陰キャのオレが転生したのは、悪役令嬢の婚約者!〜婚約破棄? オレが溺愛しますけど!〜
コンビニ行くというオレに、書店にも寄れと姉貴が言う。
「自分で行けばいいじゃん……」
「今読みたい。すぐ読みたい! 陰キャ、運動しろ、運動! 買ってこさせてやる!」
姉貴の蹴りを華麗に避けたオレへ送られたメッセには『悪役令嬢』の文字。
メッセを見せて、自分がお使いで買わされたんだ、と証明しなくちゃいけない。
だいたい、こんな長いタイトル、なんだこれ……
悪役令嬢イザベラは溺愛されないのなら追放されてさしあげます……?
まだタイトルの続きあるけど、長い。長いぞ。
それに、これを言うのは辛い。辛いぞ!!!
「わかったけど、姉貴、金」
「帰ってきたら払うっつってるだろーがっ!」
姉貴のドスの効いた声に、オレは負けて、自転車にまたがった。
──この結果として、オレは帰り道、車にどーんと、ひかれることに。
もう痛みもない。なぜか、走馬灯も、後悔もわいてこない。
現実の、納得だけだ。
中学校は不登校、高校に入ってもまばらにしか通えていないオレは、生きていても価値がないとずっと思っていた。
寒気もおさまったオレの目の前に、赤く濡れた悪役令嬢のカバーが見える。
黒髪を揺らし、青い目の下にほくろが2つ、黒いドレスをまとっているのが、この本の悪役令嬢。意外と好みの顔だ。クール美人っていいよね。
小さく息をついた。
こんな女子と会話できる人生がよかったなぁ……
めっちゃくっちゃ溺愛したのに……
まぶたがぐっと落ちる──
「……うございます、ラインハルト王子」
耳元の声に、オレは驚いて飛び起きた。
横を見ると、執事の格好の渋いおじさんがいる。
驚くまもなく、ベッドがおかしい。
見慣れなさすぎる!
刺繍が施されたベッドカバー、さらにはベッドに天井がある。
部屋もやたらと広く、壁には絵画がかけられ、石像まである。
「……なんだ、これ……」
「王子、どうしました?」
「はぁ? オレの名前はカズだけど」
「……王子、どこか熱でも?」
渋いおじさんがぐっと寄ったことで、後ろにかけてある鏡が見えた。
だがそこに写っていたのは、オレではない。
だが、ピースをしても、手を振っても、同じ動きをする別人がいる。
顔をぺたぺた触ったオレと同じ動きを鏡がしている。
長めの前髪をつまみ、オレは無理やり視界におさめた。
「……きん、ぱつ……!」
ふらりとする。
視界が暗転した───
「……う、んー……」
目が覚めたが、変わらない現実がある。
夢ではないようだ。
豪華なベッドはそのまま、右横にある鏡に映るパツキンイケメンもそのまま。
ありえん……
「あいかわらず、のんびりしてらっしゃるのね、ラインハルト様は」
女の声がする。
ゆっくりと振り返ると、黒いドレスに身を包んだ、青い目の黒髪の美女がいる。
「……え、あの……イザベラ? なの? え、うそ!」
「あら、お元気そう。今日、わたくしと最後のお茶会でしたが、お倒れになったと言うので、お見舞いに来ましたのよ?」
おいおい……。
予定があるなら早く言ってよ、おっさん!!!!
「ご、ごめん、ほんと。ごめん……ってか、最後って?」
「まさかお忘れになったとは言わせませんわよ? 手紙でわたくしとの婚約を破棄をしたいと書かれていたじゃありませんか。だから今日は正式な文書をもって、破棄の手続きを」
オレはあまりのことに、飛び起きた。
「なんで? なんでオレがイザベラと婚約破棄? へ?」
「そんなこと、わたくしも知りませんけど。お噂ではお好きな方ができたとか」
オレは絶望すぎて床に身をまるめた。
「ありえん……なんでだよ……黒髪ロングに吊り目なんて、猫系女子で、ドンピシャじゃん……バカじゃねーの? バカだよ、王子……きっと金髪ふわふわのくりくりお目目の女子に行ったんだろ? バカじゃん! バカじゃん! オレのネット情報じゃ、そーいうの地雷女って言うんだよ! バーカバーカバーカ!!!」
床をどんどん殴りながら、この体が過去にした仕打ちをオレは憎むが、イザベラが心配そうに手を伸ばしてくる。
オレはその手を握り、叫んだ。
「オレは、イザベラと、絶対に、婚約破棄しないから!!!」
「……はぁ?」
頭を下げつつ、懇願するオレだが、戸惑ったままのイザベラの顔が、かわいすぎる!!!
さらに、吸い込まれそうな美しい瞳に、オレの目が離れない。
「……ライン、ハルト様?」
「え、いや……その……き、きき、キレイ、だなって……」
年齢=彼女いない歴のオレにとって、こんなきれいな女性を目の前で見るなんて、本当に奇跡に近いことを思い出す。
素早く吹っ飛んで壁際に立ったとき、自分の寝巻き姿に絶望した。
「……な……!」
全身タイツのような寝巻き!!!
再び、ベッドに潜りなおしたオレに、イザベラが小さくため息をついた。
「わたくしのドレスをお褒めになられて?」
「ち、違うって……青い目が、夜の海みたいで、キレイだなって……思って……」
ベッドの毛布にくるまりながら、小さくつぶやくようにオレは言う。
イザベラはぐっと俯くと、またため息をついた。
「からかいになられるのなら、帰ります」
「え、ちょ、あ、」
足早に部屋を去った彼女をオレは追いかけることもできず、ベッドで見送ってしまった……
ただ、彼女の耳が赤かった。
彼女の方が、熱あるんじゃない? 大丈夫かな……
「っていうか……あーーーもーーーー!」
叫ぶしかできないオレが、悔しすぎる。
オレは、これから彼女を溺愛する。
まじ、決めた!!!
まずは、改めてお茶会を成功させなきゃいけないっ!
の前に、この世界を知ることの方が先かもしれない……!
お読みいただき、ありがとうございます!
ネタの原案として、書きました。いいねとかあったら、続き書きたいなーと思っています。よろしくお願いします。