第二話 迷子の泣き声
ストックが全然ないので頑張って書きます。
「諸君の未来がかかったゲームと言えよう」
「………俺らの……未来…?」
俺が想像していたゲームとは全く違う答えに少し戸惑う。もしかするとこれはWDPのサービスが始まった記念で開催されるゲームなのか?それならばそうと説明をされるはずだ。そう思いつつ、俺は人型の光を見る。だが、話され始めたのは今から始まるというゲームの説明だった。
「このゲームはただのソルフィアのテストではない。傷を負えばHPは減るし、ご飯を食べれば満腹感がでる。そういう意味では、この世界はもう一つの現実と言ってもいい。諸君は今、私が作った仮想の世界へとコンバートされた。この世界のフィールドは半径100kmの円形になっていて、その中心には半径5km程度の街がある。そこがフィールドの中で唯一HPが絶対に減らない安全地帯になっている」
人型の光の横に、青い円形の形が映し出され、その中心部分が赤いラインの線で囲まれる。この赤で囲まれた部分が安全地帯だろう。
「それ以外の場所は一時間後にはモンスターがポップし始めるようにプログラムしてある。次に、この世界を終わらせる方法を教えておこう。このゲームには普通のモンスターと四体のボスモンスターがいる。この世界のフィールドは四つのエリアに区切られていて、一つのエリアごとに一つの塔が立っている。エリアごとにポップするモンスターのレベルも異なり、フィールドの中心から離れれば離れるほどモンスターも強くなる」
青い円に「X」のラインが引かれ、円がきれいに四等分される。そして、一つの区域ごとに塔を思わせる円錐の光がたつ。
「一時間後、フィールドに四つの塔が立つ」
急に俺の目の前に大きな縦長の円錐に似たような形をした青色の3D画像が現れる。
「その塔はダンジョン形式になっていて、最上階にボスモンスターがポップするようになっている。ボスモンスターをすべて倒すと、ゲームクリアとなる」
塔の一番下から最上階まで赤いラインが走り、そのラインが最上階に着いたところで、円錐に似た3D画像は消え、代わりに最上階の3D画像が映し出される。説明が終わるとともに、3D画像も淡い光となって散る。
「だが、このゲームには制限時間がついている。一年間だ。君たちは今現実世界でつけているソルフィアから常に脳に直接信号を送られている。この信号に耐え続けられる時間は一年だ。これ以上時間が立つと、脳に支障をきたし、死ぬものさえ出てくるだろう。故に一年間だ。もちろん、一年以上たったからと言って私はこの世界を終わらせるつもりはない。君たちがこの世界から出られるのはクリアされた時のみだ」
俺は強い不安に駆られる。今、現実世界で自分がどうなっているのか、本当にクリアできるのか、など考えれば考えるほど不安がこみ上げてくる。だが、そんなことも気にしないかのように説明を続けられる。
「このゲームの中で死んだ時は、その人の脳を一年後までシャットダウンする。このゲームがクリアされる、または今いる五万人が全員ゲームオーバーになった時、この世界で死んだ人たちのソルフィアは一斉に高温の熱を脳に送り、破壊するようにプログラムした。レベル確認や装備の変更など、ゲームで言うところのメニュー表示は、人差し指と中指をそろえて、空中に「D」と書くと出てくる立体画面に書いてあるはずだ。それと、このゲームの間はデータタワーの使用は出来ない。時間は視界の右端で確認できるはずだ。では、検討を祈る」
さっきまであった、画面が淡い光を放ちながら消滅し始める。ゆっくりと五秒程度かけて、消えた。途端、今まで我慢していたかのように、人々の絶望の声が響く。それが収まるのは思ったより早かった。理由は一つだ。一時間後には俺らが今いる地域にはモンスターがポップし始めるのだ。早く安全地帯に移動しなければモンスターに殺される。
「…………………うそ……………だろ」
俺は絶句した。このゲームの説明をした人、Mr.X(仮)は確かに言ったのだ。「このゲームの中で死ねば、その人は現実世界でも死ぬ」と。そして、「一年以内にこのゲームをクリアしないと全員死ぬ」と。このゲームをクリアしない限り、俺たちに未来はない……………
