』


 そうしてガブはふわりと体を浮かせ軽く天井を飛んでみせた。

 それを見てグリースも物珍しげな顔をする。


「レフカに近いかと思ってたが、実体があるのに飛べるのか……これは驚いた」


「そうですね……」


 リシュも同様にガブを見つめていた。

 眠っている間に何があったのか一つ一つ順を追って説明を受けたのだが、リシュはまだ浮かない表情をしていた。


『えっと……リシュはなんでまだそんな顔してるんだ?』


「え……」


『オレがこうして具現化すればリシュの体に魔力が溜まって倒れる事もなくなるし、オレと話だってできるじゃないか。 なのになんでそんな元気ないんだ?』


 ガブが顔を近づけ心配そうに顔を覗き込む。

 プラスチックだった瞳は今や生気に満ちた深紅の色味へと変わっている。


「嬉しいです。 嬉しいんですが……私は……」


 リシュは俯きキュッと手を握った。


「その力を……グリースさんにお返ししたかったです」


 もの悲しげに呟くリシュに、二人は思わず黙り込む。

 確かにそうするのが最善だったかもしれない。

 元に戻す方法が見つかっていないとはいえ、そこに意識が回らない所を見ると、互いに固執している部分があるように思える。

 グリースは《虚空》の魔法使いではなく傀儡使いと名乗り、ガブも『グリースを困らせてやる』と言っていた。

 それは何故なのか、引き出す話題も思いつかず、リシュは瞼を閉じた。

 

「私、何だかお腹空いてしまったので何か作ってきますね」


 そう言ってリシュは立ち上がると、トワと共に居室を後にし台所へと向かった。


(いつか和解出来ますように……)


 今の自分にはその日が早く来るのを願うだけだった。


 

 ◇



 ガブがやってきた事で、リシュはグリースの指導の元で薬の調合に挑戦することにした。


「ガブさん、この匂いってどうですか?」


 リシュは薬の入ったビーカーをガブにさしだす。


『お! 花のいい香りだ……なぁ……』


 匂いを嗅いだガブは、ふぅっとそのままころりと寝落ちてしまった。


「……まだ調整が出来てないみたいです」


 リシュはぐぅぐぅと眠ってしまったガブを抱き上げグリースに報告する。


「魔力が不安定だからか、睡眠薬から強力な眠り薬になったのか。 やっぱりちゃんと《虚空》の魔力を抜かなきゃならないか」


 《虚空》の魔力を失ったグリースの代わりにリシュが薬の調合を試みたのだが、これでは店に置けない。

 だからといって魔力を抜くにも躊躇している。

 それはガブの存在だ。

 グリースに魔力を返せばガブも元の人形に戻ってしまう可能性もあるので、その判断はガブに委ねられた。

 二人は新たに生まれた存在を無下には出来なかったからだ。

 

 そんなある日の昼下り、ある一つの記事が目に飛び込んでくる。


――――『エフモント家次女、失踪。 情報提供求む』


「え!?」


「グリースさん、どうかしましたか?」


「アイツ、とうとうやったみたいだ」


 額に手を当て嘆息を漏らすグリースの手に握られていた記事にリシュも目を通す。

 

「シーラ……まさか本当に出ていったんでしょうか」


「わからない。 だが次見つかれば今度こそ軟禁されるかもな」 


「そんな……」


 リシュは胸の前で手を握り昔の自分を思い出す。

 シーラが聖女として目覚める時期がいつなのかわからない為最悪の事態は避けたい。

 リシュは意を決してグリースに問うた。


「グリースさん、シーラを助けたいです。 どうしたら良いでしょうか」 


「……連れ出すには今かもしれないが、場所がわからない以上は連れ出す前にこちらが見つかる可能性が高い。 とにかく今はシーラの行きそうな場所を探すの先決だ」


『それならオレに任せろ』


 二人の話を聞いていたガブがふわりと近づいてきた。


『人間が動けば見つかる可能性が高いが、ぬいぐるみならいけるんじゃないか?』


「そんな、ガブさんだってあぶないじゃないですか! これは私のわがままなのに巻き込むのは……」


 するとガブがリシュを宥めるように頭を撫でた。


『オレは今はリシュの使い魔だ。 主の為に動くのが基本中の基本だろ』


「だったらグリースさんの為に動いてください」


 リシュの提案にガブもグリースも目を丸くした。


『なんでこいつにつかなきゃならないんだよ!』

 

「私は《虚空》の使い手ではありません。 ここはグリースさんの側に居てあげて下さい!」


『でも……』


 するとリシュはグリースの手をとり、逡巡するガブの手に重ねた。


「私は魔法が使えるお二人がとても羨ましいですし、大好きなんです。 お二人のかっこいい所、見せてください」

  

 そう言ってリシュはとびきりの聖女スマイルを見せた。

 こうなるともう逆らえない。


「ガブ、諦めてここは大人しく従おう。 お前もリシュの力になりたいだろう? その気持ちは俺も同じだ」


『…………』


「ガブさん、お願いします」

 

 懇願するリシュを見てガブは照れた様子で顔を背け、ちらりとグリースを見る。


『……リシュの為というなら仕方なしだ。 せいぜい足引っ張らないよう気を付けろよ』


「あぁ、そっちもな」 


 そして二人と一匹はシーラ奪還の為に動き出すのだった。



 






 

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