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『ありがとう』を伝えたい

「何だそれは! 勝手にも程があるだろう!」


 声を荒らげカウンターを叩くゾーイの隣で、テオも眉を顰めてウンウンと頷いている。


「確かにこの国では聖女の存在って大きいですよね。 先見の目や治癒の力で災害や疫病を回避できたりするから助かっているのも確かですし。 でも裏ではそんな事があるなんて考えてもみませんでした」


「私が至らないせいでシーラに皺寄せがいってしまって……だからこれは私のせいなんです……」


 そう言ってリシュは呟き暗い影を落とす。

 するとグリースがリシュの肩に手を置いた。


「それは違うと言ってるだろう。 問題なのは聖女への執着心が強すぎるエフモント家だ。 そんなに自分を責めるんじゃない」


「グリースさん……」


 ほんのり顔を赤らめるリシュを見て、ゾーイとジークフリードは冷ややかな目をグリースに向ける。


「グリース、お前までリシュを泣かしたら承知しねぇぞ」


「その時は異空間に放ってやろう」


「は? 何でいきなりそんな話になるんだよ」


 グリースは二人から向けられた冷たい視線に解せないという顔をする。

 そんな三人の隣で、テオが口元に手を当て何やら考え込んでいた。

 

「リシュさんは動物はお好きですか?」


「はい、好きですが……」


「では失礼しますね」


 テオは腰につけていたポーチから金貨を一枚取り出すと何やら呪文を唱え始めた。

 するとボワンと白い煙と共に白銀の毛並みに包まれたフェンリルが姿を表した。

 ゾーイ以外の三人は目を瞬かせた。


「この子はフェンリルの子どもです。 良かったら撫でてみますか?」


「え? 良いんですか?」


「噛みつかないように躾けてますから大丈夫ですよ」


「では……失礼します」


 子どもとはいえ大型犬より一回り大きい。

 リシュはゴクリと息を呑み、フェンリルの背中に手を伸ばした。

 

「もふもふです……!」


 リシュの瞳がキラキラと輝き出す。

 毛艶も良く毛足の長い一級品の絨毯の様な手触りだ。

 フェンリルもリシュが気に入ったのか、金色の瞳を細めてグルグルと喉を鳴らし体を擦り寄せた。

 

「わぁ、リシュさんの事もう気にいったみたいですね」


「コイツはなかなか見る目があるな」


 テオとゾーイが目を開きフェンリルの反応を確認すると、二人は顔を見合わせうんと頷いた。


「リシュ、良かったらこの子と暫く一緒に過ごしてみないか?」


「一緒に……?」


「今のリシュさんには癒やしが必要です。 二週間ほどお貸ししますから、この子にしっかり癒やされて下さい」


 リシュは一瞬目を輝かせたが、すぐさま首を横に振った。

 

「でも、私一人の意見では……」


「いや、全然構わないぞ」


「えぇ!?」


 隣でリシュの様子を窺っていたグリースは鷹揚と返事をした。


「テオの言うとおり、リシュ自身が健康でなければ先に進みたくても進めないのは確かだ。 ゾーイ達がいいと勧めてくれるんだ、一緒に暮らしてみても良いんじゃないか?」


「理解のある家主だな。 では明日にでも取引しようか」


「この子を連れて伺います。 詳しい説明はその時にお話しますので」


 当の本人達を置いて話は着々と進められていく。 

 フェンリルの子どもはリシュをジッと見つめ小首を傾げているが、尻尾を振っているところを見るといたくリシュが気にいった様だ。

 そうしてグリース達は暫くの間、フェンリルの子どもを預かることになった。





 ◇





 その日の夜。

 リシュはいつもの様に布団に入るもなかなか寝付くことが出来なかった。  

 怖い夢を見たわけではないが、シーラの事を思うと不安が波の様に押し寄せては引いていく。

 それの繰り返しだった。

 リシュは体を起こし、大きな溜息をついた。


(皆さんのいうとおり、これじゃ駄目ですよね。 ちゃんと自分を元気にしていかなくては!)


