9話 鳥取県は異世界ですか?
何か分からんが、生きてる事に感動された。
美人が俺が生きていると言う事実に涙を流して喜んでいる。
そんなに喜んでくれるとか、俺生きてて良かった。
………こんだけ喜んでくれてるし、ワンチャンあるか?あるのか?
「…取り乱してしまい、お見苦しい姿をお見せしてしまったこと、平に御容赦下さい。」
「いえ、何か、逆にありがとうございます。」
美人さんは泣き止むと、少し恥ずかしそうに頬を染めた。はい、可愛い。
何しても美人な人が恥ずかしがって頬染めるとか、殺人的な可愛さだわ。
美人で可愛くて、俺の事全力で持ち上げてくれてるとか、ここは天国か!
普通に惚れるわ!全力でありがとうございますッ!だ。
肩幅が広いとか、胸がないとか、割れ目がないとか、もうどーでもいい。
この顔見ながら一生過ごせるなら、無性もどうにかなりそう。
ストライクゾーン拡がりそう。
「ところで、ここが玉座の間で、ここに座ってるって事は、俺は王様になるんですか?」
そう、そこんところハッキリさせとかねーとな。
今更生贄展開はないと思うけど、突然王様ってのも訳分かんねーし。
状況とか未だによくわかんねーし。
「あ、まだ赤子の陛下にはよく分かりませんよね?失礼致しました。」
「アラサーって赤子なのか?」
「我々魔族の成人は大体300歳位ですので。」
んん?今サラッと重要な事言わなかったか?
“魔族”……?
「魔族って………?」
「我等の種族名で御座います。」
「………俺は?」
「御生まれになられたばかりの魔王様に御座います。」
「つまり俺って………」
「魔族であり、魔族を束ねる者で御座います。」
「バブゥ………。」
………俺、三十年間人間だと思って、人間として生きてきたわ。
普通に人生八十年換算で、年々毎日が光の速さで過ぎてくから、もうジジイになったら一年が一日位の感覚になるんだろーなーとか思って、なら三十路で感覚的には人生半分終わってるみたいなもんか?とか思ってたけど、“人生”始まってもなかったっぽい。
いや、でも、老け方がちゃんと年相応。
魔族の成人が三百歳なら、もっと成長もゆっくりのはず…………やっぱり何かの手違いで、俺は普通の人間だよなぁ?
両親も普通に人間だし。
「俺………人間なんですg」
「そんな筈が御座いません!」
誤解を解こうと思って人間発言したら、被せ気味に否定された。
「黒い御髪に、黒の瞳!二つも黒をお持ちになる御身が、魔王様以外の筈が御座いません!」
「黒髪黒目とか、日本人なら割と普通じゃん。」
「ふ、普通…………です、と?」
「俺の親だって今は白髪生えてるけど、元々は黒かった訳だし。」
「陛下には親がいらっしゃるのですか?!」
「そりゃ居るでしょ。アメーバやプラナリアじゃねーんだから。」
さっきから驚きまくりの美人さん達の話を手短に纏めると、どうやら魔族の中でも魔人は一部の種族を除き、自然発生する事が多いらしい。
『自然発生って(笑)』とか思ったりもしたが、目の前の全裸達に凹凸が無いのもそのせいなのか……?とか思ったら、本気っぽくて笑えなかった。
でも魔族の殆どがそうなら、ちゃんと下に凸が付いている俺は、やはり魔族ではないのではないだろうか?
「御両親がいらっしゃって、御両親とも黒をお持ちだなんて……………前代未聞です!因みに御両親はご健在で?」
「あー、普通に生きてるよ。実家に帰ったら普通に居ると思うってか、そろそろ俺が居ないのバレてるだろうし、ココが何処かわかんねーけど、はよ帰らんとヤバい。」
「ココは魔大陸、地下中心都市で御座います。陛下の御家族様は、どちらに?」
魔大陸?地下に中心都市があるってーのも珍しいけど、魔大陸って何処だよ。
「鳥取県からどん位の距離よそれ。」
「とっ…………トットリケン?…………陛下のご実家は…『トットリケン』なので御座いますか………?」
「ん?あぁ。魔大陸でも鳥取県通じるんだなー。俺魔大陸は知らんかったわ。」
鳥取県を知ってるって事は、ここってやっぱり国内なのか?
