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ライバル、現れる

 そうして始まった薬の調合の勉強だが、薬草の見分けや分量、配合率……やる事覚える事がとにかく多い。

 リシュはようやく一冊の入門書を読み終え溜息をつくと、同じ部屋で本を片手に薬剤の入ったビーカーを火にかけているグリースを横目でチラリと見た。


(こんな膨大な情報量を網羅してるなんて流石です……)


 何でも出来てしまうような人が何故自分を救ったのか、その理由は未だに知らないままだ。

 只の気まぐれなのか、何か理由があるのか。

 聞くに聞けないまま約一ヶ月半が過ぎた頃、リシュにも変化が現れた。 


「グ、グリースさん、今良いでしょうか……」 


「どうした?」


「ここを、詳しく教えて貰えませんか?」


「あぁ、判った」



 拾われた身なので自分から誰かに頼るなどおこがましいと考えていた。

 けれど幾度となく助けられた上に、妹の事まで気に掛けてくれた事、何より自分への優しい言葉の数々に、頑なだったリシュの心はようやく解れてきたのだ。

 そして……。


「そこの部分はあの魔法を応用すれば出来るぞ」


「そうなんですか。 すごくわかりやすいです!」


「リシュは理解が早いから助かるよ」

 

「あ……、ありがとうございます」


 リシュはグリースに淡い恋心を抱くようになり、これまで以上に花のような愛らしい笑顔を見せるようになっていた。


(最近のリシュは更に花を背負ってる気がするのは気のせいだろうか……)


 しかし鈍感なグリースはリシュの変化の理由に未だ気づいておらず、悶々とした日々を送っていた。

 



 そんな忙しなくも穏やかな日常が続いたある日の事。


『足りない材料が出てきたから調達に行こうと思うんだが、一緒に街に行くか?』


 リシュの肩に乗っていたガブが声を掛けてきた。


「いいんですか!」


『あぁ。 ジークも喜ぶと思う』


「私もお会いしたいです!」


 そして二人はこの日もお互いの正体を隠す為に、姉弟という設定で街へと向かった。




 ◇




「なんだ、今日も子どもの格好か」


「別にいいだろ。 はい、補充用の薬」


「あぁ助かるよ。 お前の作る薬は評判が良いんでね」


「そうなんですか?」


「調合者の名は伏せてあるんだが、こいつはじいさん譲りの仕事っぷりだから利用者が多いんだよ」

 

「すごい……」


「今日は薬を作るのに使う道具と材料と見たいんだがいいか?」


 気恥ずかしい空気を変えようとグリースはジークフリードに呼びかけた。


「承知した。 じゃあ一時間ぐらい必要かな」


「そりゃあ助かる。 早めに戻るから」


 ジークフリードから砂時計を二つ預かったグリースは、リシュにガブを預け店の奥へと向かった。

 その背中をじっと見つめるリシュに気づいたジークフリードは小さく笑った。


「グリースの事が心配か?」


「そ、そんなつもりでは……」


「グリースと離れたくないような顔をしてたぞ」


「えぇ!? そんな顔、してましたか……?」


 リシュが顔を赤くして俯くのを見てジークフリードは目尻を下げてうんうんと頷く。

 

グリース(あいつ)がちゃんとリシュちゃんの事を守ってるって分かって安心したよ」


「もう助けてもらってばかりです。 先日は妹の事まで気に掛けてもらって……」


「妹って、シーラ・エフモントの事か。 最近よく家を抜け出してるらしくて、この前うちの店にも突然来たんだ。 『このお店、何だか怪しい!』って言って……あの直感力には少々肝を冷やしたよ」


「あぁ……シーラがご迷惑を……」


「いやいや、やはり聖女の力を秘めておるんだろう。 なに、余程の事が無ければこの部屋の事はバレたりせんよ」


 するとチリン、と鈴の音が聞こえた。


「お、だれか戻ったかな?」


 奥からふらりと現れたのは、グリースと同様にローブを羽織った長身で、目つきの鋭い銀髪の青年だった。

 

(綺麗な髪の色……)


 さらりと揺れる白金の髪に光があたると、そこに小さな星が瞬いているように見え、リシュは思わず釘付けになった。


「ジークさん、なんか薬草臭いんだけどアイツでも来てんの?」


「あぁ、グリースがさっき入っていったぞ」


 それを聞き青年はチッと舌打ちをすると、何やら視線に気づいたのか眉間に皺を寄せリシュをギロリと睨んだ。


「何だそこの女。 ジロジロ見るんじゃねぇよ」


「はっ、申し訳ありません! あまりにも綺麗な銀髪に見惚れてしまって……」


「はぁっ!? だ、だからって見せもんじゃねぇぞ!」


「はい! 大変失礼しました!!」


「おいおい、女の子にまでそんな態度をとるんじゃない。 怯えてるじゃないか」


「そっちが悪いんだろう。 ていうか、何でこんな所に女がいるんだよ。 あんた、魔法使いじゃねぇだろ」


「私は只のグリースさんの付き添いで……」


「アイツの付き添い? 何、アイツの女?」


「女……って、どういう意味ですか?」


「……何だ、違うのか」


 青年は顎に手を当てリシュをじっと見つめると、ジークフリードの方をくるりと振り返った。


「ジークさん、グリースのやつどれぐらい入ってる予定?」


「さっき入ったばかりだから小一時間は出てこないと思うが……」


「そう、じゃあコレ預かってて」


 青年は砂時計と魔導具をジークフリードに預けると、リシュの手をとりドアノブに手を掛けた。


「おいおい、どこへ行く気だ!」


「一時間後にはちゃんと戻るから」


「え? え?」


 リシュは抵抗する間もなく青年に手を引かれ外へと連れ出されていくのだった。


 

 ここまで読んでくださりありがとうございました。

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