お手伝い
第二次世界大戦後、日本は新たな憲法を制定し、日本皇国となった。
だが、その政治は社会主義であった。
ソ連からの政治技術導入により、計画経済が実施。
いわゆる赤色に日本は染まった。
ただ、資本家は残り続ける。
その点から、日本社会主義とも評されるような政治や経済となっていた。
大規模な資本家は、その富を分配し、表向きは平等を装っていた。
その実態は、資本家は富を独占し、それ以外の労働者が虐げられている始末。
私は、小さいころからそれについて疑問に思っていた。
そして、両親が過労死したとき、誰も助けてくれなかったことから爆発した。
それは静かな爆発であった。
「……手野市桜町6-1って、ここ?」
私が来たのは、アンダーグランドの紹介屋と呼ばれる人の家。
ここでいろんな人を紹介してもらって、いろんなところで活動することができるだろう。
ただ、お金がべらぼうにかかると聞いている。
そんなお金がないことを、どうやって納得してもらえばいいのか。
その策は、私にはなかった。
悩みながらも、どうしようもない。
私は思い切って玄関ドアを開けた。
「いらっしゃい」
カランとカウベルのような音がする。
ドアの隅にでもあるのだろうけど、薄暗くで見えない。
「何か御用ですか。ああ、新聞なら手野新聞だけしか読まないのでね」
そう言っている彼は新聞を読んでいる。
題字は遠くて見えないが、それが手野新聞なのだろう。
「あの、助けてください」
「内容によりますね。それに見合うだけのお金を出すことができるのかどうかも」
そう言いつつも、まあお座りください、と椅子を勧める。
カウンターの向こう側でメモを取る準備をしている彼の元へ、私は向かうことになった。
「ここに来たということは、誰か助けが欲しい、ということで間違いないですね」
「はい」
それに間違いはない。
「ただ……」
「ただ?」
「お金が……」
「あー、それはどうしようもないですね」
融資はしていないようだ。
「お帰りはあちらですよ」
先ほど入ってきたドアを指さして、彼は言う。
「いえ、帰るわけにはいきません」
それから、私は今の状況を事細かに話す。
誰にも話したことがないような、世界の終わりまで。
それを全部聞き終わったうえで、彼は口を開く。
「一市民としては、そのことはすべて通報しなければなりません。それでも、その危険を冒してもなお、貴方のような、子供がやってきた。それについて敬意を示しましょう」
「それで……」
「紹介をすることはたやすい事です。ただ、貴方もよく考えてほしい。そういうこともあって、どうでしょうか」
彼は唐突に話を切り出した。
「ここで働いてみませんか。その気持ちを持ち続けられるのであれば、そうですねぇ、5年後には私へ支払うためのお金もたまることでしょうし、そうしたら私も革命への紹介をしましょう」
「ここで、働く?」
お金がないというのは分かっていたし、どこかに売られるものかと思っていたが、まったく想定外の答えがでてきた。
「そうです、貴方にとっても悪い話ではないと思います。どうでしょうか、ここで働いているうちに、人脈もできるかもしれませんよ」
但し、今の家を引き払って、私のいうこと通りにしてもらうことが条件です。
彼はそしてにっこりと私へと微笑んだ。
「答えは、今すぐではなくてもよろしいです。1週間待ちましょう。それまでに……」
「やります」
私は彼にストレートに答える。
「やらせてください、そしてお金を貯めて、紹介屋さんに紹介してもらいます」
「……いいでしょう。では、1週間以内にそちらが住んでいる家を引き払ってください。住み込みで働いていただきます」
「わかりました」
その翌日には、私は少しだけしか持っていない私物をまとめて、紹介屋の家へと上がり込んだ。
これから、長い長い戦いが始まることを、私はゆっくりと感じていた。