11話 服は身体の一部ですか?
成程な。確かに人間の服がこいつ等の一部である以上服を着る気になれないのはわかった。
ある日襲って来た人間を見てみると、そこにはここ暫く見かけなかったアイツの無惨な姿が……!なんて事が実際に此処では起きてる訳だ。
「服着てない奴の理由はわかった。けどさ、此処にも服着てる奴もいるじゃん?あれは?」
そうだ、ここにはどう見ても服を着ている種族が居る。
向こうの吸血鬼っぽい奴等もそうだが、奥に居るドワーフやダークエルフっぽい奴等も服を着ている。
「まず奥に居るドワーフ種やエルフ種は魔族では御座いません。彼等は亜人族です。」
あ?そうなのか?亜人族……確かに彼等は一人も紫色ではない。
と言うことは、吸血鬼も亜人族なのだろうか?
そもそもここが魔大陸ならば、何故亜人族が居るのだろうか?
人間とは何だか仲が悪いようだし、魔族と亜人族は仲がいいのか?じゃあ人間と亜人は?
そして亜人が身に付けている衣類は魔族の遺骸ではないのだろうか?
まぁ遺骸だったら今頃こんな場所に居ないか……。
「亜人族……魔族……人族……」
「まずですね、魔族の定義とは体内に一定量以上の魔力を持っている者、そして魔族言語が話せる事……この二つを持ってして魔族と言います。」
「ドワーフやエルフは?魔力持ってないのか?」
此処が所謂RPGとか、異世界とか、ファンタジー世界だとして、エルフって魔法使うよな?風の魔法とか得意な種族じゃないのか?
「亜人族は体内に魔力を持っては居るのですが、魔族と比べると劣ります。そもそも魔族、人族、亜人族は魔法の使い方が違うのです。」
あ、やっぱり魔法あるんだ。
「魔族は体内にある魔力を使い魔法を使用します。人族は体内に魔力を持っていない為、空気中にある魔素を杖や剣、石等で魔力に変換し、魔法を使用します。そして亜人族は精霊により自然の魔素を魔力に変換して魔法を使用します。」
なかなか面白い話である。
魔族は体内に魔力を持っている……つまり魔力を生み出す器官があるということだろうか?
今まで健康診断や人間ドックにかかった事があるが、そんな奇妙なモノは俺の体内にはない。
つまりだ。俺はやはり魔王なんかでは無く、人間と言う事だ。
日本人であるが故に魔王とやらに勘違いされ、連れてこられた人間の一般人な訳で…………
バレたら殺されるって事だよな?
一気に全身が冷たくなった気がする。
知りたくなかった事実に全身を震わせながら、目の前の美形を見遣る。
まさかこいつ等が全裸である理由から、俺の死亡フラグが建つとは思わなかった。
「亜人族は魔族では御座いませんので、独自の文化や文明を持っております。そして亜人族は自然発生する事は絶対にありません。自然発生をするのは魔族だけの特色で御座います。ですので亜人族は生殖器を体内にしまう事は出来ず、衣服が必要となるのです。また、寿命も魔族とは違い限りがあります。人間よりかは長命ですが、どんなに長くとも800歳程度ですね。」
いや、それでも充分だろう。
推定人生80年程度の俺からしたら、一世紀生き抜くだけでも大往生だ。
魔族の成人年齢なんて人生4周くらい出来る。
スケールが違い過ぎてピンとこない。
「亜人族は主に獣の革や綿、絹等で衣類を作ります。奥に居るドワーフドワーフ種は主に金属の加工に長けており、亜人種の装備類は彼等が作っていることが多いです。エルフ種は綿花を栽培しており、ダークエルフ種は蚕を育てております。ここには居りませんが、獣人種は狩りを生業にしている者達がいるので、毛皮や革製品は彼等の特産で御座います。」
成程。種族によって特産が違うのか。魔族は?魔族の特産って何かないのか?………あったら服着てるか。
「そしてあちらの吸血鬼種ですが、彼等は体内の魔力を装備として活用しております。魔族の中には、魔力の糧として人間達から精力や血を必要とする種族が居ります。人間にそれらを分けて貰う為に、衣類は必要なのです。そして衣類を着ていない者達も、魔力の高い者は戦時中等に魔力装備を致します。」
つまり纏めると魔族が服着ないのは『コスパが悪いから』という事でFA?
何と言うか……仕方ない事なのかもしれないが、もっとこう……何かあっただろう!
いや、ちょっと待てよ?
「魔族が全裸の理由はわかった。……因みに聞くが、女性も全裸なのか………………?」
俺にとってはとても重要な事だ。
よくよく考えてみろ。ここに居る魔人種達は真紫も多いが、其れを置いておけば見た目が抜群に良い。
別に俺が全裸の美女を見たがっている訳では無い。断じてない。
ただ男が全裸でそれが種族の特性ならば、女性もそうであるに違いないと思っただけだ。
そして魔人種はきっと顔がべらぼうに整っているのだという……そう、これはただの確認である。
「そうですねぇ………雌は種族特性的に人間を相手にする事が多いので、魔力を装備している事が多いです。」
「はぁ!?」
……ッンだよ!!魔族の種族特性はどうした!!別に美女が全裸で居て不都合ないだろ!!むしろ人間の男から精力や血を奪うなら全裸で問題ないだろ!絶対そっちの方が話が早いって!!!
