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予兆

本日、話同時更新。

この話は3話目です。


 店から戻り、ジェフさんや着替えたコーキンさん達と合流。


「さてと、んじゃ俺はここらで」

「ジェフさん、ありがとうございました!」

「いいって事よ、じゃあな!」


 代わりにジェフさんがもう役目は終わったと去っていく。


 そんな背中に頭を下げ、見送った俺はコーキンさん達を引き連れてギルドへ。


 ちなみに三人が登録するのは商業ギルド。どちらのギルドがいいかと聞けば、満場一致での決定だった。



 商業ギルドに着くとやっぱり応接室に通され、ギルドマスターとの面会だ。


「そいつらが例の新人かい?」

「はい、先程知人の伝を頼って見つけた人材です」

「アンタは毎度毎度行動に移すのが早いねぇ。話をしに来たのは今朝じゃないか。……まぁ身軽で行動が早いのは商人としちゃ強みだけどね。で、アンタらこの子の店で働くんだね?」

「「「はい!」」」


 その返答を聞いてギルドマスターが3人を見て、若干目を見開いた気がした。


「ほうほう…………リョウマ、アンタ何したんだい? こいつらからは妙な野心を感じるんだけどねぇ? その割にアンタを裏切らなさそうだ。どう見ても今日会ったばかりには見えないよ」


 流石だな……


 コーキンさん達は3人とも一時はスライムの研究者だったからか、クリーナースライムの価値に気づいてそれを見出した俺を年齢と見た目に構わずかなり高く評価してくれている。


 それと同時に彼らの鬱憤もあったんだろう。それを晴らせる可能性があるという喜びや、安定した生活を送れる給料を得られる安心感などもあり、色々会ってから間もないが慕ってくれているようだ。特にテイマーギルド関連で辛酸を舐めた経験のあるトニーさんは、相当鬱憤が溜まっていたようだ……


 理由はともかく、問題は無いだろうとギルドマスターのお墨付きを貰い、3人の登録と契約を行う。


 彼らには主にクリーナースライムの管理を任せるが、誰にも渡さない様に契約書もギルド職員立会いの下で、しっかりとした物を作る。また契約用紙にも色々と種類があるようで、今回使ったものは本来なら大きな取引にしか使わない特別な契約用紙らしい。


 これは魔法を使っている訳ではないが、その紙自体が重要文書の証であり、ギルドで厳重に管理されるため契約書の偽造・書き換えは不可能だそうで、契約違反にも厳しい罰が下るとのこと。


 例外としてまた店舗を増やす場合などに、俺の許可があればその店を担当する従魔術師への譲渡は許可してある。こうしないと新しい支店が増やせない。


 一通り必要な手続きを終えた俺達は、ギルドマスターに礼を言い共にギルドを後にした。












 続いて向かうところはただ一つ。店でカルムさん達に紹介をして早速働いてもらうことに。


「13、14、15番のお客様ー!」

「38、39、40番、ここ置いておきます!」



 ちなみに店やギルドへの道中聞いた話では、コーキンさんは元貴族らしい。そのためか少々喋り方が偉そうなので、洗濯物運びの担当に。


 トニーさんは日雇いの鉱夫をしていただけあって体力があるそうなので、洗濯物運びの担当。


 ロベリアさんは人と接する機会の多い仕事に就いていたので、受付に出て貰った。いきなりだったが、上手くやっているようだ。というか、前の店で学んだのか……店に来る冒険者の数人が悩殺されている? そんなに露出の多い服装じゃないが……それは関係無いか。見えるだけが全てではない。


 とにかく悩殺された男性冒険者は今後常連客になる可能性が高いと思っておこう。


 そういやこの店、改めて考えると雇ってる女性が美女ぞろいだ……いや、この世界の人全体のレベルが高いだけかもしれない? 今まで不細工な人とか会ってない気がするし。年をとっていてもいい感じに老けていると思う。


 そんな事を考えていると、店の方から大きな声が聞こえてきた。


「コーキンであるか!? 何故ここにお前が居るのである!?」

「その喋り方、レイピンか!?」

「……お2人共お知り合いだったんですか?」


 運んでいた最中の洗濯物を持ったままのコーキンさん、カウンター越しに驚くレイピンさん。固まって動かない2人に、俺は声をかけた。


「う、うむ。レイピンは私の元同僚だった」

「吾輩が昔勤めていた魔獣研究所の同期だったのである。吾輩は数年で辞めてしまったのであるが……まさかこんな所で会うとは思わなかったのである。コーキン、何時この街に来たのであるか?」

