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きっともう、怖くない

 リシュの母親はその血筋から、聖女の様に優しく芯の強い女性だった。

 しかし聖女を崇拝するエフモント家で、不運にも赤毛の子どもを立て続けに産んだ為に、屋敷内での風当たりは強かった。

 それでも子どもたちに精一杯の愛情を注ぎ育てていく。

 リシュも、リシュの兄もそんな母が大好きだった。

 しかし母が病で亡くなってから生活が一変してしまう。

 父親はすぐに長兄をエフモント家の跡継ぎとして異常な迄に教育を施すと、優しかった兄は姿を消し、リシュにきつく当たるようになっていく。

 そして新しい妻を迎えると、赤毛を嫌う父親はリシュを屋敷の離れへと追いやった。

 世話係として侍女はつけられるも、その侍女も次第に孤立してしまい何度も入れ替わる。

 リシュは申し訳ない気持ちで一杯だった。


 妹のシーラが生まれたことはその時に付いていた侍女から聞いた。

 念願だった聖女の証と言われる銀髪の女の子が誕生したということで多くの祝福を受けたという。

 リシュには余所の国の事の様に思えた。 

 それほど迄に遠い所に立たされていたからだ。

 しかしそれは身内で起こっていた事だと実感する日がくる。

 リシュが住む離れの庭へ、屋敷を抜け出したシーラがふらりとやってきたのだ。

 太陽の光に照らされ眩い程の銀色の髪。

 丸く大きな翡翠の様な瞳。

 初めて出会った時、リシュはその美しさに目を奪われた。


「わゎっ! ごめんなさい!」


 その幼く愛らしい声には、リシュを疎む様な感情は微塵にも感じられない。

 リシュは勇気を出してシーラに呼びかけた。


「私は構いませんが、こんな所にいたらシーラ様が怒られてしまいます。 早くお屋敷にお戻りください!」


「ここら辺に幸せのクローバーがある気がするの。 見つけるまで待って!!」


「はぁ……」


 直感を頼りにドレスを汚しながらクローバーを探すシーラをリシュはハラハラと見守る。 

 同時に見張りの者が来ないかと不安だった。


「あった! しかも二つ!!」


 シーラは大きな瞳を更に大きくして目を輝かせたのとほぼ同時に、シーラを探す使いの者の声が聞こえてくる。


「やばっ早く戻らなきゃ! 一つあげる!!」


 そう言ってシーラはリシュにクローバーを手渡した。

 

「勝手に入ってごめんなさーい!」


 そうしてシーラは自分を呼ぶ声の方へと駆けていった。

 数分の事だったが、リシュの心に光を齎した二人目(・・・)との出会いだった。

 



 その後、シーラを呼び寄せた罪を着せられリシュは投獄されてしまう。

 三日後に釈放され部屋に戻った時には、シーラから貰ったクローバーは疲弊した心のように萎れてしまっていた。

 しかしリシュはシーラを恨むことはしなかった。

 どんな顛末だろうと、自身の心を掬い上げてくれた人には違いなかったのだから。


(シーラにも、あの男の子にもまた会えたらいいな……) 

 

 そのままリシュは意識を無くし、床へと倒れ込んだ。



――――――――――




 目を醒めたリシュはゆっくりと体を起こす。

 

(ここは……)


 寝心地の良いベッド、文机にクローゼット。

 家具は少ないが居心地のいい空間。

 ここはグリースが充てがったリシュの部屋だ。

 エフモント家の離れではないとわかると、額の汗を拭いながら大きな溜息をついた。

 昼間の影響で記憶が蘇ったのだろう。

 リシュはブルッと身震いし両手で自分の体を抱き締めた。 

 毛布を被っていても再び眠る気にはなれず、リシュはしまっていたローブを肩にかけて水を飲みに居室へと向かうことにした。


(あれ……灯りがついてる?)


 灯りの漏れる居室の扉から中を覗くと、グリースがソファに座り何やら作業をしている。

 視線に気づいたのか手を止めこちらを向いた。


「リシュ? こんな時間にどうした?」


「ちょっと目が覚めてしまって……」


『ホットミルクでも飲むか?』


 グリースの膝元からヒョコッと顔を出したガブと目が合った。


「そんな、嬉しいですけどお手間ですし……」


『……リシュはまだまだ遠慮が多いな』


「え?」


『もうこの家の住人なんだ、もう少し甘えてもいいんだぞ』


「……じゃあ、お願いします」


『よし』


 グリースはガブをテーブルに座らせると、台所へ向かい牛乳を入れた鍋を火にかける。

 そして温まった牛乳に少し砂糖を落とすと、それを二人分のカップに注ぎ一つをリシュに手渡した。


「ほら、立ってないでこっちに座れ」


「ありがとうございます」

 

 リシュはグリースの隣に腰掛けホットミルクを飲みながら、再び作業を始めたグリースの手元に目をやった。

 

「ガブさんのお手入れですか?」


「こいつは特別だからな。 こうやってまめに手を加えてやるとよく動くんだ」


「大事な使い魔ですもんね」


 作業の手を止め、グリースは少しだけ眉を下げた。


「そうだな。 リシュの事が大好きな使い魔だ」

 

 グリースが溢した『大好き』という単語にリシュはカァッと頬を染めると、ホットミルクを飲み込み別の話題にすり替えた。


「そういえばガブさんは使い魔なのに、何で手にくっつけていたんですか?」

 

「……俺の手は特殊だから予防線を張ってたんだ。 でもリシュが怖がらずに俺の手に触れてくれたから、腹を括った」


「腹を括った……?」


「手袋もしてるんだし、ガブに頼るのは止めようと思って。 だからその……ちゃんと気をつけるから、手を、繋ぎたいと思った時は……」


 続きを話すより先に、隣に座るリシュの手に己の手をそっと重ねた。


「ガブ越しじゃなくても、良いか?」


 この間、グリースが持っていたガブは本物のぬいぐるみの様にくったりとして動かない。

 いつもならリシュを取られまいと邪魔してきてもおかしくない状況なのに、身動き一つもない。

 違和感を感じつつも、頬を赤く染めて自分を見つめる真紅の瞳と手から伝わる熱に、リシュの心臓はとんでもない速さで脈打つのだった。

 


 




 

 ここまで読んでくださりありがとうございました。

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