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溢れた力の使い道

 リシュの顔色、脈は問題ない。

 どうやら眠っているだけの様だ。 

 グリースは溜息をもらすと、リシュを抱き上げ居室のソファへ運んだ。

 

「さてどうしたものか……」


 眉を寄せ、ソファですうすうと眠るリシュを見つめる。

 部屋が森林と化してしまった原因は、やはりグリースの魔力を取り込んだことで体内に収められる魔力量が容量を超えてしまったからだろう。

 今までならその魔力を別の入れ物に移し替えれば済んだのだが、取り込んだ魔力量は余りにも膨大で、リシュの体にも他の入れ物にも到底収まりきらない。

 森林化だけでは済まない可能性がでてきた。


「わぅっ、わぅっ!」


 さっきからソワソワと落ち着きがなかったトワが、リシュの異変を感知したのか、突然グリースの服の袖を噛みグイグイと引っ張った。


「トワ、どうした?」


 がぅ! とひと鳴きすると、その声にピクリとリシュの体が反応した。

 ゆっくりと体を起こし、薄っすらと開いた瞼からは紅蓮の瞳が垣間見える。

 彼女は虚ろな面持ちで髪を手櫛で整えた後、隣りにいたトワの顔をわしゃわしゃと撫でた。

 

『賢い犬だな』

 

 いつもならばゴロゴロと喉を鳴らすトワも、流石に戸惑い尻尾が垂れてしまっている。 

 リシュの声なのに、普段の雰囲気とまるで違っていた。 

 

「リシュじゃない……誰だ?」


 グリースと目があったリシュは、足を組みふふっと口角をあげて笑った。


『《虚空》の魔力さ。 人間のリシュならこの中にいる』 


 赤い瞳のリシュはトン、と親指で胸元を突く。

 どうやら体内で増幅した魔力がリシュの意識も支配し、表にでてきてしまったようだ。 

 懸念していた事態が起きグリースの顔が険しくなる。


『そんな怖い顔しないで。 悪いようにはしないから』


「……本当だろうな?」

  

 グリースから向けられる冷たい視線にリシュは両手を上げる。

 そして足を組み替えると大きな溜息をついた。


『ていうか俺も想定外だったんだよ。 リシュが聖女で、しかも魔力を増産出来る体質だったなんてね』


「《虚空》の魔力まで増産されてるっていうのか?」


『あぁ、しかもまだまだ止まりそうにない。 このままじゃ器の方が先に壊れてしまうから、それを何とかするために出てきたんだよ』


「何とかするって……リシュをどうするつもりだ」


『そんな目で睨むなって。 俺だってリシュと一緒にいたいだけで、体を乗っ取りたい訳じゃない。 力を預けた俺にも非があるんだ、何とかしてみせるさ』


「力を預けた?」


 リシュはソファから立ち上がると、グリースの横をスルリと抜けて部屋の中を歩き回る。

 そして見付けたのは、背の低いチェストにちょこんと座っていたガブだった。

 

『これの体を使おうかな』 

 

 赤い瞳のリシュはガブを360度ぐるりと回して大きな綻びがないのを確認すると、うんと大きく頷き再びソファに腰掛けた。


「ガブを使って何をするんだ?」


『このぬいぐるみ、ガブっていうんだ。 僅かだが魔力も感じるし名前もあるから好都合だ。 ここに俺が入ってリシュの溢れた魔力をもらってやるよ』


 リシュはガブの両手を握り赤い瞳を伏せると、小さな声で何やら詠唱をし始めた。

 するとリシュの体から青白い光がポコ、ポコと幾つも浮き上がると、それらが手を伝ってガブの体へと送られる。

 ガブに血液が流れていくような不思議な光景に、グリースもトワも息を呑んだ。

 そして最後の一つがガブに吸収されると、リシュの膝に座りじっとしていたガブの耳がピクリと動いた。

 同時にリシュも瞳をゆっくりと開き顔を上げる。


「あれ? 私は何を……」


 どうやら魔力に乗っ取られていた間の記憶はないらしく、ぽかんと目を丸くし小首を傾げている。

 それを見たグリースは安堵の表情を浮かべそのままリシュを抱き締めた。


「私、また何か心配かけてしまいましたか?」


 リシュは戸惑いながらもおずおずとグリースの体を抱き締め返す。


「あぁ。 アイツがでてきた時はどうしようかと思ったぞ」


「? アイツって誰ですか?」

  

『オレのことさ』


 すると二人の間をガブがモゾモゾと顔を押し出しニヤリと笑った。


「ガブさん! なんで動いてるんですか?」


『リシュから溢れた魔力でオレを作ったんだ。 これでリシュがどれだけ魔力を増産してもオレが使ってやれるから心配ないからな』


 虚空の魔力――――改めガブは、どうだと言わんばかりに鼻息を荒くする。


「溢れた魔力? 代わりに? ガブさんが動いてて……えっと……何が一体どういうことなんでしょうか?」


 目覚めたばかりで状況が飲み込めないリシュは困惑した目で周囲を見るのだった。







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