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恋人ではないけれど

 リシュが怒った顔を見せたのはこれが初めてだった。

 腰に手を当て眉を顰めるリシュに二人は縮み上がる。


「お二人がすごい魔法使いだというのは解りました。 でもこんな街中であんな魔力をぶつけ合ったら皆さんのご迷惑になりますよ!」


「「……すみませんでした」」


 ご尤もなリシュの指摘に返す言葉もなく、二人は頭を下げる。

 

「ではもう(いが)み合いは止めてくださいね。 さぁ、ジークさんのお店に戻りましょう」


 リシュがくるりと背を向け歩き出すと、二人も慌てて後を追いかけた。


「……穏やかそうなのに怒ると怖いな」


「全くだ」


「だがあの状況を制止しようとする度胸はなかなかだな。 俄然興味が湧いてきた」


「……リシュならやらねぇぞ」


「まだくっついてないなら別に手を出したって構わねぇだろ」


「彼女は気安く扱っていい女じゃないんだ。 興味本位で近づいたら息の根止めて人形にするぞ」


 そういってグリースは自分に魔法をかけ再び少年の姿になると、前を歩くリシュに走り寄り片方の手をギュッと握った。


「グ、グリースさん? どうしたんですか?」


「ジークにケーキ買って帰ろう。 お店こっちだから」


「え? て、手を繋いで、ですか?」


「ダメか?」

 

「え、あ、いえ、ダメじゃ、ないです……」


「じゃあ決まりだ。 ゾーイ、今回はお前がやらかしたんだから支払いはお前持ちだぞ」


「ハイハイわかったよ。 で、何でお前はわざわざ小さくなって手を繋いでんだ?」


「姉に悪い虫がつかないように弟の俺が付いてるんだよ」


 そうしてグリース少年は、リシュの手にスルリと自分の指を絡め手を引いた。

 まるで恋人同士でするような仕草にリシュの心臓はドキリと高鳴る。


「あ、あの、グリースさん……」


「何だ?」


「この繋ぎ方は……」


『こうやっておかないと他のヤツにとられるからな』


 繋いだ手の反対側で心の声を代弁をするかの様にガブが呟いた。


(それってまさか……)


 ゾーイの使い魔が近づいた時にガブが相手を威嚇した時の事を思い出した。

 きっとあれは牽制のつもりだったのだろう。

 じゃあこれは?

 リシュは繋いだ手の方にチラリと目をやる。

 姉弟でもあまり見ない手の繋ぎ方。

 ゾーイの存在。

 頬をほんのり赤くして歩くグリース少年……。


(まさか、グリースさんも……?!)


 途端にリシュの頭から湯気が出始める。

 少年姿でも中身はグリースだ。

 本来の姿を知っているリシュは意識せずにはいられなかった。

 赤くなっていく顔を隠そうとするも、指が絡み合う手は容易く解けそうにない。

 そうして徐々に上がっていくリシュの体温が手袋越しにも伝わったのか、グリース少年は眉を下げて笑った。


「リシュってば可愛すぎ」


「!!」

 

 ガブの口からではなくグリースの口から溢れた甘い台詞。

 グリースもリシュの反応が相当嬉しかったのか、思わず素が出た様だ。

 少年の愛らしい笑顔と甘い台詞にリシュの目の前ではパチパチと小さな星が弾けている。

 

(これはお店に着くまで私の身が保たないかもしれません……)


 リシュは冷静さを求めて必死に覚えたての薬の配合率をブツブツと復唱し始めるのだった。




 

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