人は誰しも腹の中に邪を飼っているものさ
私は何故、生きているのだろうか。私が生きて来た理由は空想の世界を仰ぎ見る為ではなかったか。この世界は私に救済こそ与えてはくれなかったが、逃げ道は与えてくれていた。私はただ、空想の続きを見届ける為だけに生を続けて来たはずだ。
今となっては、高校を中退して何とかありつけた仕事をこなすのに必死で、それ以外の事は考える暇もない。理由もないまま生き続け、ただ、なくても困りはしない歯車に成って、その果てには何も無く。国と会社に良い様に酷使されて、はい、さようなら。
もし、何かの気まぐれで私の勤めている会社で働き方改革なんてものが発案されて実行され、自由に使える時間が出来たとしても、毎月ギリギリ生きていける程度の賃金しか支払われていないのだから、私が空想の世界を再び仰ぐ事はもう二度とないのだろう。
今更、自殺なんて出来はしない。まだ私が空想の世界への情熱や未練が残っていたのならば、それも出来ただろうが。空っぽで、ただの人形。無いよりかは良い程度の蛇足的な歯車と化した私には、もう自らの意思で己の生命活動に終止符を打つ理由も気力も存在しないのだ。
熱い。熱い。熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあつい
嗚呼……もっと素直に自由に生きていればよかったか…。
◆◆◆
私は無意識に円満な人生への分岐選択肢を間違える才能でもあるのだろうか?
私は、日付が変わって仕事が終わり、久しぶりに早く仕事が終わったからと1ヶ月で数回帰るか帰らないかの家へと続く月明り以外の光が無い暗い夜道を歩いていた。
曲がり角で走って来た誰かとぶつかりとばされて、驚きと痛みで思わず下ろした瞼を上げれば、見馴れぬ石造りの部屋だった。
それから大勢の人がやってきて、変な機械のようなものや鉱石のようなものを、私にかざしたり当てたりして何処かへ行ってしまった。
何が起きたか全く分からずに呆けていたら、近くに曲がり角でぶつかったと思われる青年が私と同じ様に呆けている事に気が付いた。
取り敢えず話しかけてみようと思い、行動に移そうとした時、扉が派手な音を立てて開き、中世ヨーロッパ
の貴族の様な人物が青年だけを連れて行き、私の所には布袋を持った兵士がやって来た。
兵士から聴いた話を纏めると、これはテンプレ異世界転移であるらしい。
魔王を倒す勇者を異世界から召喚する。私はその巻き添えになっただけで、調査の結果そこらのわんぱく坊主ぐらいの能力しか保有しておらず、魔王討伐など話にならない。
勇者に足りうる人物が呼べたとはいえ、巻き添えが居たなんて事実は失敗談になるのではないか。そうなると、それを知った私は殺されるのではないか。と思ったが、過去に何らかの理由でこの世界に来た異世界人の中には、多大な功績を残している者が多いらしい。
私が何か出来るとは思わないが生かしておこう。との事。
布袋に入っていたのは口止め料のお金。
そして私はこの世界の常識も知らないまま城の外へ投げ捨てられた。
どうしたものか。と思いながら、取り敢えず城下町の大きな通りを歩いていた。
しばらくすると、身体が怠くなってきて直ぐに意識が朦朧としてきた。
おそらくは元の世界には無く、この世界に存在する菌などにやられたのだろう。
気が付いたら、スラムの様な裏路地に居た。
大柄の男が向かい側から走って来て、私にぶつかった。
とたんに腹部が膨大な熱を持った。
次に激痛。
男はまだ離れずに私に密着していた。
息がとても荒く、異様に興奮していたので、人を殺めるのは初めてだったのかもしれない。
「へへっ、お前さん。そんな珍しいナリしてこんな所をうろついてちゃぁ、危ないぜぇ?」
珍しいモノは高く売れる。それは、この世界でも変わらないらしい。
男はゆっくりと私から離れて、自分の手を視界に入れてしまった。
いや、正確には手があった場所。
男は両腕の手首から先が消えていた。
喰われていた。
男は目を見開いて震えた後、耳を劈くばかりの叫びを上げた。
男は混乱がおさまらないまま私を睨みつけて、更に慄く。
「な、なななななな、なんだよ!なんなんだよ!それはよぉ!」
男は私の腹を指さし…いや、腕指し私に問うた。
こちらも混乱していて訳が分からず、言われるがまま腹を見た。
刺された。と思っていたのだが、そこには刃物は無かった。
だが、確かに刺されたような跡が見られた。傷口を見るとよけいに痛みがせり上がってくる。
だが、男が恐怖するような物は見当たらなかった。
確かに、周りを見ても刃物らしき物は落ちておらず、手を失った男が持っているはずもない。
不自然ではあるが、それは私の常識の下での話。
異世界なんだから、風の刃とか対象を見えなくする魔法なんてものがある。と考えた方が自然ではなかろうか。
なにより、男の目が、体が、声色が、そこにあるはずの物が無くなっている事に対する恐怖とは全くの別物に見えた。
となると、残るは、刺し傷の奥、私の臓物の話だろうか。
異世界なのだから、見た目は同じでも身体の構造が違う。なんて事もあるだろう。
腸の凹凸を見て嫌悪感を抱いた?
いや、傷口はそれほどに大きくはない。
となると…?一体何なんだ?
男は汗や涙、鼻水、下は…うん。
有り体に言えば、とてもみっともない姿でもう一度叫んだ。
「答えろよぉ!なんで腹の中にそんな生き物なんて飼ってんだ!」
生き物?
この世界の人間の視力なんて知らないけれど、おそらく微生物の事を言っているのではないだろう。
コイツ、もしかして幻覚を……あ?
ナニカが腹の中で蠢いた。
確かに、ナニカが私の腹の中に居る。
腹に居るナニカは急に暴れ始めた。
私の臓物を喰らいながら。
もはや立ってなどいられなかった。
崩れ落ちた衝撃が傷口を揺さぶる。
息をする事もできない。
意識を手放す事も許されない。
そして、腹の中のナニカは私からゆっくりと這い出た。
それに反比例するかの様に私の意識はゆっくりと深い闇へと誘われた。
その這い出る音を揺り歌こもりうたに。
肉を噛み千切り、咀嚼する音を揺り歌こもりうたに。
骨を砕き、悲痛の叫びをの呑む音を揺り歌こもりうたに。
◆◆◇
まだ、何も成していない。
まだ、満たされていない。
まだ、褒めてもらっていない。
まだ、愛してもらっていない。
まだ、まだ、まだ、まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ………
其の為にも、
まだ、生きていたい……ッ!
ソレガ、汝ノ願イカ。
ナラバソノ願イ、叶エテヤロウ――――――――――――
◆◇◇
目が覚めると、徐々に頭に血が巡っていくのが感じられた。
錆びついた歯車が、その役割を果たそうと再び駆動し始める感じがして私が好きな瞬間の一つ。
どうやら私は夢を見ていた…などと都合の良い事はなく、目の前に見えるのは例の路地裏だった。
「あ、おきたんだね。お父様。」
後ろから可憐な声が聞こえた。
後ろを向き、その声の持ち主を視界に入れると、胸の内がざわめいた。
何故だかとっても……
不穏で嫌な感じがした。
時間がなかったから冒頭だけになった。
反省も後悔もしている。
すまない……。
2018/9/16 22:26:28 誤字修正