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店作り 3

本日、4話同時投稿。

この話は3話目です。


「う~……」


 宿に戻り、広告の内容を考える。しかし1つだけ中々決まらない事がある。店の名前だ。単純なものしか思い浮かばない……


 俺が悩んでいると、セバスさんが来た。


「リョウマ様、お戻りですか?」

「はい、居ますよ」


 そう言いながら扉を開ける。


「リョウマ様、お嬢様がたがお茶をご一緒にどうかと申しております」

「いいですね。ちょうど作業が行き詰まっていた所でして。有り難く頂きます」


 そう言ってお嬢様達の部屋に行く。


「お待ちしてましたわ、リョウマさん」

「ささ、座って座って」

「ありがとうございます」


 お茶が配られ、俺はそれをひと口飲む。そこでラインハルトさんが俺に聞く。


「最近、頑張っているみたいだね。頑張り過ぎてないかい?」

「はい、大丈夫です」

「作業の進み具合はどうかの?」

「店はほぼ完成しました。あとは明日店の周辺に芝生と花の種を蒔いて木属性魔法で育て、看板と営業中の札などを作れば最低限の準備は整うかと思います」

「ええっ!? もうそこまで完成してるの!?」

「リョウマ君、やっぱり無理してないかい?」

「いえ、特に問題はありませんが」

「リョウマ様、リョウマ様は土魔法で建物を建てていると聞きましたが、魔力は毎日どれほど使われていますか?」

「そうですね……魔力切れの症状が出る少し前には魔法の使用はやめています。後は手作業で出来る事をいろいろ」


 その言葉を聞いて俺以外の人が全員溜息を吐いた。


「それは十分に働きすぎだよ……」

「リョウマ様が魔力切れ直前までとなりますと、一般的な魔法使いが軽く倒れてしまえる量の魔力を使っている事になります。1人が行う仕事量としては、間違いなく働き過ぎと言えるでしょう」


 そういや俺の魔力、異常に多いんだった。


「今気づいたという顔をしておるのぅ」

「なんか、急に心配になってきたわ。本当に一人にして大丈夫かしら……」

「大丈夫ですよ。昔の仕事場に比べれば何て事ありませんから」

「昔の仕事場って何をなさってたんですの?」

「へ……?」


 口をついて出たけどプログラマーと言っても分からないだろうな……バイトの話をするか。


「色々やりましたね……普通の荷運びもそうですし、ちょっとした人形作りもやった事がありますし」

「そうですか……リョウマさんは、お仕事が苦しいとか思った事はありませんの?」

「辛かった時もありましたが、働かなければ生活が出来ませんでしたからね……それに、全てが辛いだけでもなかったです。さっき言った荷運びは建築現場の資材運びでしたが、建物が段々と出来ていくのはおもしろいとも思いましたね。完成した時は達成感がありましたし。人形作りは指定された場所に指定された色をつける作業の繰り返しでしたが、出来上がりが良かった時は嬉しくなる事もありましたから」

「そうですか。私も将来そんな遣り甲斐を見つけられる仕事に就きたいですわ」


 え、お嬢様は働くのか? 公爵令嬢なのに?


 俺がそんなことを考えていると、お嬢様は人形の事を気にしているようだ。やっぱり女の子だなー……


「もし良かったら今度お嬢様にも作りましょうか?」


 深く考えず、その場の勢いで口走ってから思い出した。俺が作ってたのって、男の子向けの奴ばっかりだ。


「本当ですか!? もしお時間ができたら是非!」


 いかーん!! いろんな意味でマズイ! 趣味と実益を兼ねて色々作ったが、こっちの人にはネタが分からんだろう。それにお嬢様の歳では見てはいけない、大きなお友達向けのものも論外となると……