「ただのゲームで………人が………死ぬ…?」
俺が考えていることを察したようで、姉さんが訪ねてくる。
「一旦、一時間後までに安全地帯へ逃げましょう!早くいかないと間に合わない!」
俺と姉さんは道がある方へ向かって移動した。だが…………………………。
「さすがにこれは……………混みすぎだろ………………」
「これじゃ絶対に間に合わない…………………………」
フィールドの狭くなっている道を大勢の人が一気に通ろうとして、道はふさがり、行列ができている。俺たちは人と人の間の隙間を無理やり開けて、前へすすんで行く。その時、俺たちの後方で幼い子供の泣き声が響いた。人々の視線がそちらへ向く。
「うわぁぁぁん…………うっうっ………うわぁぁぁぁん……………!」
泣き声が聞こえる方向には、うずくまった女の子がいた。今の俺たちと同じように低レベルな装備を付けているその少女を、人々はその子を避けて進む。まるで、厄介ごとはごめんだというかのように。もう一度、今度はもっと大きく、その女の子の声が響いた。
「マ…………ママぁ……………ママぁぁぁ…………………!」
その声が聞こえた瞬間、俺の隣にいた姉さんは、もう我慢できないというように、その女の子の方に向かって走り出した。姉さんはその女の子の涙をぬぐいながら話しかけている。俺もすぐそっちに向かった。
「何かあったの?」
「ママぁ……………!」
「お母さんとはぐれたのね。もう、大丈夫よ。お姉ちゃんが助けてあげるからね」
櫻は、泣き続ける女の子をやさしく抱きしめた。次第に泣き声がやんでいく。泣き声が聞こえなくなり、姉さんはそっと女の子をはなす。
「あなた、お名前はなんて言うの?」
「………ミキ」
「ミキちゃんか。いい名前だね」
姉さんがやさしく微笑みかけると、ミキの表情も自然と和らいでいく。そして、突然その表情は暗くなった。
「ママと…………はぐれた……………」
「どこではぐれたの?」
「………そこ」
ミキは行列を指して言う。そこは、さっきと変わらす人であふれかえっていた。
「お母さんはどんな人なんだ?」
俺は、ずっと閉じていた口を開いた。
「わかんない………ごめん…なさい……………」
「謝ることはないよ。見たらお母さんだとわかる?」
「うん……………」
「じゃあ、探しに行こうか」
俺の反応が意外だったようで、櫻が少し驚いている。
「いいの?舜ちゃん。この子のお母さん探してたら、絶対に一時間では間に合わないよ?」
「別にいいよ。間に合わなければ走ればいい。ミキを置いていって生き延びるよりもそっちの方がいい」
「ありがとう、舜ちゃん」
そして、俺たちはミキの母親を探すことになった。俺が母親を探すことを承諾したのは、さっき言ったことだけが理由ではないと思う。多分、心のどこかで俺は、親がいないことに寂しさを感じていたのだろう。だから、ミキには親がいないことでつらい思いをしてほしくないという気持ちもあったのだろう。と、俺はずっと後に思った。
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ミキの親を探し始めてからもう三十分はたつ。もう、一時間以内には間に合わないだろう。どうやって、安全に移動しようか………………………。そこまで考えた時、かすかに「ミキぃ!どこお!」と叫ぶ声が聞こえた……………気がした。
「なあ、今の聞こえたか?」
「今のって?」
どうやら、聞こえたのは俺だけだったらしい。だが俺は確かめずにはいられなかった。俺は二人を連れて、声のした方向へ向かった。俺はただただミキの母親が見つかるよう願った。
声が聞こえた場所には一人の女性が膝をつき、両腕を地面につけ、泣いていた。その体にはたくさんの泥が付着し、ところどころ擦り傷を負っていた。その瞬間、隣にいたミキが大声で叫びながらその女性に走り寄って行った。
「ママぁ!ママぁ!」
「……………!」
ミキの声に気づき、その女性がゆっくりと顔を上げた。ミキの姿を見て、目を大きく見開き、右手でミキの頬に触れた。そして、もう離さないと言わんばかりにミキを抱きしめた。その女性の頬には、先ほどまでとは違う涙が流れていた。それから十数秒がたち、その女性は俺たちの方に視線を向けた。
