白雪姫(文化祭)
1.鏡の間(女王前・鏡・暗殺者)
ナレ「昔々、あるところに美しい女王様がいました。女王様は毎日、真実を告げる魔法の鏡にたずねました」
女王「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」
鏡「それは女王様です」
女王、満足げに頷く。
ナレ「毎日、毎日。決まりきった答えを聞くために、女王は質問を繰り返します。鏡よ、鏡。この世で一番美しいのは――?しかし、ある日のことでした」
女王「……何ですって?もう一度言ってごらんなさい」
鏡「ですから、この世で一番美しいのは『白雪』だ、と申したのです」
女王「昨日まではわたくしが一番だったのに……そんなの、許さない。認めてなるものですか!お前たち!いるんでしょう!?出てきなさい!」
暗殺1「お呼びでしょうか」
暗殺者、出てくる。
女王「あの憎き白雪を消しなさい!報酬に糸目はつけないし、どんな方法を取ってもかまわない!だから一刻も早くヤツを消して!いいわね!?」
暗殺「承知いたしました」
暗殺者、はける。
女王「誰にも譲ってやるものか。この世で一番美しいのは、わたくしよ……!」
暗転。
2.森(暗殺者、白雪、木、鳥、ゴリラ)
明転。森の中のセット。木、立っている。
暗殺者、白雪を無理やり舞台袖から引っ張ってくる。
白雪「離して、離してったら……!」
暗殺1「うるせぇ!おとなしくしろ!」
白雪「離してよ、あたしが何したって言うの……!」
暗殺2「女王様はお怒りなのだ!この世でもっとも美しい者の座を奪ったお前を、どんな方法を使ってでも抹殺せよとのご命令だ!」
暗殺1「わかったらおとなしく殺されろ!」
暗殺1、白雪の髪を乱暴につかむ。
白雪「離してって……言ってるだろうがァ!(ドスのきいた声で)」
暗殺「ひぃ!」
白雪、全力で二人を振り払う。暗殺1,2、吹っ飛ぶ。
白雪「てめぇら乙女の髪ひっつかむたぁ、いい度胸してんなぁ?”あ”ぁん?(ドスのきいた声で。指を鳴らしながら)」
暗殺1「ひ、ひぃ!化け物!箱入りの姫じゃなかったのかよ!」
白雪「化け物とは失礼ね!ちょーっと力は強いけど、あたしみたいに可憐でか弱い女の子、どこ捜してもいないわよ!」
暗殺1「そのちょっとが強すぎるんだよ!」
暗殺2「おい馬鹿、無駄口たたいてないで逃げるぞ!このままだと、何をされるかわかったもんじゃない!」
暗殺1「あ、あぁ!くそっ、覚えてやがれ!」
暗殺者、はける。
白雪「お母様によろしく言っといてね~……はぁ、久しぶりに全力出したら疲れちゃった。無理やり引っ張ってくるなんて、ほんとサイテー。いくら命令とはいえ、人としてどうなの?一生女の子から『なんか生理的に無理』って思われる呪いにでもかかればいいのに」
白雪、座り込む。周りの木や動物はそーっと近づいていく。
白雪「この世で最も美しい者の座を奪った、ね……このアタシが?そんなの、ぜんぜん……」
ウサギ1「信じられない?」
白雪「なにっ!?」
兎2「自信がないのー?お姉さんはゴリールみたいにすごいのにー!」
白雪「そんなわけないじゃない!立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花!アタシこそが天下に轟く絶世の美少女、白雪姫よ?自信がないわけ……って、ゴリールってなに?」
兎3「森の言葉と人間の言葉では響きが違うのかな。けど、きっとお姉さんも知ってる動物だよ」
兎2「黒くて、強くて、かっこいいんだー!」
兎1「ちょうど、ほら…あんなかんじ」
ゴリラ、ドラミングしながらのそのそ歩いてくる。
白雪「誰がゴリラよ!」
兎3「でも、そうでしょ?さっきのお姉さん、強くてかっこよかったよ!大の男二人にも物怖じしないでさ。まさにゴリールって呼び名がぴったりだよ!」