「それは……」


 何か込み入った話になりそうだ……


「コーキンさん休憩いいですよ。レイピンさんもこちらへ、話は奥でどうぞ」



 2人には奥の応接室を使ってもらおう。












 それから数十分後。


 事情を聞いたレイピンさんは深いため息を吐いていた。


「まさか吾輩より先にこの街に居たとは思わなかったのである……てっきり最近来たばかりかと」

「……私もお前がこの街に居るとは。てっきり魔獣を追いかけて色々な街の間を飛び回っているものだとばかり」

「飛び回るにしても拠点とする街はあるのである。しかし、こんな形で再会するとは凄い偶然もあるものであるな……」

「私ももう会う事は無いと思っていた。お前が研究所を辞める時の誘いに乗れば良かったと何度も思ったが、その度にな」

「だから言ったのである、お前も吾輩も研究はできても研究所は性に合わないと」

「お前と違って私には魔法の才能は無い。おまけに魔獣を従える才能も無いのだ、冒険者業は危険過ぎてついて行く事はできんと思ったから断った。それに関しては今でも間違った選択だとは思っていない。

 ……だが、早めに研究所に見切りを付けるべきだったとは思っている。そうしておけば資産を浪費し破産する事無くいられたかもしれないな」



 コーキンさんの話でしんみりとした空気が流れるが、それを打ち切ったのもコーキンさんだった。


「しかし今日からはここで雇って貰える事になったのでな、そう悪い人生でも無いかもしれん。ここなら我々を嘲り笑っていた連中を見返す事が出来そうだ。それにまだ数時間しか経っていないが、クリーナースライムを知って悔しさと未練と惰性で続けていたスライムの研究にやり甲斐を見いだせた気がする。店長には感謝している」

「これから頼りにしてますから、頑張って下さいね」

「勿論だ」

「……まぁ、無事に生きていられて良かったのである。リョウマの店ならこれからの生活も安心である」


 話は一段落したが、そういやレイピンさんは何しに来たんだろう? 洗濯も頼んでないみたいだし……アイテムボックスに入れてるのか?


「そう言えばレイピンさん、今日は洗濯の依頼ですか?」

「そうであった! 今日の用事は洗濯ではないのである、洗濯は昨日大量に頼んだので大丈夫なのである」


 そうなんだ。俺の居ない時に来てたのか。


「今日はリョウマに知らせておこうと思った事があるのである。グレルフロッグを知っているであるか?」

「この街の付近の沼で大量発生する魔獣ですよね? 革が鎧の材料に、内臓が薬になるっていう」

「知っていたなら話が早いのである。その大量発生が始まるのである」

「本当ですか!?」

「ピークは3,4日後と思われるが、明日からグレルフロッグの捕獲依頼がギルドに出るのである。グレルフロッグは薬の材料として高く売れる魔獣であるから稼ぎ時であるし、それを餌にするリムールバードは従魔術師や貴族の間で人気が高い。

 リムールバードと契約できれば従魔術師として箔がつき、ギルドの評価も上がるであろう。興味があれば試してみるといいのである」


 確かに、テイマーギルドの評価はともかく、リムールバードは飛ぶのが速いと聞いてるし、連絡手段として良いかもしれない。


「情報ありがとうございます。他の街に支店を出すなら早く確実な連絡手段もあった方が良いですし、試してみようかと思います」

「そうであるか、頑張るのである」


 ここで突然部屋がノックされ、おそらくカルムさんの声が聞こえてきた。声もカルラさんと似ているため、声だけだとどっちか分かりづらい……


「店長、冒険者のアサギ様他4名の方がいらしています。店長と話がしたいと」


 何だろう? とりあえず先客の2人に目で了解をとって返事をする。


「こちらに通して下さい」

「かしこまりました」


 カルムさんは一度立ち去りコーキンさんも仕事に戻ると言い出した。レイピンさんとはこれからも会えるから、と。そんな彼と入れ違いにやってきたのは、アサギさんとミーヤさん、ウェルアンナさん、ミゼリアさん、シリアさん。


