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甘いものは癒やされる

 ケーキ片手に店に戻ると、ジークフリードが仁王立ちして三人を待ち構えていた。

 その眼はゾーイによって開かれる。


「戻ったらてめぇを異次元の部屋の中に放り込んでやろうかと思ったぞ。 このケーキがなかったら」


「す……すみません、すみ、ませ、ん……」


 そんなにあったのかと思うほどに盛り上がった太い腕を首に回され、ゾーイの顔がどんどん青白くなっていく。

 孫のように愛おしむリシュを勝手に連れ出した罪は相当重かったらしい。

 

(そのままやってくれた方がこっちの気も休まるのに……)


 ガブを肩に乗せたグリース少年も白い目でその光景を見守る。


「ジークさん、それぐらいで許してあげて下さい! 私がお茶入れますから皆でケーキ食べましょう?」


「リシュちゃん……」


 ジークフリードは不安気にキュッと服を掴むリシュを優しく抱き締め頭を撫でた。


「本当に優しい子だ。 儂の目が黒い内は何処にも嫁には行かさんから安心しなさい」


 ジークフリードの抱擁にリシュは照れながらも嬉しそうに抱き締め返す。

 もはや血の繋がった爺さんと孫娘だ。


(それは困るから止めてくれ!)


 傍から見ていたグリース少年の悩みの種がまた一つ追加されてしまう。



 ◇



 ケーキが次々にお皿に乗せられ、店の奥でティータイムが始まろうとする頃。

 ゾーイがカウンターに五枚の銀貨を並べた。


「リシュ、驚かせたお詫びだ。 この中から一枚好きなのを選んでくれ」


「ここから一枚、ですか」


「直感でどうぞ」


 五枚とも同じ紋様が入っている為違いはよくわからないが、リシュは左から二番目の銀貨を手に取った。

 裏を返すと、そこには翼を広げた鳥の姿が描かれている。

 他の銀貨にも熊や狐等、様々な動物が描かれていた。

 

「それは活路を開くと言われるツバメだな。 クナウスト家の者は呼びたい獣をこうして銀貨に収めるんだ。 この中じゃそれが一番扱い易いと思う」


「私でも呼び出せるんですか?」


「一度限りだけどな。 だから本当に必要な時が来たらそれを握って『出て来い』って願えばいい」


「ありがとうございます!」


 ジークフリードも興味津々で一枚一枚手に取りルーペ越しで銀貨を鑑識している。


「ほぅ、流石はクナウスト家の仕事はすごい。 残りを売ってくれないか?」


「流石はジークさん! ぜひぜひお願いしますよ」


 二人の盛り上がりを隣で見ながら、リシュは今にも飛び出してきそうなツバメの紋様を指でそっと撫でた。


『良かったじゃないか。 その類は大事に持っとくと良い仕事するぞ』


「何だか貰ってばかりで申し訳ないですが」


『ねだった訳じゃないんだから気にすることはない』


「はい」 


 ガブの言葉で少し綻んだリシュはふと考えを巡らせた。 

 

(私が誰かにしてあげられる事ってなんだろう……)


 



 空っぽだった自分の人生を振り返ってしまう。 


 エフモント家の事。 家族の事。 


 そこでは『奪われ続ける』生活を送っていた。

 最後は命も狙われた。

 あの世界を思い出した途端に世界から色が消え、暗闇の様な恐怖が手を延ばし迫ってくる。

 そして息苦しい程に胸の奥を締め付けられて……。

 

「リシュ、大丈夫か?」


 グリース少年に声をかけられリシュはハッと我にかえる。


「……はい、大丈夫です」


 本当は背中に嫌な汗をかく程に動揺していたが、リシュは何とか笑顔で取り繕う。

 しかし嘘だと勘付いたグリースは、ガブを使ってリシュの手をよしよしと撫でた。


『ケーキ食ったら今日は帰ろう』


 するとガブは器用にフォークでケーキを突きすと、そのままリシュの口元に近づけた。


『食べさせてやるよ』


「そんな! 一人で食べられますよ!」


『良いから一口ぐらい甘えろ。 ほら、あーん』


「あ、あーん……」


 おずおずと口をあけリシュは差し出された一口のケーキを頬張った。

 それをゆっくり咀嚼していくと、甘さが口一杯に広がり心も徐々に落ち着きを取り戻す。

 甘いものの力は偉大だ。


「ありがとうございます……」


 リシュの表情にほんのりと赤みがさし、明るさを取り戻した。

 すると話が落ち着いたのか、ゾーイがずいとリシュ達の間に顔を出す。


「おい、何二人で仲良く食べてんだよ」


「ゾーイさんも一緒に食べましょう。 そうだ!」


 何やら思いついたリシュは自分のケーキを一口切り分けると、ガブを真似てゾーイに差出した。


「私には返せるものがないので……。 先程の銀貨のお礼です」

 

 そこに聖女の微笑みも添えられ、男達はズギュンと胸を打たれ固まってしまった。

 その様子にリシュは不思議そうに首を傾げる。

 どうやら無自覚の様だ。

 それが罪作りな行為だということを。



 





 

 

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