いやいや、でも“魔大陸”って言ってたしな。
日本は島国だから、そもそも大陸なんて大層なモンじゃねぇ。
そもそも大陸に住んでる人間のどの程度の割合の人が『鳥取県』だなんてドマイナー県を知ってるって言うんだ。
………地元に対してこんな事考えるのも虚しいが、日本で一番人口が少ないのは覆らない事実だし、「鳥取県民はペットとしてラクダ飼ってる家がある」とか言う法螺話を、同じ国内の人間ですら信じる人だっているんだぞ。
最近では『鳥取県』って言うのが既にネタっぽくすらある。
そんなしょっぺぇ県を知ってるだなんて、かなりニッチな感じだ。
外は見たことの無い風景、けれど鳥取県を知ってる人外の奴等………アレか?
所謂、『異世界』とか、『裏世界』とか呼ばれるような場所なんだろうか?
魔族ってのが、妖怪とイコールで考えてもいいものなのかはわからないが、日本風に言うなれば『幽世』とか『あの世』と呼ばれる感じの…………いや、でもそれだと俺死んでる事にならないか?
日本なら、あの世の王様は『閻魔様』の筈だ。
『魔王様』だなんて、そんなRPGじみた呼ばれ方はしない筈。
「……トットリケンで、普通に生活していけるのですか?」
「失礼な!人口少ないけど、ちゃんと生活していけてたからこの歳まで生きてんだろーがよ!(凡そ十年は都会出てたけど!)」
「しっ、失礼致しました!トットリケンは、我々ではまず生きて帰ることの出来ない土地でしたので、まさか誰かが生活をしているとは露ほども思わず………」
「セーイ、セイセイセイセーイ。」
鳥取県で生きて帰って来られないって、どういう?!
鳥取県は人外魔境か何かか!?
いや、コイツらが居る場所が人外魔境か。
『魔族も寄り付かない地鳥取県』とか言うキャッチコピーでもあんのか!?
せめてもっとソフトに『動物王国!鳥取県』とかにだな………いや、今は鳥取県のキャッチコピーとかどうでもいい。
魔族にとって鳥取県ってどんなイメージ持たれてるんだよ?
「……因みに、魔族から見た鳥取県ってどんな場所?」
「く、口に出すのもはばかられますが……」
口にも出せないレベルの!?
ネタとかじゃなくて?
…………一応生まれ育った土地だし、何か逆に聞くの勇気いるわ。
「……トットリケンは、この世界の果て、魔大陸の更に奥にあると言われております。そこには砂だけの不毛な地が延々と続いていると言い伝えられております。」
鳥取砂丘の事かな?いや、言う程延々ではないぞ。
横に長いけど、駐車場から海までは、一応砂山一つ越えたら着くし、小学生の頃課外授業で行かされたが、雨の日に小学生が歩いて行って海見て往復出来るレベルだ。
……楽しいか楽しくないかで聞かれたら、雨の日はクッソつまらんが。
と言うか、不毛の地って言うなよッ!
むしろ緑に侵食されてきつつあるせいで、世の中が砂漠化を阻止しようと一生懸命な中、鳥取砂丘だけは緑化を阻止しようと一生懸命になると言う、世界から逆行する訳の分からない事態になってんだぞ!
そして鳥取県を『世界の果て』って言うのはやめなさい。
地球が丸い限り果てじゃねーわ。
周りに島根県も兵庫県も岡山県も日本海もあるわッ!!
百歩譲って「世界の果てです。」って言っていいのは日本の真裏に位置するブラジルの何処かだけだからな。
「そして不毛の地で体力を削られ、喉が渇いたところに、甘い芳香を漂わせる、瑞々しい果実のなる植物が現れるそうです。」
「あ~、梨な!」
「ナシと言うのですか!?実在するのですね!?……やはり伝承は本当なのですね。」
伝承って言った。
鳥取県ってそんな幻の地みたいな扱いなのか……?
ネタにしても酷い言われ様だ。
「その芳香に誘われ行ってみると、瑞々しい果実がたわわに実った木が、そこかしこと生えているそうですが…」
「梨畑だな。」
「その実を取ろうとすると、ベタベタとした粘液を飛ばし、こちらの身動きが鈍くなったところを囲んで襲ってくるんですよね!?殆どの者はそこで死に絶え、帰ってこないらしいので、今では古い伝承としてしか伝わっておりませんが………。」
どんなクリーチャーだよ!
