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3話

この作品を読んで下さった方、ありがとうございます!


これからも頑張って投稿して行きます!









「スマホのボイスレコーダーを起動っと。………あとは……警察の連絡先でも登録しとくか。」


体育館裏に行く準備を僕はしている。

もしもの時のために色々と準備をしているのだ。


「……よし。準備完了。」


僕は、起動したボイスレコーダーをポケットに忍ばせると、体育館裏に向かって歩き出した。


* * *


「まだ誰も来ていないな……」


体育館裏に着いたのだが、誰もいない。

もしかすると、あの果たし状は偽ラブレターで、何も知らない僕がずっと待っているのを笑うためのものかもしれない。

まあ、今は待とう。


「……そういえば、誤解、解けなかったなぁ…」

そう。冬香との約束をすっかり忘れていた。

「……どうやって言い訳しようか……」


だが、考え事に夢中になっていた僕は、後ろから近づいてくる足音に気づかなかった。


「……圭介……」


その声が聞こえた瞬間、僕は首から嫌な音が出るほどの速さで振り返った。


「……美咲……」



美咲は、僕の目を見つめるとゆっくりと僕に向かって歩き出した。

近づいてくる美咲。その目線はぶれる事は無かった。


そして、両者の距離が3メートル程になった時、美咲の足が止まった。

見つめ合う僕と美咲。


すると、美咲が口を開き、言葉を発した。


「ご………」


「…ご?」


「ごめんなさい!!」


「………は?」


予想外の言葉に、僕は呆けてしまった。

美咲の謝罪は続く。


「昨日助けてもらったのに、私、圭介のこと怖がって……」


「……あ……え……」


「私ったら、本当に最低。お礼の一つも言わずに突っ立ったまま……」


僕の言語能力が回復した。


「あ…いや、それは…」


「だから、本当にごめんなさい!!」


そう言って美咲は地面に頭が付きそうなほど深く頭を下げた。


「……………」


「……………」


僕が昨日イラついたのは、美咲にではない。美咲の反応だ。

だが、考えてみると、あの時の僕を見て怖がらない方がおかしいのだ。


「顔を上げてくれ。美咲」


僕がそう言うと、美咲は顔を上げた。端正な顔が、涙で光っていた。


「謝罪を受け入れるよ。正直、あの僕を見て怖がらない人がいたら驚くよ。……だから、もう良いよ。」


「でも………」


「今は、美咲に昨日のことの説明をしたい。美咲が僕を怖がったのは、あの目の所為だろう?」


美咲はコクリと頷いた。


「よし。じゃあ、まずは僕の子供の頃の話から始めないといけないな…」


僕が今まで捻じ曲げていた、昔の話をしよう。


* * *


「お母さん!いいよー!」


「よーし!……それっ!」


「あははっ!お母さんへたくそー!」


「そうねぇ、もう圭ちゃんの方が上手ねぇ。」


「圭介!次はお父さんと遊ぼう!」


「いいよー! じゃあ、鬼ごっこね! お父さん鬼ー!」


「よっしゃぁ!行くぞ圭介!」


小学生の頃、僕には両親がいた。

……実際、今もいるのだが、親らしい事をして貰っていたのはこの頃だ。

誰もが羨む、暖かい家庭だったと思う。


両親は2人とも仲が良く、息子である僕にも優しかった。

だが、それは作られた優しさだった。

少なくとも母親の方は。


「ただいま」


「おかえりなさい。ご飯、出来てるわ」


「ああ……」


「お父さん、おかえりなさい。」


「ただいま。圭介。」


そう言って父は僕の頭を撫でると、弱々しく笑った。


思えば、その日父の笑顔を見たのはこれだけだった気がする。


その日の夜、僕はリビングから聞こえてくる2人の言い争いを聞いてしまった。


「…本当に、やり直せないのか?」


「無理よ。私はもう、貴方に対する愛情は無いもの。」


「っ!…じゃあ、圭介はどうなんだ?腐っても母親だろう?」


「………………ええ。」


「………お前は親失格だ。」


母の言っていることが理解できなかった。

僕に対する愛情が無い?

