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恋人のフリをしてみる 2

 緊張した面持ちでグリース達の元へ戻ると、シーラがガブを抱いたまま寝息を立てていた。


「眠ったんですか?」


「夢を見せるために眠らせたんだ」


「夢を見せるため……?」


「あぁ、ドラゴンの背に乗って空を飛ぶ夢だ」


「わぁ、素敵ですね!」


「夢を見る位は自由だろ。 いい夢を見ればどこかでそれが希望に繋がる筈だ」


「きっと、シーラの支えになりますよ」


 悩むシーラに何かしてやれないだろうか。

 そんなことを考えていたのはグリースも同じだった様だ。

 彼の計らいに、リシュは顔を綻ばせた。


「そうだ、リシュ。 さっきの事なんだが……」


「さっきの?」


「その、ガブが俺達の関係を『恋人同士』と言った事で、気分を悪くさせたならすまなかった」


 照れているのか少し視線を逸らしつつ言葉を必死に紡いでいく。


「そんな! お陰であれ以上詮索されずに済んだんですから良かったです。 それに……」


「……それに?」


 グリースは視線を反らし頬を赤らめるリシュを見て思わずゴクリと息を呑んだ。


「ドキドキしましたが、手まで握ってもらえて……その、嬉しかったです……」


 リシュが言葉を結んだ瞬間、グリースの頭にピシャァンッ!と雷が落ちる。

 そして前のめりになって再びリシュの手をとった。


「て、手ぐらいならいつでも幾らでも握ってやる! だから本当の……」


「本当の……?」


 何か急くように必死になっているグリースを見てリシュの心臓がトクンと鳴った。

 その時だった。


「何の騒ぎ……?」


「「!!」」


 はたとシーラが目覚めてしまい、二人は思わずバッと手を離しススッと少し間を空ける。

 そして平静を装うようにお互いに明後日の方向を向いて会話を続けた。


「本当の……事は、まだ黙っておこうか……」


「あ、はい……」


「……? リシェ達、何か変なの」


 ふむと首を傾げ怪しむシーラだったが、ピョンとソファから降りるとリシュが持っていた皿からクッキーを一つ手に取り、それを嬉しそうに頬張った。


「さっきね、すごくいい夢を見たんだよ」


「どんな夢ですか?」


「ドラゴンの背中に乗って空を飛ぶ夢。 益々外の世界を見てみたくなっちゃった!」


「それは楽しい夢だったんですね」


「うん! ねぇグリード、私に魔法を教えてよ! やっぱり私は魔法使いになりたい!」


「ダメだ。 自分の置かれている身を考えろ」


 懇願するも一蹴されたシーラは頬を膨らませる。


「うぅ……。 じゃあ教えてくれるようになるまでここに通うから!!」


「はぁ!?」

 

 思いも依らぬ宣言にグリースは思わず慄いた。

 そこをぐいとシーラがが押し迫ってくる。


「絶対諦めない! 絶対魔法使いになるんだから!!」


「《転移(テレポート)》」


 これ以上は危険だと判断したのか、グリースは指をパチンと鳴らし魔法をかけた。

 するとシーラの体が光に包まれていく。


「ちょっと! グリードのいじわるぅ!!」


 さすがのシーラもこれには抵抗出来ない。

 行き先はエフモント家の屋敷付近まで。

 恨み節を残しシーラの姿がふわっと光りの中に消えていった。

 

「とんでもない夢を与えてしまったようだな……」


 はぁ、と頭を抱えるグリースを見てリシュは口元に手を当てクスクスと笑った。


「それだけ魅力的な夢だったんですよ。 でもシーラなら、聖女の役目も魔法の勉強も両立してしまう力を持ってそうですね。 ちょっと羨ましいです」


「それならリシュはとっくに出来てるぞ」


「え……?」


 グリースは小首を傾げるリシュの前に立ち視線を合わせた。


「リシュが持ってる『慈悲の力』も立派な聖女の役目を果たしただろ。 加えてドライアドの力もちゃんと使いこなそうと頑張ってる。 大丈夫だ」


『さすがオレのリシュだな』


「はぅぅ……」


 思いもよらぬ褒め言葉にガブまで追い打ちをかけられたリシュは思わず顔を両手で覆った。

 

「なぁ、そろそろ次のをやってみるか?」 


「……もしかして、新しい魔法ですか?」


「あぁ、リシュに合ってるんじゃないかと思ったのが一つあってね」


 グリースはリシュを手招き、これまで入れたことのない部屋の扉のノブに手を掛ける。

 そして扉を開けると、中からふわりと乾いた様々な草木の香りが鼻の奥まで届いてくる。

 窓から差し込む日に照らされたテーブルの上には、何やら実験が始まりそうなビーカーやフラスコ等も置いてある。

 

「ここは……」


「薬を調合するところだ。 これからはリシュにも手伝ってもらいたいと思ってる」


「薬を? 私がですか!?」


「勿論簡単なものから少しずつだ。『慈悲の力』を持つリシュとなら、今までより良い薬になるんじゃないかと思ってね」


「そんな、私なんかが関わっても良いんでしょうか……」


 するとグリースの肩に乗っていたガブがリシュの頬を両手で包むとちょん、と鼻にキスをした。

 

「!!」


『リシュなら出来るさ』


 相手はぬいぐるみだとわかっていても、ドキリと思わず胸がときめいてしまいリシュは口元を無意識に隠した。

 それはきっとガブの側にグリースがいるからだ。

 リシュは赤くなる頬を隠すように俯く。

 

「じゃあ……や、やってみます……」 


 そう呟くリシュの返事を聞いて、グリースは眉を下げて嬉しそうに笑った。

 


 

 ここまで読んでくださりいつもありがとうございます。

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