スライムの異変
本日、5話同時投稿。
この話は3話目です。
翌日
朝一番で店に顔を出し、店に問題がない事を確認してから廃坑へ。
今日も防水布を作り始めたはいいが、また手持ち無沙汰になった。昨日何をするか考えてるうちに眠ってしまったからな……何も思い浮かばない。前世ならラノベとかゲームして時間を潰せたんだが……
受け取った布は昨日と同じく45反。もう作業は終わってしまった。慣れのせいか昨日より早く。……どうするかな……スライムの訓練もしたし……
しばらく考えて、今日はスカベンジャーを集めてキングスカベンジャーにし、1対1で戦ってみることにした。
今のキングスカベンジャースライムのスキルはこうだ。
スキル 病気耐性Lv7 毒耐性Lv7 悪食Lv8 清潔化Lv8 消臭Lv8 消臭液Lv6 悪臭放出Lv8 養分還元Lv7 物理攻撃耐性Lv5 肥大化Lv5 縮小化Lv6 ジャンプLv3 暴飲暴食Lv4 体術Lv2
スカベンジャーにも物理攻撃耐性がついた影響か、キングスカベンジャーの物理攻撃耐性レベルも1上がっている。体術もスカベンジャーは1なのにキングスカベンジャーは2。
スカベンジャー1匹と比べたら全体的にスキルレベルが上がっているし、確証は無いが合体の際に1匹1匹のスライムの経験か何かが混ざるのだろうか?
ちなみにキングスカベンジャーとの格闘戦は、物理攻撃耐性の効果が高く、かなり攻撃が効き辛かった。体全体の弾力が増し、攻撃とその衝撃を受け流すのが上手くなっている。まだまだ技術は未熟だが、防御に関してはかなり優秀だ。
たとえば俺が割と本気で殴ってもキングスカベンジャーは耐えきる。もちろん安全のために核は狙っていないが、貫くのに手間がかかった。
しかし難点は攻撃力の低さ。肥大化で大きくなれば質量も増えて押さえ込む事には向いているが、スライムの筋力? はそれほどでもない。本気でやれば軽く振りほどけるし、打撃には威力が無い。
こればかりは仕方が無いので体を触手状に伸ばして鞭のように使う打撃や、それを相手に絡ませて密着する押さえ込み。相手の勢いと体の弾力、肥大化を利用して投げる背負投げもどき等、幾つかの技を考えて教えてみた。
相手の攻撃を受け流して身を守り、相手の力を利用した投げ技で戦い、相手が倒れたら肥大化で押さえ込むという戦法を基本にして貰おう。
これでそれなりに時間は使ったが、まだ少し乾燥が足りない。……もうちょっとだし。スライムと散歩でもしてれば乾くか。
そう思ってスライムを集め、外に出る直前。いきなり契約したスライムの1匹の様子がおかしくなった。従魔契約の効果である程度の状態は掴めるが、何が起こっているのかは分からない。
何だ?
急いで問題のスライムが居る場所に駆け寄ると、様子がおかしかったのはメタルスライムへの進化実験のために捕まえたスライム。体がブルブルと動き続けているが、体調が悪い訳では無さそうだ。となると……
「まさか進化!?」
まだ先だと思っていたが、それしか思い浮かばない。
静かに観察しているとスライムの動きが止まり、微量な魔力を感じる。
スライムが魔力を放出しているようだ。でも魔法じゃないな……吸ってる? 出した魔力を再び吸収しているのか? 何のために? 進化に必要? それとも無意識?
魔力の出し入れを数十度繰り返すうちに、徐々に体色が変わっていく。最終的には銀白色のスライムになったが、これは無事に進化したのだろうか? 状態は……いまは普通。何の異変もない。しかしメタルスライムなら鈍色のはずが、このスライムは光沢のある銀色になっている。
魔獣鑑定を使ってみると……
アイアンスライム
スキル 硬化Lv3 物理攻撃耐性Lv2 ジャンプLv1 消化Lv3 吸収Lv3 分裂Lv2
名前がアイアンスライムだった。スキルはメタルスライムと同じようだが、硬化のレベルが1つ高い。アイアン、鉄か……鉄を食べさせたからこうなったんだろうけど……
「メタルスライムも鉄を食べてたよな?」
同じ物を食べているのに、なんで違いが出るんだろう?
「アイアンが鉄、で、メタルは金属……!!」
メタルスライムの餌用の石材を取り出し、鑑定する。
石材(赤土)
鉱山で捨てられていた土砂を土魔法で固めた物。含有金属:酸化鉄、酸化アルミニウム
「やっぱりか! ……赤土には酸化アルミニウムが含まれている土もあったんだ……」
昔、道路工事のバイトの現場で後輩が話していたことがあるのを思い出した。
「メタルスライムは鉄のみではなく、アルミニウムも食べていた。もしかしたら他の金属も入ってるかもしれないが……」
錬金術でレンガから鉄とアルミを抽出。アイアンスライムとメタルスライムの2匹を呼んで分けてやった。
するとアイアンスライムは鉄しか食べなかったが、メタルスライムは鉄もアルミも食べた。
俺はメタルスライムを呼び寄せて撫でてみる。
「お前、金属に関しては雑食? だったんだな……アイアンスライムは鉄だろうけど、お前の体どうなってんだ? 鉄とアルミの合金だったりするのか?」
メタルスライムに問いかけてみるも、当然返事は無かった。
「まぁ、なんにせよ進化条件は分かった。それに初めてスライムの進化を見たな……」
これまでは何故か俺が寝ている間に進化していた。餌をしっかり与えていれば大体半年以内に進化するが、その間いつ進化するかが分からないから徹夜で観察もむずかしい。
しかし、進化の際に魔力を吐き出したり吸い込んだりしてたな……これは……いかん、今考えるとまた帰りが遅くなりそうだ。何か別の事を……
「そういえば、鑑定についても少し分かったな」
どうやら無属性魔法の『鑑定』は、ネットの検索のような情報の出方をするようだ。漠然とこれは何か? と思って使えば名前しか出ないし、ただ詳細な情報が欲しいと思っても簡単な情報しか出てこない。
しかし、この前の汲み取り槽掃除の時は天井を鑑定したら殺菌という単語が出た。汚物を鑑定したら病原菌なんて言葉が出た。おそらく使用者の知識を元にしている、使用者の知識量の差で出てくる情報が変わるのかもしれない。
何度か試してみると、細かく調べるには細かく知りたい内容を、自分の知識で分かるように思い浮かべるとより詳しく出てくる事が分かった。
例えばこの石材の重さ、そしてその中の鉄とアルミニウムの含有率及び量は?