「どうかされました?」

「いや……モデルがちょっと……僕の担当していた作業は色付けで、今考えたら土台がなくて……」

「あら? リョウマさんは土魔法がお上手ではありませんか」


 ……それもそうだね。ここに来て土魔法の便利さが仇に……


 仕方ない。自分で言い出したんだし、適当に何か当たり障りの無い物を作ってみよう。


「分かりました。時間ができたら作ります」

「お願いします」

「セバスさん、画材や絵の具などはどこで買えますか?」

「それでしたら、明日までにご用意しておきます」

「ありがとうございます。店の看板にも使いたいので絵の具を多めにお願いします。あとでお金は渡しますので」

「かしこまりました」


 それからは他愛もない話をして、部屋に帰った。帰る際に無理をしすぎるなと念を押されたな……気を付けよう。


 そういや店の名前どうしよう……………………………………単純でもいいか。おぼえやすさの方が重要だし。


 ゴブリンの汚れもお安く落とします! 洗濯代行業者 バンブー()フォレスト()


 広告はこれで決まりだ。










 店建築8日目


 セバスさんから画材と絵の具を受け取り、お礼を言ってからギルドに向かう。


 ギルドに入ると、受付嬢のメイリーンさんから声がかかった。


「あら! リョウマ君じゃない、廃坑の依頼が終わった後からギルドに来なくなったから心配してたのよ?」

「申し訳ないです。色々と忙しくて」

「そうだったわね、お店を作ってるんでしょ? ギルドマスターから聞いたわ。その年で凄いじゃない」

「ありがとうございます。そうだ、その件で一つ聞きたい事が」

「何かしら」

「何処かでギルドの掲示板に広告が載せられると聞いたんですが、本当ですか?」

「広告? ん~、ギルドではそういうサービスは無いわ。多分、リョウマ君が聞いたのはアレの事よ」


 そう言ってメイリーンさんが指し示したのは、ギルドの隅にあった1つの小さな掲示板だった。


「パーティー募集の掲示板。仲間が欲しい人が自分の情報や仲間にしたい人の募集要項を書くの。お店の宣伝をする掲示板は無いわね」

「そうでしたか、ありがとうございます」


 こうなるとコツコツ自分で宣伝したりクチコミで広まるのを待つしか無いのか? チラシ配りや張り紙は紙の値段が微妙に高いし……


 例外的にトイレットペーパーだけは使い放題。昔、歯ブラシとトイレットペーパーを生み出す魔法道具を製作して世界中に広めた男(おそらく転移者)が居たかららしいが、チラシをトイレットペーパーに書いて配る訳にもいかない。


 絶対に脆いしすぐ捨てられそうだ。店の宣伝はとりあえず後にして仕事しよう。


「メイリーンさん、今日はゴミ掃除とかそういう依頼はありませんか?」

「それならまずギルドマスターの部屋に行ってくれるかしら? 次にリョウマ君が来たら呼べって言ってたから、たぶん仕事の事でもお話があるから」

「分かりました。行ってみます」


 そしてギルドマスターの部屋に行くと、ギルドマスターに笑顔で迎えられた。


「リョウマ! やっと来たか!」

「こんにちは。一週間ぶりでしょうか? 店の方にかかりきりでしたので」

「早速で悪いが、汲み取り槽の掃除の依頼を受けてくれ」


 何? 汲み取り槽の掃除はあの6人組とかスラムの人に…… 


「それなんだがなぁ……今お前が言った6人を含めて引き受ける奴らも出てきたけどよ、まだ人手不足なんだわ。お前に絡んだサッチの仲間の内、軽めの罰則で済む程度の奴らにもやらせてるが、まだ足りねぇ。あと仕事のできもお前さんのやり方ほど綺麗にはならねぇってよ。

 金のない奴らに仕事回したいのは俺も同じだけどよ……ギルドとしてはあんま依頼人を待たせんのは良くないんだ。それにお前が来る前の5ヶ月が相当キツかったんだろ。もうあの時みたいな臭いはこりごりだ! 一時は臭いまで綺麗さっぱり無くなったじゃないか! 今度もそうしろ! って気の早い奴らが苦情送ってきてんだよ。頼む、手が足りてねぇ分だけでいいから」


