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強制休日

 休憩が終わり、訓練を再開する……と思いきや、今日はこれで終わりだそうだ。


「もう2人とも感覚共有の使い方は分かっただろうから、後は各自で時間をかけて慣れるだけさ。リョウマ君はここからエリアの演奏でも聞いてのんびりしてくれ。親バカと思うかもしれないけど、楽器の演奏が上手なんだよ」

「演奏? 何故いきなり?」


 どういう事だ?


「この前、リムールバードの話はしましたわよね?」

「はい、皆さんがこの街に来た目的ですよね?」

「そうですの。リムールバードは飛ぶのが速く、風魔法も使います。だから生きたまま傷つけずに捕獲するのがとても難しくて、滅多に見られませんの。でも、リムールバードは魔獣だから契約ができますの!」


 なるほど、可能なら契約もする気なのか。……それで何故楽器?


「演奏に関係があるんですか?」

「大有りですわ。リムールバードとの契約に演奏は必要不可欠ですもの」


 そうなのか? と思っていた俺にセバスさんから補足説明が来た。


「リムールバードは体内に魔力を多く持っており、高い知性も持ち合わせています。そのため普通に契約を行おうとしても契約の際に抵抗され、失敗するのです。

 しかしリムールバードには美しい鳴き声で意思疎通や仲間の判別をする習性がありまして、契約前に音楽を奏で、気に入られると契約を受け入れてもらえることがあるのですよ」


 流石は異世界、俺の常識を超えた捕獲方法だな! 演奏で仲間と認めさせるとか……


「そんな方法で契約するんですか、知りませんでした」

「成功率が非常に低いため、眉唾な話だと思っている方もいらっしゃいますが、この方法以外で契約できた方がいると言う話も聞いたことはございません。最も可能性の高い方法といえるでしょう」

「そういう訳で、エリアも演奏を披露して契約を試みるんだ。今日の午後はその練習さ」

「リョウマさんはそこで聞いていて下さいまし。眠っても聞かなくても構いませんが、帰ってはいけませんわ」


 どういう事だ? ちゃんと聞けと言うならともかく、聞かなくてもいいけど帰るなって……


 そこでふとセバスさん達を見ると笑って俺を見ていた。


 ……………………あ、まさか!!


「気づいたようじゃの?」

「リョウマ君が連日働きすぎるから、ちょっとお休みして貰おうと思ったのよ」

「魔獣討伐から店作り、そして店の新人を雇ってその間に冒険者ギルドで依頼も受け、更にここの見回りと防水布作り。まともに休みを取って無いと聞いてね。

 昨日は店に暴漢が来たようだし、その対処でこれから更に忙しくなる可能性もある。だからその前に、今日の従魔術の訓練を口実にして仕事から離させて貰ったよ」

「リョウマ様の仕事量を教えられる範囲で関係者の方々にお伝えした所、皆様からは快く了解を頂けました」

「いつの間にそんな事を……」


 全然気づかなかった。


「今日は私達がしっかり見張りますわ。絶対に仕事はさせませんからね」

「こんな休ませ方では気が休まらんかもしれんが、無理にでも休ませんと体を壊す恐れがあると思ったのでな。今後もこの調子で仕事をするようなら、無理にでも儂らの家に連れてゆくぞ」

「ご心配お掛けしました」

「君は無理をしてないかもしれないけど、常人が君の仕事量をこなし続けたら間違いなく体を壊す。無理をしている自覚が無いだけかもしれないから気をつけなさい」

「という訳で、今日リョウマさんは無理矢理にでも休んで頂きます。では、私は演奏を始めますわ」


 いつになくお嬢様が強引だな。……普段から強引か? ……天真爛漫と言うのが正しいだろう。


 そう思っている間に、お嬢様はセバスさんからバイオリンを受け取り、弾き始めた。この世界にもバイオリンがあるのか……もしかしたら転移者が持ち込んだのかもしれないな。



 無駄なことも考えながら聴いてみると、お嬢様の演奏は普通に上手い。


 ゆったりとした曲調で、リラックスできる。


 そして一曲弾き終わると、俺に感想を聞いてきた。


「リョウマさん、私の演奏はどうでしたか?」

「上手でしたよ、本当に」


 お世辞抜きで。前世では貰い物のギターを弾いてたが、そこまで上手くはなかったと思う。それほど音楽の知識がある訳でもないが、聞いていて気持ちの良い演奏だったのは確かだ。