 リシュは『よし!』と小さくガッツポーズをすると、一旦水を飲みに寝間着のままそっと居室へ向かった。

 明かりの付いた居室をそっと覗くと、ソファにガブが肘置きにもたれて座っているだけで人の気配がしない。

 リシュはガブを手に取ると、頬を寄せてギュッと抱き締めた。


「ガブさんも沢山助けてくれてありがとうございます」


 ガブが使い魔ではなくグリースの魔法で動いていたのには驚いたが、それでも抱いていると安心する。

 その時、昔の自分をぼんやりと思い出した。


(そういえば、昔大好きだったぬいぐるみがあったような……)


「ボーッと突っ立って何やってるんだ?」

 

「ひゃう!!」


 背後から呼びかけられリシュは飛びあがった。


「グリースさん、起きていらしたんですか?」


「あぁ、ちょっとな。 リシュこそまた怖い夢を見たのか?」


「いえ、私もちょっと……」


「そうか。 ……良かったらここで少し喋るか?」


 そう言ってグリースはソファに腰掛けると、続けてリシュもガブを抱いたままグリースの横に座った。


「あの、お兄様は……どんな感じでしたか?」


「そうだな、手練でなかなか隙のない人だったよ。 あの時は魔法を使ってたけど、きっと剣術も達者なんだろう」


「そうなんです! お兄様はまだ母が生きていた頃から剣術をやってたんですよ。 きっともっとかっこよくなってるんでしょうね」


「うん、まぁ確かにかっこよかったが」

 

「も、勿論グリースさんの方が何倍もかっこいいですよ! 魔法を使う時もかっこいいのに、剣まで振れるなんて、そんなのカッコ良すぎて見れないです!」


「え? あ、あぁ……」


 リシュの思わぬ告白であっという間に部屋中が甘い空気になってしまう。

 二人共が言葉を詰まらせてしまった為、静寂の時が訪れた。

 時計の針がカチカチと動く音だけが響く沈黙の中、先に口を開いたのはグリースだった。


「なぁ、シーラの件だが……リシュはどうしたい?」


 リシュはビクリと肩を上げるも、膝の上でギュッと手を握り真剣な眼差しでグリースを見た。


「……烏滸がましいかもしれませんが、シーラを助けたいです。 そして、お兄様とも話がしたいです」


「そうか。 じゃあタイミングを見計らって助けに行くか」


「本当に良いんですか? 私の勝手な申し出なのに……」


「言っただろ、『リシュが望むことなら何でも叶えてやる』って」


 目を細めて笑うグリースを見てリシュの胸の奥から熱いものが込み上げてきた。


(あれは冗談じゃなかったんだ……)

 

 初めて言われた時のように、グリースの赤い瞳には自分の姿が映っている。

 あの言葉がどんなに嬉しかったか。

 何もかも無くした自分に手を差し伸べてくれたあの日の事を思い出し目尻に涙を浮かばせる。 

 リシュは口を引き結ぶと、グリースの手に自分の両手を重ね、キュッと握った。


「リシュ?」


 その返事は返さぬまま、そのまま身を乗り出しグリースに顔を近づけると、そっと頬に唇を当てた。

 もう少しズレれば唇、という所。

 その瞬間、互いの髪がふわっと触れ合い、互いの息が頬を擽った。

 リシュはゆっくり身体を離すと潤んだ瞳でグリースを見上げ、恥ずかしそうにはにかんだ。

 グリースはというと、何が起きたのか分からず固まっている。


「ありがとうございます、グリースさん」


 満面の笑みを見せたリシュだったが、グリースの反応で我に返ったのか、耳までぐんぐん真っ赤に染まっていく。


「わ、私! 今夜はこのままガブさんと寝ますので! お、おやすみなさい!」

 

 リシュはソファから勢いよく立ち上がると、ガブを抱いて居室からパタパタと急ぎ足で出ていってしまった。

 残されたグリースはというと、ズルリとソファに転がり首まで赤くなっていた。

 

(何だあの可愛い生き物は!!!!)


 これまで見たことない、愛らしさとほんのり色気を纏った表情。

 恋人になるとそれがこれからも見れるのか。

 心臓がいくつあっても足りない気がする。

 色々と叫びたい気持ちを必死に抑え込んだ。

 

 そして。


(さ、先越されてしまった……)


 自分からと考えていた矢先にリシュに先を越され、躊躇していた自分の不甲斐なさに頭を抱える。

 しかしふと気づいたのだ。

 

(唇には触れてない!)


 リシュの唇が触れたのは口元である。

 ということはまだチャンスは残されている。

 その事実に辿り着いたグリースは右手をぐぐぐっと握り締め、次こそはと一人おかしな闘志を燃やすのだった。




 



 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで読んでくださりありがとうございました。

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 どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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