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ぽってりとした透明の球体は、少年の肩に乗ってうっとりしていた。大人の男の握りこぶし二つ分くらい。火吹き山に生息していたスライムの亜種だ。
少年の手には蜜を宿した淡いピンク色の花。先ほどのうっとりは、その蜜を与えられたことによる。スライムの普段の外見は分からないが、今は水のような透明に、ほんの少し桜や薔薇といった花系統の色が混ざっている。外気温はなかなかの寒波だが、優しさに包まれた気分でほっこりしていた生命体は、温泉みたいな温度である。
もちもちと微かに身動きする生き物を肩に乗せた少年は、ーーどうやら、それが落ちないように速度に気をつけながらーー歩いていた足を止めて、二言三言、発した。
「昨日の友は今日の敵……」
謎発言。
スライムは耳はないように見えるが、最近の研究では、空気の振動を肌で感じて音声を理解しているのだという。
ぴたりと動きを止めたスライムは、次の瞬間、にゅるりと少年の肩からこぼれ落ちて、彼と同じくらいの大きさの人型を取った。
ーードウシタノ?
小首を傾げて、高い細かい音が繋がったような声で、スライムが問う。
尻の辺りで手を組んで、少し前屈みになりながら、少年の前を行ったり来たり。
もしかしたら、何かしてしまったのかな。
自分のしたことは、よく分からない時があるものだ。
スライムは彼の目の前で立ち止まって、身振りで言葉の続きを促す。
その色はピンク系にわずかばかり青が混ざった結果、ほんのりと紫がかった。紫系統の色になる時は、一言で表すのが難しいような、気持ちが複数合わさっている時が多い。が、今日のは困惑の色だ。
スライムは少し身を小さくして、もう一度、首を傾げた。
ぴゅ……と弱く流れる風は、ほのかに冬の気配。ちらちらと雪の粒が空で光った。