白雪「はぁ?あんたの目、節穴なの?どう見てもあたしはか弱い乙女じゃない。まさに千年に一度の美少女、って感じ?そこんとこ間違えないでよね!」
兎1「おこったかんな~?」
兎2「ゆるさないかんな~?」
白雪「はしもとか~んな!って何言わせんのよ!」
周りの全員、大爆笑。
白雪「ぐ……何笑ってんのよ!」
木1「すまないねぇ。あたしたちゃ長い間生きているけど、千年に一度はちょっと……」
白雪「盛りすぎだ、って?そんなのあたしだってちょっとは自覚してるわよ!」
木2「いやいやお嬢さん、そういうことじゃないんだよ。ただね、人間の言う美しさってやつは、時代によって変わっていくものなのさ」
木3「いまはお嬢さんみたいな顔が流行なのかい?昔は目が細くて、鼻も低くて、真っ平らな顔がモテてたもんだけど」
白雪「……信じられない。今だったらそれ、ブス扱いされてるわよ」
木4「そうなのかい。なら、お嬢さんは嫌がったけど、人間は移り気だから、もう少し経てばゴリールみたいに強い女が人気になるかもしれないよ。……お嬢さんみたいな、ね」
木5「そうそう。だから、か弱いアピールなんてしなくても、今の強気なお嬢さんで十分魅力的だって言いたかったのさ」
白雪「……そうなの?」
兎3「そうだよ!そんなことより、行く当てがないなら小人さんたちを訪ねてみたら?」
白雪「こびと?」
兎1「それはいい!小人さんたちは見た目にうるさいんだ!」
兎2「お姉さんかわいいから、きっと受け入れてくれるよー!」
兎×3『いこういこう!』
白雪「え、えぇ~?」
白雪、引っ張られながらはけていく。
暗転。
3.小人の家(白雪、小人)
白雪、動物たちと家にたどり着き、きょろきょろしてから寝てしまう。
小人、ハイ・ホー歌いながら行進。家にたどり着いて白雪を発見。
小人1「うわぁ、なんだこいつ!」
小人2「不法侵入だ!」
小人3「領空侵犯だ!」
小人4「アルソックはまだか!」
小人5「助けて吉田沙織!」
小人6「この家にセキュリティなんかねぇだろ!」
少し遅れて小人7やってくる。
小人7「みんな何あわてて……あわわわわわ!(大げさに)な、なんで女の子がここに!?」
白雪、大きく伸びをする。
白雪「あら?こんにちは。あなたたちが小人さん?」
小人、顔を見て『う~ん』とか『かわいい~』(深いい話のSE)鳴らす。
小人5「残念、かわいい認定ならずです!」
白雪「急に何よ!」
小人6「僕らは理想の女の子を探しているんだ」
小人1「美人でー」
小人2「僕と同じくらい背が低くてー」
小人3「芯が強くてー」
小人4「落ち着いててー」
小人5「面白くってー」
小人7「やさしい、そんな女の子を!」
小人3「けど、みんな好みのタイプが違うからいつまで経っても見つからないんだ」
白雪「は、はぁ……そりゃ、そんなにばらばらなら見つからないでしょうよ」
小人3「けど、ようやく見つけた。君は僕のタイプどんぴしゃだよ!ぜひこの家にとどまっておくれ!」
小人4「はぁ?勝手なこと言うな、僕は熟女しか認めないぞ!断固反対する!」
小人1「そうだそうだ、僕はもっときりっとしたタイプの美人が好きなんだ!僕も反対!」
小人5「かわいいは正義だ!賛成!」
小人7「話し方がやさしくない!反対!」
小人2「背もいい感じに低いし、僕はさんせー」
小人『……お前は?』
小人6、考え込む。
小人6「……自己紹介をしてくれ。それから決める」
白雪「あぁ、そういえばまだしていなかったわね。”ん”ん、はじめまして、あたしは白雪姫!魔法の鏡公認の、この世で一番の美少女よ!今は……ちょっと、いろいろあってお城を追い出されてしまったから、できたらこの家に置いてもらえるとうれしいわ」
小人4「鏡が……?美しさなんて人それぞれなんだから、そんなのあてにならないだろう。その鏡とやらの好みの問題じゃないか?」
