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課外授業はかくれんぼ 2

 開始から三十分が経った頃。

 ペンダントに溜まっていた魔力も減ったのか、深緑だった色も鮮やかなエメラルドのような色味になっていた。


『だいぶ魔力の使い方がマシになってきてるんじゃない?』


「ありがとうございます」


 しかし魔力の調整は出来ても体力が先に底つきてしまいそうだ。

 肩で息をする様子を見て、レフカはリシュの頭に登り辺りをキョロキョロと見回した。


『ここで終わるようグリースに言うわ』


「はい、よろしくお願いします……あれ?」 


『どうしたの?』


「何か、こちらから変わった気配がします」


 リシュの指差す方を見てレフカはスンスンと鼻を動かす。


『確かに何かいるわね。 ちょっと身を隠しましょう』


「はい……」


 そうしてリシュ達は茂みへと身を隠しながら気配のする方を覗き見ると、足を負傷した美しい薄茶色の毛並みをした鹿が足を引き摺りながら歩いていたのだ。


『多分白い鹿(ホワイトディル)よ。 こんな所で珍しいわね』


「綺麗な毛並みに立派な角ですね」


『毛皮は高く売れるし角は神聖なる角(セイクリッドホーン)と言われてて、薬にも魔除けにもなると聞くわ。 あの傷ももしかしたら密猟者にやられたのかも』


「そんな……助けてあげないと」


『だめよ、手負いの獣は危険だわ。 グリースを呼んでから……』


「きゃあ!!」


「何でこんな所に女がいるんだ?」


 リシュは後ろ髪を引っ張られ後ろへと体勢を崩してしまいそのまま地面に倒れ込んだ。

 その拍子でレフカもリシュの頭から転げ落ちる。


「おい、どうした?」


「見ろ、女を見つけたんだ」


「ほう、なかなか可愛いじゃないか。 ホワイトディルも女も見つけるなんて今日はかなりツイてるな」

 

 口ぶりから彼等がホワイトディルに傷を負わせた犯人のようだ。

 男は掴んだ髪を引っ張り上げリシュの顔を舐めるように見る。


「あの鹿を捕まえたらお前も連れて帰ってやるよ」


「……あの鹿さんを捕まえてどうするんですか」


「勿論高く売るんだよ。 毛皮も角も肉も余す所なく全部だ。 大層な金額になるぞ」


「そんな、鹿さんが何かしたんですか?」


「してないさ。 ただ俺達の前に現れてくれたってだけだ」


「ひどい……」


 リシュは怒りと悲しみの籠もった目を彼等に向ける。


「そんな怖い顔するなよ。 そこらで野垂れ死ぬより人間様の役に立てるほうがずっと有益だろ。 お前だって同じさ」


 すると一人の男がリシュの腕をとり地面へと組み敷いた。


「ここで辱めて逃げられないようにしてやる」


「!!」


『リシュ!!』


 すると男の背後からレフカが首元に噛み付いた。


「なっ何だぁ!? いたたたたっ!」


『リシュ! 早く逃げなさい!』


「この野郎、ふざけやがって!」


 男は首に噛み付いているレフカを引き剥がすと、そのまま地面へと叩きつけた。


「レフカさん!!」


『うぅ……』


 リシュは急いでレフカを胸に抱き立ち上がろうとしたが、がくんと恐怖で足に力が入らなくなっていた。


「大人しくするんだな」


(グリースさん……助けて!!)


 声が出せなくなったリシュは心の中でグリースの名を呼んだ。

 そして男の手がリシュの肩に触れた時。

 その手がぐんと後ろへと捻じ曲げられる。


「いてててぇ!!」


「お前、リシュに何してんだ」


 駆けつけたグリースが赤い瞳を滾らせそのまま手をへし折る勢いで男に迫った。

 

「た、助けてくれぇ!!」


 男の叫び声を聞きつけホワイトディルを狙っていた男達が集まり、一人がグリースへと矢を向けた。


「《氷縛(アイスロック)》!」


 直ぐ様グリースは捕まえていた男と矢をつがえた男の手足を氷の魔法で瞬時に凍らせ動きを封じる。

 そして刃物を向け突進してきた男をひらりと躱し背に肘打ちを食らわせ打ち落とすと、他と同様氷の魔法で地面に(はりつけ)た。

 殺傷能力は低いが相手を捕縛するのに役に立つ。


「さぁ、これからどうしてやろうか」 


 グリースは男の前でニヤリと笑って凄む。

 顔は笑っていても中ではリシュを泣かせた事に腸が煮え繰り返ってるようだ。


「ひぃぃっ! 命だけは勘弁してくれ!!」


「よし、じゃあ命だけは助けてやる。《悪夢幻(ナイトメア)》」


「っぐぁ……あ……」


 男の額に指を当て魔法をかけると、男達の目から光がなくなり泡を拭いてカクンと意識を失っていった。


「これで密猟する気もなくなるだろう」


 そして深手を負いしゃがみ込んでいるホワイトディルに近づいて回復魔法をかける。


「俺達人間が怖い思いをさせてしまったな。 すまない」


 傷が治ったホワイトディルは、グリースを一瞥するとすっと森の奥へと姿を消していった。


「密猟とは困った話だな。 見張りでも立てるか」


「グ、グリースさん……」


 消え入るような声で名前を呼ばれグリースは慌ててリシュの元に駆け寄った。

 

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