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魔法使いと聖女とパペットと 

 リシュはキョロキョロと人の気配を探しながら廊下をヒタヒタと裸足で歩いていく。

 屋敷の中は灯りは少ないが、どこもきれいに片付けられている。

 メイドでも雇っているのだろうか。


 するとふわりと優しい香りがリシュの鼻を擽った。

 その香りを辿っていくと温かい空気の中で厨房に立つグリースの姿が見える。

 そっと覗き見ていると、グリースの手に嵌められたカブがこちらに気づいたようだ。


『もう起きて大丈夫なのか』


「あ! はい……」


 隠れて見ていたつもりだったが声をかけられ思わず返事をしてしまった。

 グリースの方は振り返る事もなく厨房に立ち調理を続けている。

 先程の事を思い出し、その背中に罪悪感を感じながらもリシュはそろそろと厨房へと入ってきた。

 

『こっちは危ないから靴を取ってくるかそっちの椅子に座ってろ』


 ガブはテーブルの方へ行くよう手を動かす。

 リシュはそれに従い、ゆっくり椅子に腰掛けた。


『パンは食べられそうか?』


「……はい。 大丈夫だと思います」


 するとどこからかコトン、と音がしその方を見ると、テーブルの上にパンがのせられた皿が置いてあった。


(あれ? さっきあったっけ……?)


 リシュは首を傾げながらもそれを小さく千切り口に入れた。

 もぐもぐと咀嚼しているうちに、グリースが野菜が細かく切られた温かいスープとスプーンを運ぶ。


『昨日ので悪いが食べれるなら食べとけ』


 そしてグリースの手に嵌められたガブが優しく声をかけた。

 するとポロリとリシュの目から涙が落ちた。


「どうした、パンが傷んでたのか?!」


 動揺したのかグリースが思わず声を出した。

 ポタポタとテーブルを濡らしていくリシュをみてグリースはガタリとリシュの隣に座った。


『……大丈夫か?』


 ガブが近づき尋ねると、リシュはコクリと頷き、涙を拭きながらポツリと呟いた。


「いつも冷たい食事だったから……嬉しいのに泣いてしまってごめんなさい」


 その言葉にグリースはテーブルに肘を付き何かを考えると、ガブを嵌めた手とは反対の手でぱちんと指を鳴らした。

 

『泣かないで、ね?』


「え?」


 聞いたことの無い愛らしい声が聞こえたと思ったら自分の膝にちょこんと手を乗せたウサギのぬいぐるみがそこに居た。


『怖くないよ、グリースさんの魔法だから』


 そう言ってにっこりとリシュに笑いかける。

 驚いてグリースの方に顔を向けるとその前にガブがいた。


『害はないから大丈夫だ』


 そしてパタパタと手を動かし、ハンカチを差し出す。

 リシュは目を擦りながらそれを受け取ると深々と頭を下げた。


「助けて頂いたのに先程は大変失礼な事をしてしまい申し訳ありません。 只、驚いてしまっただけで、グリースさんが怖いとかいうわけじゃないんです」


「謝る必要はない。 そんなの日常茶飯事だ」


『ほら、食べれるなら冷めない内に食べろ』


 ガブにスプーンを差し出され、リシュは瞳を潤ませたまま味わうようにスープを口に運んだ。

 その様子を見ていると、やはりどこぞの令嬢だと見受けられる。

 

『後で訳を聞かせてくれたら嬉しいんだが』


 リシュは一瞬手を止めたが、「はい」と頷いた。



 ここまで読んでくださりありがとうございます。

 次回は明後日を予定しています。

 気になった方はブックマーク等つけて頂けると幸いです。

 どうぞよろしくお願い致します。

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