討伐の仕方
丁度三十分でグリースが戻ってきたが、ジークフリードがテーブルに突っ伏している所に出くわし怪訝な顔をする。
「……何があったんだ?」
「ただお話をしてただけなんですが……」
グリースはジークフリードの背中をポンポンと叩いた。
「なぁ、会計してもらいたいんだが、大丈夫か?」
「……おぉグリース、帰ってきたか」
ようやく顔をあげ眼鏡を掛け直すと、グリースの手にある物の確認をする。
するとすぐ様目尻を下げニヤニヤと笑った。
「お前ってやつは相当惚れ込んでるな」
「違う、身に付けられる方が何かと便利だろ」
「はいはいそういう事にしておこう」
ジークフリードは灯りを消すと鍵を開け、表の店へと通路を繋げた。
「これで足りるか?」
硬貨の入った袋をカウンターに置き、ジークフリードが中身を確認した。
「あぁ。 次に来るときにはいつもの薬も頼みたいんだがいいか?」
「分かったよ。 近々持ってくる」
「頼んだぞ。 その時はぜひリシュちゃんも会いにきてくれ」
「ありがとうございます、ジークフリードさん」
「うんうん、ジークで構わんよ」
グリースはリシュを愛おし気に見つめるジークフリードを白い目で見ながら品物をさっさとリュックに詰め、足早にリシュを連れ店を出た。
「なぁ、ジークと何話してたんだ?」
店を出たにも関わらずガブを動かし忘れている所をみるとグリースも落ち着かないようだ。
「何でもないですよ。 助けてもらった時の事とか、グリースさんの過去の事とか……」
「過去の事? 一体何を……」
そんな話の最中だった。
突然グリースは背負っていたリュックごと何者かに持ち上げれられる。
「いやいや重そうな荷物を持ってるねぇ。 お兄さん達が運んであげるよ」
そう声をかけたのは腕や顔に傷を負った長髪の男。
加えてガラの悪そうな男達がグリース達の周りにぞろぞろと集まってきた。
どうやらジークフリードの店から出てきたのを見て荷物を横取りしようという魂胆らしい。
「いや、間に合ってるから必要ない。 さっさと降ろしてくれ」
「そう強がんなって。 俺は『傀儡使いのグリース』ってんだ。 大人しく言うことを聞かねぇと酷い目にあうぜ」
その言葉を聞き本物のグリースはこめかみに青筋を立てる。
「お代はその荷物とお前の姉ちゃんだ。 こんな上玉なかなか居ねぇからな」
そう言って傷の男はちらりと目線をリシュへと向ける。
そして周りにいた男達も同様に下卑た目でリシュににじり寄ってきた。
「……っ! こ、来ないで下さい……」
「そんなに怖がらなくて良いんだよ。 俺達がたっぷり可愛がってやるから……」
その内の一人の手がリシュの腕を掴もうとした瞬間。
リシュが持っていたガブが突然巨大化し、大口を開けて近づいてきた男の頭をガブリと噛んだ。
「!?」
何が起きたのかとリシュも男達もその場で固まる。
「汚ねぇ手でリシュに触んじゃねぇ!!」
怒りが頂点に達したグリースは自分を持ち上げていた男の腕を掴むとそのまま壁へと吹っ飛ばした。
ドゴォン!と壁にぶつかる音と共に地面に降り立ったグリースは手を前に突き出し、拳を握るとグッと何かを引っ張った。
「「「うわぁっ!!」」」
するとリシュの側にいた男達全員の体が宙に浮く。
グリースはそのまま後ろへと背負い投げると、体を浮かせた男達が壁めがけて次々にロケットのように突っ込んでいった。
どうやら無詠唱で彼等に視えない糸を結びつけ操っていたようだ。
結果リシュの元に残ったのはパペットサイズに戻ったガブのみで、襲ってきた男達は全員グリースの背後でのびていた。
そこにできたクレーターの大きさからその威力の程が伺える。
外見は少年でも魔力は衰えないようだ。
「リシュ、大丈夫か?」
そう声をかけたものの、目の前に起きた出来事にただ驚き呆然と立っているリシュを見てグリースは『しまった!』と慌ててリシュにガバっと頭を下げた。
「ごめん! つい手を出してしまって……怖い思いをさせてすまない!」
「えっ? えっと……」
リシュはふるふると小さく首を横に振る。
「びっくりしましたが私を助ける為、だったんですよね。 だから大丈夫です」
「そうか、なら良かった……」
『大丈夫』という言葉にグリースはホっと胸を撫で下ろした。
「くそぉ……てめぇ、よくも……」
するとグリースが最初に吹き飛ばした傷の男が半身を起こしこちらを睨んでいる。
「何だ、まだ懲りねぇのか?」
「さっきは油断しただけだ!」
「ふーーん、じゃあ二度と立ち上がれないようにしてやろう」
「グリースさん! これ以上の暴力はダメです!」
止めに入るリシュにグリースは笑顔でやんわりと断りを入れた。
「大丈夫だ。 痛いことは一切しないから」
そう言ってつかつかと男に近づき、片方の手袋を外すと頭頂部をよしよしと撫でた。
「……は?」
想定外の行動に男は目を丸くする。
そしてグリースがにっこりと笑ったその直後、男の頭頂部から髪が円形状にはらりと抜け落ちた。
「毛根に退化の魔法をかけたんだ。 でももうこれ以上は止めておこう、お互いにな」
グリースはキュッと手袋をはめ直すと、起き上がろうとしていた男達にもくるりと目を向けた。
「お前らの顔も覚えたぞ。 また同じ様なことしたらこいつと同じ髪型にしてやるからな」
鬼面の微笑みに青ざめ震え上がる男達。
リシュの口から出た『グリース』という名前。
自分達を視えない力で操り吹き飛ばす程の魔力。
仲間の頭が円形にハゲてしまった衝撃。
どうやら彼が本物の傀儡使いのグリースだと気づいたようだ。
だが当の本人はそんなこと気に留めることもなく満足気にリシュの元へ戻っていく。
「グリースさん、あれは……」
「大丈夫だ、三日も経てばまた生えてくるから」
「そ、そうですか」
「だから心配いらない。 後は警察に任せよう」
そう言ってグリースは身形を整え、リシュと二人でその場を後にした。




