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ラバウル航空戦

作者: 田端

1943年夏、既にラバウル上空の制空制海権は

日本軍のものからアメリカ軍のものへと移っていた


ちょうどこの時、相崎一等兵曹

がここ、ラバウルに転属となった



ある日、相崎の上官、南條が

酒巻宗孝少将を訪れた


「司令官!連合艦隊司令部はまだ動かんのですか!?」


「ラバウルへの増援は考えておらんようだ、現部隊のまま最善を尽くすべし」


「くそぉ!あいつらはラバウルに何百何千と飛行機があると思っているのか!」


「南條!言葉が過ぎるぞ!」


苦境であったラバウル

このような光景もしばしばだったという

彼の願いがかなったのは11月の事だ



「小沢艦隊の母艦機、瑞鶴70機、翔鶴70機、瑞鳳30機、

 その他この3日までには総数180機の援軍が来るはずだ」


「…」


「…」


相崎も、上官南條もこの時

喜ばなかったという


「どうした?これほどの援軍がきて

 嬉しくないのか?」


「ああ、もうちょっと早くきてくれれば

 トロキナ岬上陸を許さずに済んだのに、残念です」


この日の夜-


「なあ、相崎」


「はい!なんでありましょうか?」


「お前、ここだけで戦争は終わると思うか?」


「はぁ…」


「俺は思わないな、このあと敵さんは本土までくるだろう」


南條は予想していた

日本の反撃はない、このまま本土まで後退するだろうと


「そうなれば敵さんは容赦なく虐殺を始めるだろう」

「そうはさせんように、我々も最善を尽くさねばならん」

「敵は手ごわい、明日からはいつも以上に心して戦え」


「はい!」

 ・

 ・

 ・


大空にエンジン音が轟く


「隊長!右前方2時の方向に敵機!」


「よし、我が隊は前方の雲に入って逆落としをかける、行くぞ!」


タンクを落し零戦は上昇を始めた

降下する時には既に下方にメザシ(P-38)、B-25の編隊が飛んでいたという


人の事を思わず、ただ、撃墜するのみ

…と考えていた相崎は機銃のレバーを引いた


ダダダ…


P-38が火を噴いた

撃墜成功

これはほかのパイロットの目にも移った

正式に撃墜1である


旋回性能や低高度での空中戦に勝る零戦の

前に低高度での空中戦が苦手でかつ

旋回がどうしても大回りになってしまう双発のP-38は

不覚か、零戦に次々落されたという


(いい位置だ…)


南條がP-38の後ろについた

7.7ミリと20ミリを同時発射


ダダダ…


これだけの射撃を

食らえば丈夫な米軍機もひとたまりもない

P-38は海にドボンだ


一方相崎は戦友、古賀と共にB-25を攻撃していた

二機同時に機銃のレバーを引き

エンジンを狙った


ダダダ…


まずB-25のエンジンが発火

がんばって飛ぼうとするが爆発、大破した


桁外れの運動性能、20ミリの大火力、高い上昇力

零戦はこれぐらいの飛行機なら圧倒することができた

だが、零戦を上回る飛行機も当然あった



13日、トラック島から援軍に来た小沢第3艦隊の司令部が

突如トラック島に向かって引き上げを開始した


ラバウルのパイロット達には

信じられない事態であった


「また…昔の俺たちだけに戻ってしまいましたな」


その後…


「現存兵力をつかって、敵機動部隊を

 撃滅せよと命令が下った」

「私からはとくに言う事はない、諸君の健闘、成功を祈るのみである」




「回せー!」


「コンターック!」


日本海軍の鈍りである

これは接続を表すコンタクトの鈍りだ


銀翼連ねて 南の前線… 


ゆるがぬ護りの 海鷲たちが… 


肉弾砕く 敵の主力 栄えあるわれら… 


ラバウル航空隊…


零戦は…今日も休む事を許されなかった…


バババ…


火山灰を巻き上げ、今日も激戦の大空へ


「いってらっしゃーい!!」


「がんばってくれー!!」


「生きて帰ってこいよぉ!!」


整備兵達が笑顔で

これから戦場へ向かう兵士達を見送った

ここだけを見れば、大変華々しいものである


その頃、出撃した飛行兵たちは-



「隊長!右上空!敵機!」


「うん…旋回!!」


ブオオ…


爆音を響かせ

今日も大空へ

この日の相手はヘルキャット

零戦にとって最強の相手であった

本命のコルセアよりも、日本軍より恐れられていた

ヘルキャット戦闘機は2000馬力のエンジンを持ちながら

600キロ弱とあまり速くはないが560キロの零戦の相手を

するには十分な速度、そして高い運動性能、なによりグラマン鉄工所

のあだ名どおり、ものすごい丈夫であった


新米が機銃で機体をボロボにされても生き残る

次にいくときには…もう新米ではない…



ダダダ…


今日もいつもどおり、激しい空戦を展開した


「生きて帰れよ!!」


南條は戦場の兵士

のわりには心優しい

人に銃弾が当たらぬよう敵機を撃墜した


人殺しはたとえ仕事であっても

あまりやりたくないそうである


だが…


ダダダ…


一機に機銃を放ったところで

突然うしろから光が何個も


気づいたときには零戦は

火達磨であった


「ああ!南條大尉!」


「隊長!」


みんなに見守られ、南條は

火の玉と化し海のほうへ落ちていく


みんな、敬礼で南條を送った

南條はちかくにいた空母に体当たりした

帰還は不可能と悟った結果だろう

実際に帰還不可能状態になって自ら敵艦に体当たりした日本兵はいた


…1944年…



さらば ラバウルよ また來るまでは…


しばし 別れの 涙がにじむ…


戀し懷し あの島 見れば…


郷子の 葉かげに 十字星…



ラバウル航空隊は、1944年、撤退した

歴戦の精鋭部隊のメンバーはこのあと

各地で戦い、多くは散った



いかなる力をもっても、人は無力なのだろうか




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