小人5「満場一致で判断できるなら、僕らの理想の人は今頃とっくに見つかってるよ」
白雪「む……それもそうね。けど、あたしは何が何でもこの家においてもらわないと困るの。許可してくれないなら、勝手に居座るわ」
小人6「……ふっ、おもしれー女。いいよ、賛成だ。お前をこの家においてやる」
白雪「本当に!?」
小人1「お前が言うなら、しかたない」
小人2「けど、ちゃんと仕事はやってよ?」
小人3「僕らが出かける間、留守番しててくれればいいよ!」
小人4「それと洗濯」
小人5「掃除もよろしく!」
小人7「あったかい食事も用意しておいてほしいな」
小人6「頼んだぞ。じゃあ、行ってくる」
白雪「まかせて!いってらっしゃーい」
小人、また一列になってハイ・ホー!と叫びながらはけていく。
白雪「まったく、おかしなやつらだったわね……さぁ、掃除しなきゃ」
鼻歌歌いながらはける。
暗転。
4.鏡の間2(女王前・後、鏡、メイド)
女王と鏡、出てくる。
女王「鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだぁれ?」
鏡「白雪様です」
女王「なんですって!?ヤツは死んだのではなかったの!?」
鏡「生きておりますよ?森の中、七人の小人の住まう家にかくまわれているようです」
女王「あいつら、しくじったのね……!本当に使えない!もうこうなったら、わたくしが直接出向くしかないわ!準備なさい!」
メイド、鍋を持ってくる。
女王「よくかき混ぜて……これでよし。あとは変身するだけね」
女王、メイドから小瓶を受け取る。飲む。倒れる。
鍋の後ろで女王(変身後)と交代。
女王「変身は完璧、これで誰もわたくしだと気付かないはず。今度こそしとめてみせる。この世で一番美しいのはこのわたくしよ!ひひひひひ、いーっひっひっひ!」
暗転。
5.小人の家2(白雪、女王後、小人、王子)
白雪「はーあ、小人たちおそいな……乙女を待たせるなんてマジ重罪。デートだったら即刻フってるとこなんだけど」
白雪、暇そうにする。
老婆(女王)、ゆっくり家に近づいてノックする。
白雪「まったく、遅いのよ!いつまで待たせ……あら、ごめんなさい」
老婆「こんにちは、お嬢さん。お留守番かい?暇なら、ちょっとりんごを見てほしいんだ。ちょうどいいのが手に入ってね」
白雪「本当ね、真っ赤に熟れてておいしそう。ぜひ買いたいところなんだけど……あいにく、あたしお金持ってなくて」
老婆「おやおや、そんなこと気にしなくていいよ。見たところ、この家にはほかにも住人がいるんだろう?ためしにひとつ食べてみて、おいしかったらその人たちにもすすめておくれ」
老婆、りんごを手渡す。
白雪「あら、いいの?でも、うーん……」
老婆「遠慮しないでお食べ」
白雪「あー……なら、いただこうかしら。(食べる)……うん、おいし……がっ!?くっ、息がくるし……!」
女王「ひーっひっひ!かかったな、間抜けな白雪め!あんたは地にはいつくばってるのがお似合いだよ!このまま毒で苦しんで死んでしまうがいい!ひひひ、いーっひっひっひ!」
女王、はける。
小人、帰ってきて倒れている白雪を発見する。
小人1「なんてこった!」
小人3「パンナコッタ!」
小人2「あの女が倒れているぞ!」
小人4「見ろ、怪しげなりんごが落ちている!」
小人7「りんごをのどにつまらせたんだ!」
小人たち、おいおいと泣く。
小人5「花を手向けよう」
小人6「人の死はいつだって悲しいものだ」
王子、通りかかる。
王子「どうしたんだ?……これは……!なんて美しい人なんだ!小人たちよ、この美しい人に口づけをしてもいいだろうか……?」
小人1「死体にキスしたいなんて、変態か?」
小人2「いいじゃないか。王子様がキスをしたら目覚める姫の話を読んだことがある。もしかしたら、この女も目覚めるかもしれない」
