10話 鳥取県民は五十七万人
話のストックが尽きたので、毎日更新ではなくなります。
五百年で百五十万人って…。
年換算すると、年間三千人が鳥取県に移住していることになる。
流石にそれだけの人数が来ていたら何かしら残っているはずだ。
近年大規模な隊編成はされていないと言うことは、過去に三千どころではない大隊が編成されていた筈だ。
しかもよくよく考えたらさ、近年でこそ田舎と言われつつ暮らしやすい土地になったけどさ、500年とか梨すらねーよな。
五世紀前とか、そりゃ二十世紀梨はないよ。
土地開拓も進んでないだろうから、今より人が住んでる地域なんか限られてただろうし。
「ところでさ、さっきから黒色がどーのとか言ってたけど、黒色だと何かあるのか?」
「ええ。魔族の中でも、魔王様にしか黒は現れません。いえ、魔族だけではなく、どの種族でも黒を持って産まれることはないのです。」
………俺の周りは黒普通だったけどなぁ。
待てよ?つまり黒髪黒目黒い肌の………弥助!?織田信長に仕え武将になったという黒人がココに来たら最強の魔王様として崇められまくるんじゃ……?まぁ弥助が日本語喋れたかは知らんが、武将やってたくらいだから出来たんじゃないか?
「人間族は肌は薄い肌色を基本に、薄くなるか濃くなるかが基本ですが、黒は有り得ません。髪色は茶が基本です。亜人族は種によって違いますが、ここに居るエルフ種は白い肌に金色の髪、ドワーフ種は茶色い肌に赤い髪が基本です。魔族は見ての通り、紫が基本ですが、持っている魔力に応じて違う色が出たりもします。特に強い魔力を持ちやすい、龍種、魔人種は魔力の種類により色が変わります。」
魔力とか、龍とか、何かファンタジーな話だ。
いや、ここにいる奴ら見た目からしてファンタジーな感じだもんな……色は別として。
「……アンタも色が違うけど、強い魔力持ちってヤツなのか?」
「はい。私は氷魔法を使いますので、この髪色なのでございます。」
魔力によって髪色が変わるのか………肌の色は魔力とは関係ないのか?
目の色も何かしら関係がありそうだが、魔力の種類とは無関係なのだろうか?
「瞳の色は何か魔力と関係あるのか?」
「ええ。魔族の中には複数の種類の魔法が使える者もおりますし、魔力量によっても色が変わったりします。私は魔力量がそこまでありませんのでこの色なのでございます。」
そうか、魔力の量や種類にもよるのか。
複数の種類の魔法が使えるとか、所謂魔力適性的なものがあるのだろう。
……何かゲームとかラノベの世界みたいな話だ。
いや、ほぼ全員全裸のゲームとかラノベって嫌だな。
現実でも良いかって言われたらアレだけど。
「そうだったのか。でも深紫のお前の瞳も綺麗だな。」
「き、綺麗だなんて…そんな……畏れ多いです。」
そもそも顔の造りが整っていて綺麗なんだ。
そこに深紫の瞳とか、幻想的っていうか、人間離れしてるというか…あ、そもそも人間じゃねーんだっけ。
照れ臭そうに顔を赤らめているところもグッとくるぜ!
胸はぺったんこだけど…!胸はぺったんこだけど…!
「そう言えば魔族ってコレで全員なのか?」
結構な人数居るが、種族として全員って言うと少ない気がする。
五百年であんだけの数が失踪しているって事は、それなりの数が居た筈だ。
魔族は殆どが自然発生するらしいが、それがどのくらいの頻度で発生するものなんだろうか?
三百歳で成人という事は、発生はそこまで頻繁ではないのだろう。
…となると、五百年で損なわれた人的被害は結構なものなのではないだろうか?
「いえ、ここに居りますのは地下居住地区の中心部に住んでおります雄だけでございます。」
「ヘェ〜中心部に住んでる………?」
ちょっと待て、今なんつった?
「聞き間違いかナ?」
「いえ、ここに居りますのは、中心部に住んでいる雄のみだけでございます。」
いやいやいや、いやいやいやいや………。
いや、でも下ついてねーじゃん?
「無性の奴は雄カウントなのか?」
「……?いえ?ここには無性の者は居りません。」
「じょッッッッッッッッッ!!!!」
冗談じゃねーぞコ゛ラ゛ァ゛ッ!
お、雄って!男ってことじゃねぇか!
嘘だろ?嘘だって言え!
「でもお前下に男の勲章がついてねーじゃん!!自然発生だから必要ないってか!?そんな事あってたまるかぁッ!」
「陛下はまだ御生れになられたばかりですので……。我々魔人種は番いを作り子をつくる事は殆どありません。寿命など無いに等しい我々が、悠久の時を一緒に過ごすというのはなかなかに難しい事なのです。そういった者たちが全く居ないわけではありませんし、中には亜人族など別の種族と番いになり、相手の寿命が尽きるまで一緒に居り、子を成す場合もあります。ですがそれはあくまでも稀な事。つまり普段必要のない器官なのです。しかも我々雄にとって例外なく弱点となります。そんな弱点を体外にさらけ出しているだなんて、自殺行為に他なりません!………という訳で、普段は体内にしまっています。」
「………?」
体内に……?え、何それ、魔人種すごくね?