 俺の簡単な言葉でもお嬢様は喜んだ。そしてまた始まる演奏。


 演奏を聴きつつ、意外にもかなり人懐っこかったルォーグやスライム達を撫でつつ、のんびりした時間が過ぎていく。






 そのうち餌の時間になり、新しく捕まえた3匹にも撫でながら魔力を吸収させていたら


「おっ!?」


 1匹に変化があった。


「来たか!」

「何ですの!?」

「リョウマ君、突然どうしたの?」

「何が来たんじゃ?」


 俺の声でお嬢様が演奏を止め、他の皆さんも何事かと近寄ってきた。


「スライムの進化です!」


 撫でていたスライムに全員の目が集まる。そのスライムはアイアンスライムの時の様にブルブルと震えていたのがピタリと止まり、魔力の放出と吸収を繰り返す。


 同時に色も変わっていく姿に、皆目が離せなくなっていた。


 今度は……茶色くなってきたな。 


 そして進化が終わる。魔獣鑑定してみると


 アーススライム

 スキル 土魔法Lv2 土属性耐性Lv8 土属性魔法吸収Lv1 ジャンプLv1 消化Lv3 吸収Lv3 分裂Lv1


 土魔法! 実験成功だ!!


「リョウマさん、どうなりましたの?」

「アーススライム、土魔法を使えるスライムに進化しました」

「ほう! これまた珍しいスライムになったのぅ」

「リョウマ君、アーススライムもかなり希少なスライムよ。一体どうやって」


 そう聞かれたので俺は方法を説明した。そして方法を聞いたお嬢様や奥様が試してみるが。


「どうしてですの……?」

「意外と難しいのね……」


 属性を変化させた魔力が、放出する際に魔法になる。あるいは無属性に戻ってしまうと話す。


 どうやら変化させた状態を維持し続けるには魔力の制御能力が高くなければいけないようだ。俺は少し神経を使う程度だったが、それは遊び続けて魔力操作スキルがLv4にまで上がっていたからで、今の2人では無理だという結論に至った。


 それが悔しかったのか、お嬢様は演奏の練習をやめて魔法の制御訓練を始めるが、結局成功せず。最後には今後、魔力操作スキルの習得を目指すと言い出した。その目は挑戦の間にも俺が進化させたスライム達に釘付けになっている……



 とにかくこれでアーススライムが2匹、そしてもう1匹はダークスライムに進化した。


 ダークスライム

 スキル 闇魔法Lv2 闇属性耐性Lv8 闇属性魔法吸収Lv1 ジャンプLv1 消化Lv3 吸収Lv3 分裂Lv1





 スライムの件でちょっとした驚きはあったものの、俺の魔力切れが近くなると再びのんびりとした空気が流れる。


「……………………あっ、ホーンラビット」


 再開した音楽を聴き、スライムを撫でながら、何となくクルーバードを飛ばしたら群れがいた。


 肉……店の人たちへのお礼になるかな?


 一声かけて狩りに行こうとすると、ラインハルトさんやお嬢様達も手伝ってくれたので楽々、沢山の獲物を入手。


 俺が弓で数匹仕留め、スティッキースライムやラインハルトさん達が待機している方に追い込む。そして捕獲と回収するだけの簡単なお仕事。……やっぱり人数がいると、狩り一つでもかかる労力が違うな。


 そんな事を考えながらお嬢様達の下に戻り、鳥籠に戻したクルーバードとの契約を解除。


 連れて行って良いのよ? と奥様に言われたが、丁重にお断りする。


 クルーバードの視界が無くてもそれほど困ってはいないので、必要になったら自分で捕まえたい。


「では、そろそろ帰ろうかのう?」


 ……気づけばだいぶ時間が経っていたみたいだ。


 暗くなる前に町へ戻るべく乗り込んだ馬車。急ぐほどではないため、揺れは静かで心地よい。おまけに昼間の気分が残っていたのか? それとも自分で思っていた以上に疲れが溜まっていたのだろうか? その日は結局そのままうたたね。宿についてもそのまま部屋へ戻り、寝てしまった。

本日、4話同時投稿。

この話は3話目です。

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― 新着の感想 ―
[一言] リョウマの演奏テクニックは、まだ披露してなかったんですね
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