王子「じゃあ……」
王子、キスしようとする。
白雪「密!!!(王子をはったおす)」
王子「へぶっっっっ!!」
小人、どよめく。
白雪「あんたわきまえなさいよ!今の状況わかってんの!?」
王子「き、君は死んでいたんじゃ」
白雪「死んだ振りに決まってんでしょ。だいたいあんたたちもあんたたちよ、人が倒れてたら普通脈取るとか息確認するとかいろいろあるでしょ?花添える暇があったら応急手当しなさいよ、馬鹿なの?幼稚園からやり直してきたら?」
小人、しょげる。
王子「……まさか、こんな人だったなんて」
白雪「幻滅した?」
王子「いや、むしろ君の事をより深く知りたいと思ったよ。凛々しい人、どうかこの僕と……」
白雪「却下」
王子「そうですか、あなたならそう言ってくれると……え?」
白雪「だから、却下。ほんとは生きてたとはいえ、死体にキスするような男と付き合えるわけないでしょ。そんなことよりあたし、行くとこあるから。じゃ」
白雪「……けど、もしあんたがほんとにそれを望むなら、城に来なさい。そしたら、話くらいは聞いてやらないことも……ないわ」
白雪、はける。
王子「待ってくれ!凛々しい人!僕は必ずあなたの心を射止めて見せる!だからどうか、僕の話を……!」
王子、はける。
6.鏡の間3(白雪、女王)
女王「ほほほほほ、とうとうやってやったわ!あの毒は胃の中に入れればたちどころに全身の神経を蝕み、その命を奪ってしまう。どんなに頑丈な人間でも、あれがたっぷりかかった果実なんて口にした暁には生きながらえることはでき……」
白雪「ただいま帰りましたー(入ってくる)」
女王「うわぁぁぁ!!!(崩れ落ちる)」
白雪「え、」
女王「なんでお前がここにいるのよ……わたくしがしくじった?いいえそれはありえないわ、だってわたくしは完璧だったもの。完璧な計画に従って完璧にやり遂げたわ。ならどうしてよ、どうして……」
白雪「あの、お母様……?」
女王「あぁ、白雪……なんで帰ってきたの。そんな能天気な顔して……わたくしはお前を殺そうとしたのよ?なのに、どうして……(顔を覆う)」
白雪「お母様……」
女王「どうして、あなたはそんなに不死身なのよ!!」
白雪「……はい?」
女王「暗殺者は失敗するし恐ろしい獣がいるという森の中にいても生き残るし、他にも気付いていないかもしれないけどたくさん罠をしかけたのに!なのに、なんでそんなにぴんぴんしているのよ!」
白雪「それは……強くてすみません?」
女王「挙句の果てには毒を盛ったりんごを食べても復活するなんて!わたくしはちゃんと、あなたが倒れるところまでこの目で見届けたのに!イエスキリストもびっくりだわ!」
白雪「え、だって見るからに怪しかったから一応食べたふりだけしとこうと思って……」
女王「なんでそんなに察しがいいのよ!……はぁ、わたくし、いったいどうしてこんな女を殺せると思っていたのかしら。馬鹿みたい」
白雪「そうですよ。だいたい、鏡なんかの言うことを真に受けて自信をなくすなんてお母様らしくもない。お母様なら、そうだな、ぶち切れて鏡を叩き割るくらいすると思ってました」
女王「あなたねぇ……っ!」
白雪「だって、娘のあたしだったらそうするから。簡単に揺らいでしまう他人からの評価なんて、あたしには必要ない。あたしはあたしの美しさを知っていますもの。そんなことより重要なのは、自分らしくあること。自分の価値を信じて、意思を貫き通すこと――あなたも、そう思うでしょ?(この「あなた」は女王への台詞ですが観客に語りかけております)」
女王「白雪……」
王子「ブラボー!それでこそ僕の惚れた人だ!!」
小人「よっ、パワー系ヒロイン!」
口々になんか叫びつつ(もちろん録音)、全員舞台に出てくる。
客席に向かって一礼。