「……あなたたちがミキを助けてくれたのですか?」
「まあ、そんなところです」
「……本当に、ありがとうございます……何とお礼をしたらいいか………あなたたちがいてくれて、本当によかった…………」
「ありがとう!おにーちゃんとおねーちゃん!」
女性の傍から、幼い声が聞こえた。俺はミキの母親を探して、本当によかったと思った。幼い子供がただ純粋に俺らに感謝していることがうれしく、誇らしかった。それから俺らはミキたちと少々会話し、別れることになった。一時間以内にはもう間に合わないので、ミキたちは誰か人を探して、安全な方法を見つけて安全地帯に向かうそうだ。
「あの……………僕たちが安全地帯まで送らなくても大丈夫ですか?」
「お心遣い感謝します。ですが、あなたたちも安全地帯を目指さなければいけないはずです。ミキを助けてくださったことでかなり時間を使っていらっしゃるのに、さらに時間を使わなければならないお願いなどできません」
ミキの母は、にこっと優しく微笑んだ。俺は少し悩んでから頷いた。
「…………分かりました。では、俺たちは行きます」
「またどこかで会いましょう」
「またあおーね!おにーちゃんとおねーちゃん!」
「もちろんです」
「あぁ、またな」
ミキたちとの挨拶を終え、俺たちは別れた。この時の俺は考えもしなかった。この親子とのあまりにも残酷な再会がすぐに訪れることを…………………………
ミキたちと別れ、俺たちは安全地帯に向かって走っていた。
「舜ちゃんがああやって言うのちょっと意外だったけど、嬉しかったよ」
櫻が微笑みながら話しかけてくる。多分、この言葉の中の「ああやって」とは、俺がミキたちを安全地帯まで送ろうとしたことだろう。
「まあ、ミキたちだけじゃ心配だったからな」
俺の言葉に、櫻は一瞬フリーズし、誰が見ても嘘と見抜けるウソ泣きをしながら答えてくる。
「私は、あの舜ちゃんがそんな優しい子に育ってくれたことがほんとに嬉しいよ……およよよよ……」
「俺今までそんなに優しくなかったかっ!?」と突っ込みたくなるのを俺はぐっとこらえつつ、櫻の言葉をスルーする。俺たちは今、ある意味生死の境界線に立たされているわけで、ふざけている暇はないのだ。と、考えつつ俺は走った。俺がスルーしたのを悟ると、櫻はぷくーっと頬を膨らませてすぐに戻した。俺の顔を見て何かを悟ったのだろう。それから俺たちは無言でただ走り続けた。
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走り始めてから十五分頃が経過したころ、急に地面が揺れだした。俺の視界の右端に映された時間を見ると、このゲームが始まってから一時間とちょっとたっていた。もう、モンスターのポップが開始したのだろう。俺たち足を止めて揺れが収まるのを待った。揺れが収まり、また走り出そうとした瞬間、上から何か落ちてきた。そう思った時には………………
「………………え?」
俺たちは落ちてきたものの着地で発生した風で吹き飛ばされていた。
「……………何なの………?」
「…………何が起こったんだ……?」
俺と櫻は何が起こったか理解できず、落ちてきたものの方を見やった。少しずつ風が弱まっていくにつれ、落ちてきたものの姿が明らかになる。それは……………あまりにも大きい鳥だった……………。口の周りには絵の具をこぼしたように赤い色が付着している……………血だ……………………。俺は鳥の口付近に何か他の物がついているように見えた。
「……………ん………?」
視界が完全に元通りになり、鳥の口付近がはっきりと見えた。
「………お…おい…………うそ…だろ………?」
「………な…なんで……?」
鳥の口付近についていた物は、赤く染まり、ズタズタに引き裂かれた服だった。それも、とても見覚えがあったもの、ついさっき別れた人たちが着ていた服。
「……………ミキ………!」
第二話も読んでくださりありがとうございます。もし、「続きが気になる!」や「面白いかも!」と思った場合は下の星に色を付けてやってください(*- -)(*_ _)ペコリ 第三話もよろしくお願いします!