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魔法使いと聖女とパペットと 2

 リシュは食べ終えるとスプーンを置きホッと息をついた。


「食事まで用意して下さりありがとうございました。 いつかこのお礼をさせて下さい」


 温かい食事を出されただけで泣いてしまうなんて、それだけで彼女が実家で虐げられてきたことが安易に想像できる。 

 どこから聞くべきなのかと考えていると、リシュは眉を下げて笑った。 

 

「グリースさんはエフモント家の事ご存知だったんですね」


 エフモント家では近年『不思議な力を持つ聖女が生まれる』といわれている。

 その力が覚醒すれば神の声を聞き先の未来を良い方向へと導くというのだ。

 それを証明するのが銀髪の髪。

 しかしリシュは深紅の髪をもって生を受けた。

 銀髪ではない上に赤い髪から魔力を秘めているのではと軟禁され、力が目覚めるとされる十六歳になった年、エフモントの姓を奪われる形となったのだ。 

 

「あの家で生まれた以上は仕方なかったことです」


 えへへと笑うリシュに反してグリースの心中は怒りという感情に満ちていた。


『仕方ない訳ないだろ。 殺されかけたんだからもっと怒ったり恨んだりすれば良いだろう』

 

 その怒りをガブが代役してリシュに訴える。


「……そうですね。 でもこの国では聖女の力を必要としているんです。 その力を授かれなかった私が悪いんですから」


 リシュの方が余程聖女に近いのでは、とそこまで出ていたが一先ず飲み込む。

 今の状態ではこれ以上言葉は届かないと考えたグリースは「そうか」とだけ言って皿を下げた。


「おい、レフカ。 何処にいる?」


 すると誰かの名前を呼びながらグリースはキョロキョロと周囲を見回し歩いた。

 テーブル下を覗き込んだり壁をコンコンと叩いてみたり鍋の蓋を開けてみたり。

  

 暫くすると、チチッと小さな声と共に赤いリボンを身に着けたネズミが現れグリースの肩にチョロチョロッと駆け上がった。


「一体何よ。 今は食事中だってこと知ってるでしょ」 


「悪い悪い。 ちょっと頼まれてほしい事があるんだが」


「何?」


「リシュの話し相手になってやってくれ」


『リシュ? 誰それ新しいネズミ?』


 グリースが指さした方に目をやり、人間がいる事に気が付くと飛び上がってササッとフードの中に隠れてしまった。


「ネズミさんが喋った……」


「こいつはレフカだ。 とにかく帰る家も無いんだしここに住めばいい。 こいつに聞けば勝手が解るから」


『ちょっとグリース! 何で人間がいるのよ!! しかも聞いてりゃお世話係しろって!』


 フードの中から抗議する声が聞こえる。


「経緯はリシュに聞いてくれ。 ほら出てこい」  


 そう言ってグリースはフードをパサッと外した。

 殆どは黒だが、襟足周辺が赤いという変わった髪色が露わになる。

 フードに手を突っ込みレフカを摘みだすと、リシュの前に差し出した。

 しかしリシュは微動だにせずただじっと見ているだけだ。


「あ、もしかしてネズミはだめだったか?」


 だが次の瞬間、リシュの瞳にパッと灯りが点った。


「ネズミさんが喋ってる!」


 予想外の反応に一人と一匹は目を丸くする。


「いつもネズミさんが部屋に遊びに来てくれてたんです。 まさかお喋りできるネズミさんに会えるなんて思いませんでした! 生きててよかったです!」


 その言葉に驚くグリースとレフカだったが、喜ぶ顔を見てグリースは少し口元を緩めた。


「……まぁ、耐性があるなら問題ないな。 レフカ、よろしく頼む」


『ちょっと! まだアタシ返事してない!』


「多分害はないから大丈夫だろ」


 キラキラと目を輝かせてこちらを見るリシュを見て、「仕方ないわね」と渋々グリースの肩から飛び降りた。


「俺はちょっと街へ行ってくるから。 その間に色々と教えてもらえ」


 そう言い残し部屋を出ていったグリースを見送ると、リシュは再び不安気な表情に戻る。


「……本当にお言葉に甘えて良いんでしょうか」


「グリースが良いって言ってんだから甘えたら? ホラ、部屋に行くわよ!」


 リシュは先ゆくレフカの後を慌てて追った。


 



 

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