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波乱の足音

 フェンリルのトワが屋敷に来て一週間。

 二人はすっかり屋敷での生活に馴染んだトワを連れて近くの丘までピクニックに来ていた。

 

「ここなら存分に走り回れるぞ。 ほら行って来い」


「あんまり遠くに行っちゃダメですよ!」


「わふ!」


 二人の声とほぼ同時にトワは白い花で埋め尽くされた草原を駆け出した。

 この一週間で一通りの命令を聞き入れる程の信頼関係が出来た為、今日はトワの羽を伸ばしに遊びに連れてきたのだった。

 体の大きいフェンリルには森の中はなかなか歩きづらかった様で、トワは飛び跳ねるようにして周囲を走り回っている。


「トワちゃん、すごく喜んでますね」


「あぁ、連れてきて正解だったな」


 そう言ってグリースは草原にごろりと体を横たえた。

 日差しは少し暑いが、草を揺らす風は少しひんやりとしていて心地がいい。

 するとリシュもグリースにそろりと近づきころりと横になった。

 

「わ、私もお隣、良いですか?」 


「っあぁ……」


 『もうすでに隣にいるのでは?』と思ったのだがどうも違うらしい。

 グリースの返事を聞いてポワっと赤くなったリシュは、おずおずとグリースの体に自身の体をピタリと寄せた。 

 丁度腕枕をしている位の位置に。


「ここのところずっとトワちゃんといたから、今日はやっと二人になれるかな……と思って」

 

 先日の件から暫くの間、トワはグリースを近づけまいとリシュにくっついたままだった。

 リシュの説得のお陰で無事にそれも落ち着いたのだが、その間恋人らしいことは全く出来ていない。

 そこでリシュはレフカに相談を持ちかけ、距離の詰め方を教わったのだった。

 それがこの結果なのだが。

 リシュの勇気が底尽きたのか、これ以上動けなくなってしまう。


(こ、ここからどうすれば……)


 実はグリースも同じ悩みを抱えていた。

 しかし縮こまっているリシュを見てグリースも意を決し、リシュの顎に手を添え上を向かせるとゆっくり顔を近づけていく。

 お互いの息がかかろうか、という時だった。


「がぅ!! がぅ!!」


 その声に二人はガバッと飛び起きた。

 遠くでトワが何やら見つけたのか、唸るような声を上げていた。

 

「あの声はもしかしてトワちゃんでしょうか」


「何か見つけたんだろうが、どうも様子がおかしいな……」

 

 グリースとリシュはトワの声がする方へと急いで向かった。


 

 トワが待っていたのは森に近い岩窟の前。

 その奥には二つの光が見える。


「あれは……針狼犬(スパイニーウルフ)か?」


 グリースは指に魔灯を点しすっと岩窟の奥に指を差す。

 大きさはトワと同じ位だが酷く衰弱している様だ。

 青白磁色の毛皮には重厚な金属製の投網が絡まり、矢が刺さったままの箇所は毒が塗られていたのか青紫色に変色している。

 リシュは口元を抑えガタガタと体を震わせる。


「酷い……」 


「危険種だから討伐対象になったんだろうが、妙だな」

 

 通常であれば魔獣の討伐に投網など使う事などないのだが、ここでは金属製の投網が使われている。


「狩られたのか」


 針狼犬(スパイニーウルフ)は危険種Aランクの魔獣である。

 その名の通り針の様な鋭い毛に覆われているのだが、その毛皮は金属製の鎧より遥かに軽い為、希少価値のある防具として重宝されているのだ。

 

「だとしてもこんな状態で放置するなんて……」 


「衰弱させてから連れ出すつもりだったんだろう。 だがこいつからしたら……」


 するとリシュはボロボロと大粒の涙を流し始めた。

 

「こんなの酷すぎます!」


 リシュは針狼犬(スパイニーウルフ)に走り寄ろうとしたが、直ぐ様グリースに腕を掴まれ引き止められる。


「気持ちはわかるがコイツはかなり危険だ! ここは一旦家に戻って薬でも……」


 するとトワが再び大きく唸り声を上げた。

 後ろを振り返ると、五、六名程の男達がグリース達を囲んでいた。


「何か動物の鳴き声がするから戻ってみればフェンリルの子どもがいるじゃねぇか」


 剣や弓等の装備を見て針狼犬(スパイニーウルフ)のケガは彼等の仕業だと伺える。


「俺等の獲物を横取りしに来たのかもしれないが、そのフェンリルを渡せばここは見逃してやるよ。 おや……?」


 男は泣いているリシュに気付いたのか、ニヤリと口の端を上げた。


「かわいい女もいるじゃねぇか。 ならばそっちも置いていってもらおうか!」


 男が剣を振りかざしグリースに飛びかかろうとした瞬間。

 

「グワァ!!」


「ギャァッ!」


 男は正面から飛びかかってきたトワに腕を噛まれ悲鳴を上げ剣を落とす。

 

「トワ、下がれ!」


 男達が怯んだ隙を見て今度はグリースが片方の手袋を外しその手を地面につけた。


「『虚空・(セイ)』!」


 すると地面を揺らす地鳴りと共に地面がボコボコと隆起すると、まるで生き物の様に土が蠢き三メートル程の巨人の姿へと変わっていった。


「ゴーレム!? に、逃げろぉぉ!!」


「逃がすか!」


 今度は傀儡の魔力を溜めていたもう片方の手を弓を番える様に後ろへ引くと、その場にいた男達を縄で一括りにするように動きを封じる。

 そこへゴーレムが近づきひとまとめになった男達をググッと抱きかかえた。


「『虚空・退(タイ)』」

 

 途端にゴーレムはドシャリと崩れ、大きな盛り土の山へと戻ってしまう。

 その中にはゴーレムに捕まっていた男達が顔だけ出した状態で生き埋めになっている。


「た、助けてくれ……」


「お前らが針狼犬(スパイニーウルフ)にしたのと同じだ。 毒じゃないだけ有り難いと思え」


 ガックリと頭を垂れ失神した男達を確認すると、グリースはリシュの姿を探した。


 

 


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