虚空の力と聖女の力 2
虚空の力を無力化されたグリースに残っていたのは虚空以外の《地》《火》《水》《風》の力、そして傀儡を操る力だった。
魔法使いにはそれぞれ属性があり、グリースの場合はそれが《虚空》である。
勿論他の属性の魔法も使えるが、どれも基本程度で使える種類はさほど多くない。
結果虚空の魔法が使えなくなった事で、グリースが扱える魔法は通常の二割程になっているのだ。
「確かにここでなにかあった時に対処出来ない可能性があるよな……」
とりあえず屋敷にある本を手当たり次第読んでいったが、手掛かりは一向に掴めない。
無力化された虚空の力を復活させる。
それは決して容易な事ではなかった。
「あの、グリースさん。 こんな時に申し訳ないんですが、ちょっといいですか?」
書斎に籠もっていたグリースの元に、リシュがヒョコリと顔をだした。
「どうした?」
「これ、味見してほしいんです」
そう言って差し出したのは、リシュがいつも作っているジャムが乗ったスプーンだ。
「新作か?」
「いえ、前にも作ったことのあるベリーのジャムなんですけど、感想を聞かせてもらえませんか?」
グリースは差し出されたスプーンを口に運びその味を確かめた。
ベリーの甘酸っぱい香りはするものの、普段のものより甘みが少なく香ばしい苦味を感じる。
「正直に言うけど、こんな苦味あったっけ?」
「いえ、いつもと同じように作ってるんですけど、何度やってもこんな味になってしまうんです」
「何度やっても?」
「はい」
そう言ってリシュはしゅんと肩を落とす。
グリースも顎を撫でその原因を共に考えていると、なにやら思いついたのか薬の調合室へ向かった。
そして持ってきたのは以前魔法の練習の時に使った茶花の種だった。
「これをやってみてくれないか?」
「わかりました」
リシュは台所へ戻り、熱いお湯を注いだポットを持ってきてそこに茶花の種を入れた。
「《開花》」
リシュは胸の前で手を組み呪文を唱える。
すると茶花の種がポットの中でブルブルと震え出した。
二人でその様子に目を丸くした次の瞬間、茶花がボン!と一気に花開いた。
「なんだかいつもと様子が違う気がしましたね……」
「ちょっと怖い気もするが味見してみるか」
それをカップに注ぎ同時に口をつけた。
………………。
「これも香ばしい味がしますね……」
「俺達の舌がおかしくなったのか? それとも無力化に関係するのか?」
それからリシュは普段から作る料理の中から何品か作り、その都度味見を繰り返す。
そしてとうとう二人だけでは判断しきれなくなり、トワにも好物の料理も作り味見を頼んだ。
結果は同じだったのか、ご飯を出されたトワも一口食べるだけでそれ以上は口にしなかった。
「これって私達の舌がおかしいわけじゃないって事ですよね?」
「どれを食べても味が同じだなんておかしな話だが、もしかしたら虚空の無力化に関係してるのかもしれないな」
「この苦味がですか?」
「恐らくリシュは魔力を《無力化》したんじゃなくて《吸収》したのかもしれない」
「えぇ!?」
「じいさんが言ってたみたいにリシュが作るものに聖女の力が混ざるなら、リシュの体内に虚空の力が入ってそれが苦味になって出ているのかもしれないってことだ。 もしそうなら毒の症状から一気に回復したのも肯ける」
「そんな……」
「まぁこの問題が解決するまでは薬もジャムも作るのはやめた方が良さそうだな」
「はい……」
リシュは眉を下げ床に視線を落とした。
側にいたトワが俯くリシュを気遣い擦り寄う。
新たな問題に二人は同時に溜息をつくのだった。
◇
その日の晩の事だった。
『一人で居るのはもう嫌だ……』
今にも泣きそうな少年の声が聞こえる。
リシュは目を開けぼんやりとあたりを見回した。
何もない暗闇の中。
そんな中でフッと周囲を照らす様な煌々とした赤い髪色の少年が立っていた。
さっきの声の主だろうか。
リシュに気づいた少年はギラリと鋭い目つきでこちらを睨んだ。
彼はギュッと唇を引き結び険しい顔つきだが、見透かされそうな澄んだ赤い瞳にリシュは一瞬にして目を奪われた。
『なんでこんな所にいるんだ。 さっさと出ていってくれ』
子どもとは思えない冷たい声にリシュは思わず肩を上げる。
少年はサッとリシュに背を向けると、スタスタと向こうへ歩き出した。
あたりは真っ暗で、小さな光も見当たらない。
エフモント家の離れに居た時の事を思い出しブルッと身震いをする。
恐怖でリシュは思わず少年の後を追った。
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