本当の事はまだ言えない
グリースはリシュをソファへ降ろすと、毛布を渡しお湯を沸かし始める。
「あの、ご迷惑おかけしてすみません……」
「何を言う。 あんな状態で放っておけないだろ」
そう言っても申し訳無さそうに俯いたままのリシュを見て頭をガシガシとかいた。
『――誰だって最初はそうだから大丈夫だ』
声を聞き顔を上げたリシュの前でガブが首を傾けた。
どうやらリシュを励まそうとガブが出てきたようだ。
『疲れたなら今日はこれでやめてもいいんだぞ?』
「……ありがとうございます。 でもまだがんばります。 ドライアドさんから分けてもらった、大切な力ですから」
『そうか』
ガブに頭を撫でられ嬉しそうに笑ったのを確認すると、グリースは透明のポットにお湯を注ぎリシュの前に置いた。
「見ててくれ」
ポットに赤い実を入れて蓋をし、パチンと指を鳴らす。
するとポットの中でふわりと鮮やかな紅色の花が開いた。
「わぁ……!」
「綺麗だろ。 さっきのが上手く出来ればこんなものも作れるぞ」
「本当ですか!?」
「あぁ。 この花の様にゆっくり開かせるイメージでやると良い」
カップに注がれたお茶を口にすると漂うハーブの匂いの効果もあって、リシュははぁ、と吐息と共にようやく肩の力を抜いた。
「グリースさん、これを飲んだらもう一度教えてもらえますか?」
「あぁ。 お望みなら幾らでも」
「え!」
「何だその反応は。 ……俺の弟子なんだから当たり前だろう」
「そうですよね……」
返された台詞に反応し体の熱が上がったリシュは慌てて顔を手で覆い下を向く。
「どうした? まさか熱でもでたのか?」
「いえ! 大丈夫です!」
(やっぱりグリースさんにとっては深い意味は無いんでしょうね……)
リシュは少し寂しく思いつつ、急いでハーブティーを飲み干した。
「グリースさん、私一度部屋に戻って気合い入れ直して来ます!」
「え? あぁ、分かった」
「ごちそうさまでした。 では三十分後に!」
赤くなった顔を見られまいとバタバタとリシュは部屋に戻っていく。
その背中を見送りしんと静かになった部屋でグリースは一人、ガブをはめて語りかけた。
「今回もお前の言葉の方はちゃんと届いたみたいだが……」
いつもなら生きている様に体を動かし喋るガブだが、今は本物のパペットの様にぎこちない。
それもその筈で、ガブは意思を持った使い魔ではなく、魔力によって生きている様に動く正真正銘のパペットなのだから。
傀儡使いという名の通りぬいぐるみを動かすなど容易くて、これまでリシュの前に現れたぬいぐるみ達もグリースの魔力によるものだ。
それはリシュも知っている。
だがガブだけはパペットだという事は秘密だった。
実はグリースはガブ越しにずっと自身の気持ちをリシュに伝えていた。
面と向かって言えないことも、パペットを介してなら言える。
『可愛い』も『大丈夫』も、『リシュは俺のものだ』ということも。
だが最近はそれでは済まなくなってきていた。
(人間の俺は何て言えば笑ってくれるんだろうか……)
ガブの手を取り笑うリシュを見て、それが自分なら良いのに、と思うようになってきていたのだ。
(いや、アーレンツ家の血を引く俺の気持ちは、リシュの重荷になるだけだ)
髪を掻き上げリシュが使っていたカップを見つめた。
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