……嘘だ。

あんなに優しかったお母さんが、僕を愛していないわけがない!


その後も言い争いは続き、再び自分の名前が出て来た。


「一人暮らしなんて無茶だ!あの子はまだ小学四年生なんだぞ!!」


「……そうよね……はぁ……圭介がもっと強かったら良かったのに……」


「…自分の子供に当たるとは………」


この時、母の、"もっと強ければ"という言葉が強く耳に残った。


僕は、小学生なりの考えを駆使して、どうすれば強くなれるかと思案した。

言い争いは益々激しくなったが、集中している僕にとっては、気にもならなかった。


僕は考えた。考えて考えて考え抜いた結果、出てきた結論は、"守るための力"を身につけるという事だった。


第一に、自分を守る為の力を。


第二に、家族を守る為の力を。


この二つが、僕の考えの基礎となった。

そして、この結論を得たことで、僕にとってのやるべきことが見えた。


僕が考えを固めた時には、既に言い争いは終わり、両親は眠りに着いた後だった。


次の日、母は荷物を纏めて出て行った。

悲しみはあったが、使命感が泣くのを止めさせた。

そして、その日から僕は行動を開始した。

家事を率先してやり、勉強も一生懸命に頑張った。

その頃は美咲とも仲が良かったので、美咲には心配を掛けないようにと、母親は単身赴任に行ったと説明した。

僕の家は共働きだったので、その言い訳はとても都合が良かった。


中学一年生の時、僕に妹が出来た。

父が再婚したのだ。

僕は父の再婚について、何も言わなかった。

父のやりたいようにすれば良いと思ったのだ。

新しく出来た妹は一つ年下で、かなり可愛かった。

……そう。冬香だ。

僕と冬香は、義兄妹なのだ。


今こそ義理の兄妹には見えないほど仲が良くなったが、当時の冬香は人見知りで、見ていて弱々しかった。


美咲には従兄妹と住むと言っておいた。

もう、隠し通すのは難しそうだった。



その年の夏休み、僕は一人で山に行った。

疲れた心を癒したかった。

三時間かけて頂上に登り、持ってきたお弁当を食べた。そして、山の中を散策した。

頂上を中心に、円を描きながら山の中を歩くと、不意に周囲の音が途切れた。


声をあげても山の中に響くだけ。

生き物は愚か、風の音さえも聞こえない。

不気味に思った僕は、頂上に戻ろうと歩き出した。


だが………


「どうして……戻れないんだ?」


どれだけ歩いても、同じ所をぐるぐると回っているだけなのだ。

方向はちゃんと合っている筈なのに。


普通の中学生だったらここでパニックになるだろう。

だが、僕は悪い意味で普通ではなかった。

冷静に今の状況を分析し、ある結論を出した。


「……遭難した……」


遭難した時の1番良い対処法は、その場から動かないことだ。

なるべくエネルギーを使わず、救助隊が来るのを待つ。

幸い、持ってきた携帯食料と水はある。

だが、これで2日持つかどうか。

取り敢えず余計な事は気にせず、待つことにした。


待つこと三時間。

あたりは薄っすらと暗くなり、夕暮れ時が訪れていた。

その時だった。


キーン………と、音がするくらい張り詰めた空気が僕を襲った。


「………なんだ?」


愚かにも、僕はその空気が強くなる方に向かって歩いて行った。


「………神社?」


張り詰めた空気が最高潮に達した所には、石造の鳥居があった。奥には、同じく石で造られた社があった。


神社なら安心だと思い、僕は鳥居をくぐって社の前まで行った。


「……賽銭箱が無い。」


確か、賽銭箱の風潮が広まったのは、鎌倉、室町時代の時。という事は、この神社はそれ以前に建てられたという事か。


携帯食料を一個、社に置き、二礼二拍手をし、お祈りをする。

願い事は、何時もと同じ。


(守れる力が付きますように……)


