新たな訪問者 2
この国には国家と連繋し魔法使い達を統べる賢者達がいる。
《地》《水》《火》《風》の四大元素に、生死に係る《虚空》を加えた五芒星の賢者の一人がヴァルト・アーレンツだ。
魔法界に於いては彼等が最高権力者になる。
幾ら祖父とはいえ下手すれば追放も有り得る為、ここは冷静な判断が求められる。
二人はヴァルトと向きあう様にして椅子に腰掛けた。
「なぁグリース、何故彼女に手を差し伸べここに住まわせている?」
「事故に遭った現場へ行くとまだ息があったので、救済する為にここへ連れてきました」
「彼女が聖女だということは知っていたのか?」
「『その家系の人間』程度の認識だけです。 銀の髪が聖女の証と聞いていたので、赤い髪の彼女にはその力は無いと思っていました」
「では《虚空》に属する我々と聖女は関わってはならないという話は?」
二人は驚き大きく目を開いた。
「……それはどういう事ですか」
「その様子だと知らなかったようだな。 実は《光》に属する聖女の中には、負の魔力である《虚空》の魔法を無力化してしまう者がいるのだよ」
「無力化……?」
「《虚空》の魔力を吸い取り使用不可にする事だ」
「……!」
リシュはゴクリと息を呑む。
「発動条件はまだ不明だが、そうなってからでは遅いのだよ。 例え負の魔力であっても《虚空》の魔法は決して絶やしてはならない。 この力は王族の存命にも関わっているからな」
そう言うとヴァルトは持っていた杖の先をグリースに向けた。
「グリース、お前はその齢にして既に《不死の上に立つ者》だ。 手塩にかけて育てたお前をこの様な形で失う訳にはいかん。 一刻も早くリシュ・エフモントとの関係を断ち切れ」
己の置かれた身を思い知らされたリシュの瞳には涙が滲んでいた。
早くから魔力が目覚めヴァルトの元で鍛錬を積んできたグリースの存在は貴重で有望視されている。
――それを自分が奪ってしまうかもしれない。
居た堪れなくなったリシュは胸の前でキツく手を握り、身を引く事を伝えようとした時だった。
「それは出来ません」
グリースの赤い瞳は一切ブレること無くヴァルトに向けられていた。
「勿論、ヴァルト様のご指導のお陰でここに立っていることを忘れた訳ではありません。 ですがリシュが無力化させる聖女であっても、彼女を手放すつもりは一切ありません」
ガブではないグリースの言葉が、リシュの胸の奥深くに突き刺さった。
「若造が何を言う」
ヴァルトはハッと鼻で笑うと、冷淡な表情で杖を振り被った。
バシィィンッ!!
爆ぜたような音が一瞬にして部屋中に響く。
ヴァルトの狼藉はグリースの肩にぶつけられた。
「グリースさん!!」
「……心配ない」
「ほう、咄嗟に《防御》をかけたか。 良い判断だが甘いな」
そのまま魔力を込め肩に置いた杖に圧をかけると、床に叩きつけるようにしてグリースを平伏させた。
「未熟者が。 儂を相手にする時は完全防御で来い」
「……分かりました」
そう言ってグリースは肩を押さえながらゆっくり体を起こすと、口から零れる血をぐいと手で拭う。
そしてその血をピッと振り払った。
カツン――――ッ
同時にヴァルトが持っていた杖が床へと落ちた。
何があったのかと驚きヴァルトが目を見開いた一瞬の隙をついて、落ちた杖を奪ったグリースはそのまま剣の如くヴァルトの喉元へと杖を突き付けた。
「傀儡の力で杖を操ったのか……その為の《防御》だな?」
魔力で焼けた肩を顧みることなくこちらを睨み続けるグリースを見てヴァルトは目を細めクッと口角をあげた。
「あの時と同じ瞳だ。 やるじゃないか」
そして二つの赤い瞳がかち合った。
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