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二人の気持ち

 まさに一触即発の状態だった。

 しかし、周囲を見回すと壁や床には所々に亀裂が入り、清掃後にも関わらず床も木屑だらけで雑然としている。

 ヴァルトは小さく息を吐くと気を鎮め身なりを整えた。


「久しぶりに稽古をつけてやろうと思ったが、今日はここらで止めておこうか」


 ヴァルトの言葉にグリースも杖を下ろし安堵した。

 ようやく自身の腕を動かし怪我の具合を確認すると、大怪我とまではいかないが熱傷の範囲は広く、ジリジリと痛む。


「ちょっとは手加減しやがれ! このクソジジイ!」


「この戯けが! あれぐらいせんと大人しくならんくせによく言いよるわ」


「そもそも煽ったのはそっちだろうが!」


「二人共いい加減にしてください!!」


 割って入ってきたリシュの声に二人は慄いた。


「争わずに解決する方法もちゃんと考えてください! 私は仲の良いお二人が争う姿なんて見たくありません!」

 

 何度拭いても涙は溢れポタポタと床を濡らす。

 元々争い事を嫌うリシュにすれば、身内で啀み合う姿など胸が張り裂けるような思いで見ていたに違いない。


「その……怖い思いをさせてごめん」

 

「今回は許さないです。 そんな酷いケガまでして私を庇うのは止めてください」

 

 目に涙を溜めながら眉間に皺を寄せて怒る姿に狼狽えてしまう。


「庇うとかじゃなくて、俺はただリシュを……」


 リシュの泣き顔を見てようやく冷静になってきたのか、グリースはいつもの様に大事な言葉を詰まらせる。

 それを見ていたヴァルトはリシュに近づき背中を優しく撫でた。


「不安にさせて悪かった。 だがさっき申した事は真の話だ。 リシュはどう考えておるんだ?」


「……私はグリースさんには今のまま強い人であって欲しいです。 ですから私がここにいるべきではないのなら大人しくここを出ていきます」


 するとグリースはリシュの手を取り自分の胸に当てると、じっとリシュを見据えた。


「……俺はリシュを守るためにここまで鍛錬を積んできたんだ。 リシュが居なきゃ俺の力は意味を成さない。 だから出ていくとかそんなこと言わないでくれ」


「グリースさん……」


 少し泣きそうな、けれど熱の篭った赤い瞳に見つめられ、リシュの表情は徐々に和らぐも頬を染め困惑した表情に変わっていく。

 隣でヴァルトが眦を下げた。

 

「後は二人で決めなさい。 儂はそろそろお暇するとしよう」

 

「……別れろ、とか言わないのか?」


「それは《虚空》の賢者としての意見だ。 だが爺さん目線で意見するなら、お前達がそれでいいならそれでも構わん。 まして可愛いリシュが孫になるなら大歓迎だよ」


 先程までの様子とは打って変わって、穏やかな顔をするヴァルトをリシュは不思議そうに見つめた。

 

「先ずは互いの気持ちをちゃんと伝えなさい。 特にグリース、お前は何でも内に溜めすぎだ。 人形なんぞ使っとらんとしっかり向き合え」


「え、何でその事まで知ってるんだよ」


「人形も今回の事も全てジークから聞いてな。 アイツもお前を心配しとったぞ」


「あのおっさん……」


 グリースは複雑な顔をして頭をガシガシとかいた。

 ヴァルトは指を鳴らし部屋を元の状態に戻すとリシュの肩をポンと叩いた。

 

「リシュよ。 お前が作ってくれたジャムだが、薬を作るよりそれを世に出す方が良いと思うぞ」 


「え……?」


「聖女の力が込められていると言っただろう。 慣れぬ所で頭を使うより、調理場で楽しく作る方がより良いものもできるし、何より……」 


「何より?」


「儂が食べたいのだ」


 眦を下げて笑うヴァルトを見てリシュはようやく顔を綻ばせくすくすと笑った。

 そして台所へ向かうと小瓶にジャムを詰めるとリボンをかけて手渡した。


「これ、まだ沢山あるので持って帰って食べてください」


「おぉ! 分けてもらえるのか。 これは楽しみだ」


 嬉しそうにジャムを受取ると、胸に手を当てリシュに頭を下げた。


「儂はこれにて失礼する。 次に会った時には二人の意見を聞かせてもらうよ。 ではまた」


 そう言ってヴァルトは扉を開けて屋敷を後にした。

 その後暫く沈黙が流れたが、口元を隠しながらグリースが先に切り出した。


「リシュ、手当を手伝ってもらってもいいか? 話したい事もあるし……」


「はい。 では救急箱取ってきますね」


 リシュは足早に手当の準備を始めた。


 

 

 


 

 



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