願い事をした直後、張り詰めた空気がさらに強くなり、耳鳴りがし始めた。

ただ、普通の耳鳴りでは無い。

ラジオのチャンネルを合わせる時のような、雑音がするのだ。


そして、唐突にそれが消えた。

次の瞬間、激痛が目を襲い、意識を失った。



次に目覚めたのは、病院の白いベッドの上だった。


「お兄ちゃん!!」


叫びながら冬香が僕に抱きついてきた。


「……何がどうなってるんだ?」


「お兄ちゃん、山で遭難したんだよ?

覚えてない?」


「……ああ」


確か僕はあの神社で………


「冬香、僕が最後にいた場所ってわかる?」


「……え?確か、森の中の開けた場所だって聞いてるけど……」


……成る程。あの神社は誰にでも見えるわけじゃ無いんだな。


「ありがとう。冬香。心配してくれたんだね。」


すると冬香は顔を真っ赤にして、


「……うん……」


と頷いた。


看護師さんから聞いた話によると、冬香は僕が運ばれてきた時から片時も離れなかったらしい。


……良い妹を持ったことに感謝だな……


それから暫くして、父親も顔を出した。

父は僕が無事なのを確認すると、安心した顔をし、"もう危険な事はするな"と言って帰っていった。父は仕事が忙しいのだ。


それから病院で一泊し、もう一度検査をされ、退院した。


そして、運が悪い事にその帰り道に僕と冬香は不良達に絡まれた。


「おい、可愛い子連れてんじゃねぇか」


「ちょっと面貸せ。」


冬香はブルブル震えている。

僕はその不良達に強い嫌悪感を抱いた。


不良の一人が冬香に触れようとした。


瞬間、そいつの体は前方に吹っ飛んでいった。

無意識のうちに僕が殴りかかっていたらしい。

人間、緊急時には、ばか力が出るというのは本当のようだ。


「な、なんだ……お前……」


「目が………」


目がどうしたんだ?

僕は冬香の方を向いて聞こうとした。


「お兄ちゃん……目が…紫色に光ってる…」


……紫色に光ってる?


ちょうどカーブミラーがある事を知っていたので、そちらに顔を向ける。


「っ!?」


僕の虹彩が、紫色に淡く光っていた。


「……くそっ!なんだ知らねぇが、行くぞ!お前ら!」


「お、おう!」


不良達が迫ってくる。


………見える。


奴らの動き一つ一つが、はっきりと分かる。

次にどんな行動をするのかも分かる。

そして、体に力が満ちている。


僕は頭で倒す順番を組み立てると、アスファルトを蹴って飛び出した。


「はや……」


バキッ!


軽く顎を打ち上げる。


ドガッ!


飛び蹴り。


ドカッ!


空中で回し蹴り。


ズゴン!


顔面にパンチ。


僅か5秒の間に、不良達は全員ノックアウトしていた。


「…….はぁっ!……はぁっ!」


……なんなんだ?この異常な力は。


「お兄ちゃん!大丈夫!?」


冬香が駆け寄ってくる。


「……ああ。大丈夫だ……」


「取り敢えず、帰ろう。お兄ちゃん。」


「ああ……」



その夜、冬香と話し合った。


僕が遭難した事、神社にお参りした事、目の痛み。

僕が感じた事をありのまま話した。


もう一度自分が体験した事を緻密に話していくと、原因が朧げながら分かった。


恐らく、あの神社で願った、"守れる力"を

僕は授かったのだ。

たかが携帯食料の見返りにしては大きすぎると思ったが、それ以外に理由は……ああ、あるな。


その時、僕は人を辞めたことを悟った。















読んで下さって、ありがとうございます。


次回も頑張って書くので、よろしくお願いします。

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