俺とした事が興奮し過ぎたようだ……。スゥッと息を吸い込み、呼吸を整える。
別に、服、着ててもいいじゃん……。最初から全部見えてても面白味がないじゃん。
最終的にね?最終的にはどの道全裸になるんでしょう?
だったらそのパンティーの一枚ですら尊いとは思わないかね?
隣人を愛し愛される為にはパンティーごと愛しなさい。と昔のエロい人もきっと言っていた筈だ。絶対領域然り、老若男女見えそうで見えないという事は本能的なものを刺激する。何時でも見たいが見たくない。その相反する衝動を人間ははるか昔から抱えてきたのだ。
言わばこれは人類史だ。
全裸だった人類が、葉っぱを、毛皮を、そしてパンツを身に着けるようになり、そして其れを一枚ずつまた脱いでゆく……進化と退化の過程なのだ。そして人間は全裸と云う原初に戻り、獣に戻り、一つの生命を生み出す……生命のサイクル。何と哲学的で神秘的な話だろうか!
あ、着エロはまた別腹の話である。
……兎も角だ。魔族の女性が普段から全裸ではないからと、そんなに怒る事でもなかろうて。
雄共が高確率で全裸だったせいで、変な期待をしてしまったせいだ。そうだ全部ハイオスが悪い。
「そう言えばさ、なんで男しか居ないの?何で女性が居ないの?何で何で?」
三十代は赤子と言われたので、幼児らしく「何で?どうして?」と全てを聞いて回る期が俺にも到来したようだ。
赤子には女体が必要なのだ。つまりは………そういう事だ。
「魔族の雌は……特に魔人種は地位が低くなりがちです。魔王様が御生まれになったと聞き此処に集められたのは、この国を動かしている者達だけです。それぞれがこの中央区で政治や行政、軍事を担っている者達です。」
「何で女性が国の中枢を担ってないんだ?しかも魔人種の女性の地位が低いって……何でだよ!?」
そんなの絶対おかしいじゃん!だってこんなムッサイ野郎しか居ない職場とかやる気も何も出ないだろう。
しかも此処は王政の国。美人秘書が居たり、美人参謀が居たり、美人近衛兵が居たり、お妃様だって……!!
「魔物種や魔獣種は割合子を成し産まれてきます。ですので、子供を産む雌は大切とされますが、その代わりに政治や軍事への影響はないのです。雄は一人生き残れば種を撒けますが、雌はそうもいきませんので、戦争等で死なせる訳にはいかないのです……。それに比べて魔人種は殆どが自然発生でございます。先代魔王様の様に元が人間の場合もございますが、やはり寿命がございませんので、雌は基本的に子を成しません。」
「だったら……」
「ですが、体格や骨格の差はあります。魔人種は人型をしているが故に、男女の差がどうしても生まれます。ですので戦力としてはどうしても劣る……それが何千、何万年と続けば……」
寿命のない老害の凝り固まった頭を解すのに苦労して、地位改善出来ていないのか……。
「魔人種の女性を此処に連れてこられないか?」
俺の発言に周りがややざわつく。
やはり普通だと有り得ない事なのだろう。
別に俺はさっきの話を聞いて、女性が憐れに思ったとかでは無い。
立身出世したい女性が居るのなら、機会がなくて可哀想だなぁ。とは思うが、だからと言ってなんちゃって魔王の、しかも赤子の発言権などたかが知れている。
ただ俺は人間なのだ。美人なお姉さんを舐めまわすように眺めていいのならそうするし、舐めていいのなら舐め回すし、恋愛していいのならしたいし、女性達から馬鹿みたいにモテてみたい。モテたい。滅茶苦茶モテたい。
そして魔王としてちやほやされるなら、なるべく女性がいい。
どんなに目の前のハイオスが美人であろうと、ツルペタであろうと、体内には俺と同じモノが生えている訳でありまして……そう考えたらやはり女性特有の柔らかさが恋しくなったのであります。
「……何故かお聞きしてもよろしいですか?」
「……………俺こう見えても一応赤ん坊なんだぜ?しかも今まで両親に世話してもらってたさ……。やっぱりまだこう、お世話係的な?乳母的な?バブみ的な?」
「それならば子育て経験のある魔獣種か魔物種の方がよろしいのでは……」
イカン!ぶっちゃけ親離れはしてなきゃダメな歳だが、(出来ていたかどうかは別として)乳を求めてるのは本当なんだ!出来れば同じ人間のがいいんだが、見た目大して変わらないだろうから魔人がいいんだ!!
ゴブリンの雌差し出されても困んだよ!コッチはよォ!!!
「あ、いや………同じ種の方がホラ、生態とか…生活とか……ホラ……食べ物とか……ね……一緒じゃん………?」
「…………………………………。」
無言で見てくるハイオスこわい。
「そう言えば陛下は御両親がいらっしゃるんでしたね。」
そう言うとハイオスはにっこりと笑った。
どうやら漸くこのむさくるしさにも潤いがやって来るらしい。