くだものの果汁がベタベタするのはどれも同じだし、そもそも梨は自立型歩行植物でも、群れで襲ってくるエネミーでもない。
梨に襲われて死亡した奴を俺は知らないし、その巫山戯た伝承残した奴は、鳥取県民に謝った方がいいと思う。
「お前のせいで後世にとんでもない風評被害残ってるぞ!」って言いたい。
「………不毛の地ってのは、『鳥取砂丘』の事だろうが、言う程不毛でも果てがない訳でもないぞ?砂丘の奥には海もちゃんとした土地もある。大体『延々~』とか言うけどな、近年入ってみた奴とかいないのか?案外あっさり歩いていける程度の距離かもしれねーじゃん。」
「……今でも入って行く者もおります。以前は調査隊も組まれていました。しかし、ここ五百年余りは、無事に帰ってきた者はおりません。」
「うっそーん……。」
五百年間で一人も無事に帰ってこられない土地って何だよ………引くわー。
大体、鳥取県には人間と野生動物くらいしか住んでねーぞ?
海沿いの一部地域では妖怪が蔓延ってるし、一部山間部では『日本最古の鬼伝説』みたいなのが残ってるせいで、無駄に鬼推ししてる場所もあるが、残念ながら生きて闊歩しているところを俺は見たことがない。
それに自称魔族のコイツ等みたいなのも生まれて初めて見た。
鳥取県に外国人居住者は居るが、都会と比べると雲泥の差だし、こんだけ揃いも揃って美形、美人だと噂になるだろう。
………全員が東部に固まってるなら西部の人間は知らない可能性大だが。
「もしかして……鳥取県に来てみて、意外と住み心地良くて居着いたんじゃないか?」
鳥取県の東部と西部で人間の気質はかなり変わる。
西部は流通をして生きてきたので、田舎の割にはオープンな気質だ。
どちらかと言えば島根県の方が身近に感じていたりする。
東部は農業主流だったので、内内の結束力が強い。
シャイで横の繋がりがガッチリしているので、噂の広がりはえげつないものもあるが、内輪に入ると優しい人が多いと思う。
中部?…………そんなものはなかった。
割とのほほんとした人間が多いので、慣れてしまえば住みやすい。
肉、魚、野菜と満遍なく採れるし、最近の俺の一押しは牛肉だ。
日本一になっていたし、値段は張るが、当たり前に美味い。
西部では魚介が有名なイメージが強いが、実は結構特産が満遍なく存在する。
大山辺りでは乳製品や茶そば、おこわ、鶏肉なんかが美味しいと思う。
米子市はネギと豆腐が美味い。
西部以外でも、他県の人には食べ方が解らないと言われる板わかめや、もち海苔と言った海藻類。
スルメイカの麹漬けや、あご野焼き、とうふちくわといった加工品。
砂丘の辺りでは、らっきょに長芋、珈琲………。
そして海の幸、紅ズワイガニに松葉ガニ。
俺的にカニは『親ガニ』と呼ばれている松葉ガニのメスが美味しいと思うのだが、確か……セコ蟹とも呼ばれていた筈だ。
身は少ないが、タマゴとミソが美味いんだ。
それから『ドロエビ』と呼ばれている海老。
アシがはやく、すぐ傷んでしまうため地元でしか食べられていないが、汁に入れると、甘みが強く美味しい。
身は火を通すとプリプリではなく、もっと柔らかい感じだ。
弾力はないので、プリプリとしたエビが好きな人は刺身の方がいいかもしれない。
あれも確か別名があった筈……………確か……『モサエビ』だ。そうだ。
ドロエビにしろ、モサエビにしろ、美味しいのに名前がイマイチだと思っていた。
……まぁ食べ物の事は置いておいて、車がないと生活が出来ないのは不便だが、それ以外はそれなりに歓楽街もあるし、実はビジネスホテルの激戦区であったりもするし、温泉もあり、鮎が釣れたり、蛍が見れたり、雪だって積もるし、大変さと居心地の良さは共存している。
何処でも住めば都なんて言うのだし、気に入ってくれたのかもしれない。
「因みに、この500年でどんくらいの人が帰ってきてないんだ?」
「そうですね……詳しい数は分かりませんが、ざっと150万人程でしょうか?」
「嘘だろおい………。」