「魔族すげぇ。」
「…魔族全てが出来る訳ではありません。オークやゴブリンなどの種族は寿命も短く、魔力も相対的に少ない為、番いを作り子を成す必要があります。そういった者は使う頻度も高いですから腰蓑を巻いていたりします。」
「あ、そうそう…腰蓑だよ。単刀直入に聞くけどさ……何でお前ら全裸なの?」
ずーっと気になってた。弱点を体内に収納出来るのはわかったけどさ、何も全裸じゃなくてもいいじゃん。
人族がいるって事は、人間は服着てるんだろ?
あそこの見るからに吸血鬼です!って主張してる奴は、ちゃんと服着てるぞ?
濃紺に裏地赤のマントなんか羽織っちゃって、どう見ても吸血鬼だ。
「服が必要ないからでしょうか?服を作るのは大変ですし…。」
「よくわかんねぇけどさ、国がある以上は多少のいざこざとか、国の軍隊的なものもあるんじゃねーの?」
「それはまぁ…今は停戦中ですが、戦争もありますし………。」
「だろ?ここでの軍隊や戦い方がどんなのかは知らないけど、必要な装備ってモンがあるんじゃないのか?他国の奴等も全裸ならそれはまぁ仕方ないけど。」
「いえ、主に戦争相手となる人族共は服を着て鎧を装備しております。」
「だろ?なのに何で必要ないんだ?相手は完全防備、コッチは裸一貫だなんて分が悪過ぎないか?」
そう言うと目の前の此奴は…………………
「あ、そう言えばお前の名前きいてなかったな。名前なんて言うんだ?」
「魔王様が…名前を………!」
いたく感動したかのように手で口許を抑えた男にゲンナリする。コイツ本当に顔はいいのになぁ。
「私はハイオス・カルミラージと申します。カルミラージ家長子でございます。以後お見知りおきを頂けましたら、幸いで御座います。」
うわぁ………名前までオスって言ってくる………。
「んん?魔人種って基本自然発生なんだよな?なのに家族居るのか?」
「ええ。魔人種は自然発生が多いので、産まれたばかりは一人です。ですが力が不安定な赤子をそのままにしておく訳にはいきませんので、何名か、出来れば同類同士で家族を作るのです。ここに住む以上管理の為の戸籍は必要ですから。」
戸籍ってここ役所あるのかよ。
裸族だがそういうところはちゃんとしてるんだな。
「あ、で……何で殆ど裸なんだ?」
「あぁ、そうで御座いましたね。…………魔王様は人族共が着ている衣服や鎧が何から造られているのか知っておりますか?」
「綿や絹や鉄なんかじゃないのか?」
「…………それ等も使われておりますが、其れは極一部で御座います。人族が身に付けているモノの殆どは、我等魔族の遺骸や遺品から作られるのです……。」
えっ、なにそれこわい。
遺骸?遺骸って死体って事…だよな?
ここら辺の人間ってこいつ等殺して解体して服作ってんの?えっ……えっ?
ちょっと意味がわからないですね。
「なにそれこわい。」
「そうで御座いましょう!」
混乱のあまり脳内に浮かんだ言葉がそのまま口から出た俺に対し、ハイオスは食い気味に被せてきた。顔が近い。
「人間共は我々を素材などと宣い、襲撃してくるだけでは飽き足らず、侵略、略奪をした上に殺害し、遺骸までも弄ぶのですッ!!!そしてその遺骸を元に鎧や道具や薬を作り、其れを身に着けまた我々を襲撃しに来る………おぉ、なんと恐ろしい事でしょうか…!」
こいつ等は人間から見たら、立派なモンスターなのだろう。
俺も最初は絶対に食われるって思ったし、見た目が真紫で、人間とは違う身体をしている。
コレがゲームの世界ならば、俺は間違いなく他の人間と同じ事をしていただろう。
モンスターを倒して、素材を集め、それを元にもっと強くなる。……人間にとっては其れは当たり前のことなのかもしれない。
けれどもここに来て、こいつ等と話せると知った。話してしまった。言葉を交わし、意思の疎通が出来ると知った今、俺は以前と同じ様に魔物を狩ることが出来るだろうか?
いやまぁ、現実世界で急に戦えって言われてもきっと勝てないが……。
ここ基準で言えば俺の戦闘力は、きっとたったの3とかのゴミなんだろう。
其れを差し置いて、もし、俺がチート級の強さを持っていて、ここに居るやつ全員倒せるレベルだったとして、俺は今更こいつ等を殺す覚悟はあるのだろうか?
目の前で大袈裟に震えるハイオスを見る。
……本当に顔だけは良いなコイツ……ではなくて、今の俺にはとてもじゃないが、そんな事をする勇気はない。
それどころか俺は魔王らしいので、ここでは襲われる側なのだろう。
見知らぬ奴に襲われて、殺されて、その後バラバラに解体されるんだろ?
殺人事件じゃん!!!
想像をしてゾッとする。
ホラーを観て「結局一番怖いのは幽霊じゃなくて人間だよな〜」なんて事を俺も言ったりしていたが、結局一番怖いのは魔物じゃなくて人間だよッ!間違いない!!