「いらっしゃい、皆さん。どうしたんですか?」

「急に訪ねてすまにゃい、ん? レイピンも居たのかにゃ?」

「吾輩はリョウマにグレルフロッグの大量発生の事を教えに来ていたのである」

「む、レイピンもか。拙者達もその関係で話があったのでござる」

「早速だけどリョウマ。アンタが前に着てた作業着、あれをどこで買ったか教えてくれないかい?」

「服の洗濯はここに頼めば良いけど、行き帰りがキツイの。特に獣人とドラゴニュートの私達にはね。だから少しでも汚れにくい服が欲しいのよ」


 ああ、なるほどそれで……ちょうどいい、セルジュさんの店を紹介しよう。もう防水布は納品してるから、作り始めている筈だし。


「この街のモーガン商会で取り扱ってますよ。まだ知名度が低いので需要も少なく、在庫もどれだけ用意されているか分かりません。もしかしたら品薄かもしれませんが……この店の完成祝いで皆さんは一度会頭のセルジュさんに会ってますし、僕の紹介と言えば多分相談に乗ってくれると思いますよ」


 少なくとも無下にはされないだろうな。


「本当ですか! ありがとうございます!」

「このくらい何でも無いですよ」

「いや、ホントに助かるよ。獣人の鼻は人族が考えてる以上に利くんだからね」

「残り香だけでもキツイの……」


 そんなにキツイのか……


「感謝する。それでは拙者、早速モーガン商会を訪ねる故、これにて御免」


 そう言ってそそくさとアサギさんが帰っていった。


「何だい? 珍しいねぇ」

「確かに、普段のアサギなら突然来た事をもう少し長々と詫びると思うであるが……」

「あぁっ!?」

「にゃんだ!?」

「どうしました? シリアさん?」

「リョウマ君の持ってる作業着! 品薄かもしれないんですよね!?」

「「「!!」」」

「それでか!」

「アサギ、自分は買いそびれない様に急いでたのね!」

「こうしちゃ居られにゃいにゃ! 急ぐにゃ! リョウマ君ありがとうにゃ!」


 ミーヤさん達も大慌てで出て行った。そんなに嫌か……獣人やドラゴニュートの嗅覚ってどれだけよく利くのだろうか?


「騒がしい連中であるな……」

「レイピンさんは行かないのですか?」

「吾輩は悪臭や汚れには慣れているのである。魔獣の研究には付き物であるからな。それに、吾輩は魔法でグレルフロッグを捕獲するので沼には入らないのである。だからあまり汚れないのである」

「なるほど」


 それからしばらくレイピンさんと魔獣について雑談していた。


 聞いた話では、グレルフロッグはギルドで買い取りの場合、1匹で中銀貨1枚になるらしい。内臓から作れる薬が様々な効果を持つからだ。


 その話を聞いて、この世界に来た時に与えられた薬学の知識からグレルフロッグを材料とする薬を思い浮かべると、ざっと50種類以上ある。更に、割と精力剤や滋養強壮に効く薬が多く、これらは貴族の男性に高値で売れる。


 重要なのは処理の方法。下手な者がやるとすぐに質が落ちる。それでも薬にはなるが、品質も落ちるし作れなくなる薬もある。だからギルドで出る依頼は捕獲で、絶対に自分で解体しないように注意されるらしい。


 特に重要な処理は血抜き。できる限り丁寧に血抜きをするべきで、これがちゃんと行なわれないと品質が一気に悪くなる……あれ? これ、ブラッディースライムがいれば完璧じゃないか?


 あと、一度乾燥させて保存が利くようにする作業。これも普通にやれば傷むので、風魔法などを使って手早く行わなければならない。如何に早く乾燥させるかで質が大きく変わるが……これも錬金術で良いよな?


 処理は簡単、用途が豊富で保存も可能。


 依頼を受けないと売り先が見つけられない。あるいは売る際に安く買い叩かれやすいというだけで、薬草採取のように依頼を受けなくても捕獲に行って良いらしいし、薬の材料として確保しようかな……



 そんな感じで話をしていたら思いのほか時間がたっている。


「もうこんな時間であるか? 遅くまで邪魔をしてしまったのである」

「いえいえ、楽しかったですよ」


 帰るレイピンさんを見送ると、程なくして営業時間も終わり。


 店の売り上げを確認して帰ることにした。

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― 新着の感想 ―
スライムの管理については、契約条項の如何に関わらず所有権者が増えたスライムを他店舗に配置するのには何ら問題は無くないかな?今後はこの人達が店舗の拡大とか独断で行うの? なんかずーっと惜しいんですよね…
グレルフロッグって革は鎧、内蔵は高級のいい薬になるのは多才すぎじゃないか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!…
[一言] 異世界に行ったけど、すぐ戻ってきた。 ん。。。
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