石材503.9g(赤土)
鉱山で捨てられていた土砂を土魔法で固めた物。
含有金属: 酸化鉄4.2% 21.1638g,酸化アルミニウム5.1% 25.6989g
ここまで詳しく出てくる。これもイメージがより詳しくなったからだろう。これは使える! …………か?
詳しい情報を得られるならその方が良いが、今の所は特に必要でもないな……今度セルジュさんの所に持っていく鉄のインゴットの重さをグラム単位で揃えるか?
それともセルジュさんにこの世界で出回ってる鉄のインゴットで質が良い物を取り寄せて貰って、俺が作るインゴットの手本にするか? 俺が作るインゴットが目立たなくなるならやる価値はあるが、今の所鑑定はあまり使う事が無さそうだな……今まででも十分だったし。
それから俺は防水布の乾燥を待つ間、練習として1つ500g、純度80%で鉄とアルミのインゴットを作り続けた。
そして防水布が乾いたらさっさと回収し、街に戻りセルジュさんの店に防水布を納品。その後、用意して貰った布300反を受け取って宿に戻ったが、半端な時間なので店へ向かう。今日は依頼を受けるにはもう遅いし、店の様子を見て帰ろう。
店に行くと相変わらずの人。というか、またお客が増えてる?
従業員用の通用口から休憩室に……誰も居ない。まさか全員総出でやらないと間に合わないのか?
そう思って店舗に続く扉を開けると、出稼ぎ3人娘の1人フィーナさんをみつけた。
「店長、お疲れ様です」
「お疲れ様です。誰も休憩室にいなかったんで、忙しいのかと思って」
「暇じゃないですけど、それほど忙しくも無いですよ。何と言っても人数がいますから。最近お客さんが多くなる時間帯が判って来たんで、それに合わせて皆で対応してるんです」
あら、俺が店ほっぽってる間に皆さん完全に仕事に慣れてらっしゃる。この分だと心配は要らなかったな。
そう思ってから、ふと気づく。
「あ……」
「どうしたんですか?」
「クリーナースライム、分裂の準備が整ってますね」
「え?」
クリーナースライムにとってこの洗濯方法は食事でもある訳で、連日大量の食事をしていたため分裂できる状態になったみたいだ。
「洗濯してるスライムが増えるんです。その準備が整ってますから、ちょっと増やします。もっと洗濯の効率が上がりますよ」
「本当ですか! 凄いです!」
「この場合凄いのはスライムですけどね。しばらくここにいますけど、こっちは気にしないでください」
「はい!」
そう言って手近な洗濯済み洗濯物を持って駆けていくフィーナさん。
さて、俺もやるか!
クリーナースライムの分裂と契約を行い、クリーナースライムの数は計54匹。クリーナースライムはなかなか分裂しないのに、1度に2回分裂した個体が10匹も居る。やっぱりこの仕事をしているからだろう。それにクリーナースライムを分裂させたら、数が増えた分作業が格段に早くなったみたいだ。作業効率は倍以上? この効率を無駄にする手はない。
「あっ、ちょうどよかったフィーナさん、カルムさんも」
洗濯物を取りに来た彼らに、手短に事情を説明して二人も接客に加わるよう提案。
さらにこれまで接客担当には荷物の受け取りと返却を両方任せているが、人数が増えたので作業を分担することも提案する。
「荷物運びは僕が担当で、お二人が返却担当」
「効率を上げるわけですね。試してみましょう」
ということで二人は表へ。俺も洗濯済みの荷物をかき集めて運びだす。
「次のお客さま!」
「こちらへどうぞ~」
「18番のお客様」
「仕上がりはいかがでしょうか?」
「あら、本当にきれいになるのね……お値段も安いし、いいじゃない」
「ありがとうございます! またのお越しを! 次は……8番のお客様―!」
作業を分担し始めて数分。人の流れは明らかに速くなった。スライムは分裂直後で空腹になっているのかもしれない。以前より精力的に作業に取り組んでいる気がする。
たまに割符が予備を合わせても足りなくなりかけたり、返却待ちの人が増えてきたりもしたが、一時的に接客方法を戻すことで解決。クリーナースライムと窓口の増加は確実に処理速度を上げ、どんどんとお客を捌いていく。
そうしているうちにピークの時間帯を乗り越え、そのまま無事に閉店時間を迎える事ができた。