 うわぁ……綺麗にし過ぎたか? 一度生活環境のレベルが上がると戻すのが辛いってことか? ……それもあると思うけど、何より5ヶ月が辛かったんだろうな……


「まぁ、理由は分からなくもないですね。あの臭いは本当に酷かったですから………………了解しました」

「助かるぜ」


 俺はすぐに依頼を受け、汲み取り槽の掃除に取り掛かった。


 スカベンジャーを最大限に活用すれば、あっという間に掃除は終わる。


 後は達成報告をして報酬を受け取って店での作業に入った。


 スカベンジャースライムに頼み。養分還元のスキルで食事から得た養分を肥料にして吐き出して貰う。臭いの無い泥のようなそれを店の周りの土に混ぜ込み、芝生と花の種を植え、水を撒く。


「暗くなってきたな……」


 掃除の仕事に時間を費やしたからか、そこまでで日が暮れ始めた。

 昨日働きすぎと言われたばかりだし……今日はここまでにしておくか。









 店建築9日目


 朝から芝生や花の種を蒔いた地面に魔法で水をやり、木属性魔法の『グロウ』で種の成長を促進。魔法をかけ始めてから3時間ちょっとで店の周囲に芝を青々と茂らせ、花を咲かせる事に成功。


 この魔法は便利だけど、土に水と栄養が足りないとその分魔力の消費が増えるし、この魔法で急成長させていくと高確率で土が栄養不足になる。スカベンジャーの肥料がなかったらこんな広範囲に短時間で芝生を茂らせるのは無理だと思う。


 まぁ、成功したからそれはいいとして……後は風属性魔法で伸びすぎた芝を適度に刈り、スカベンジャーに刈った芝のみを食べて貰うだけで周りの整備が完了。続いてとうとう店の顔、看板に取り掛かる。


 切り出した木の板の1枚を白く塗り、まずは大きく『洗濯代行業者 バンブーフォレスト』と書く。その両脇には竹林とその根元にひっそりと寄り添うスライムの絵。あとはこれを乾かしておき、後で防水とツヤ出し加工をして完成になる。


 乾燥の間は洗濯の値段表など、細々した物を作り、店の最終確認を行う。


 次は……接客とか営業の流れの確認か?


 ならプレオープンとしてジェフさん達に頼んで試させて貰うか……いや、いっその事完成祝いも一緒にやるか!






 そう思い立った俺は、一応開業に最低限必要なものは揃ったのを確認し、帰る前にセルジュさんの所へ寄ることにした。


「ようこそいらっしゃいました、リョウマ様」

「こんばんは、セルジュさん。早速本題に入らせて頂きますが、今日で一応店の形が整いました」

「本当でございますか!? 随分とお早い……」

「冒険者ギルドの知り合いに開店を待ち望むと言われた事もありまして、ここしばらく気合を入れて店作りをしていたので、何とかなりました。そこで形も整った事ですし、今度知り合いを集めて店のお披露目と知り合いから仕事を受ける事で一連の作業に問題が無いかなどを確認したいと思います」

「本格的な営業前の最終確認という事ですな?」

「はい。本格的な営業はその翌日からという事で、その後は軽食などを食べつつ、完成祝いもしたいと思います。よろしければセルジュさんにも参加して頂きたいのですが、ご都合に空きはありますか?」

「お誘いありがとうございます。そうですな……明日は少々予定がございますが、明後日以降なら2週間は何の予定もございません。そちらの都合のいい時間で構いませんよ」

「ありがとうございます。知り合いにも確認をとり、決めさせていただきます」

「リョウマ様、その際は2人ほど連れて行っても宜しいですかな?」

「問題ありませんよ。ピオロさんとギルドマスターですか?」

「いえ、我が商会の者です。以前約束した補佐が出来る者を紹介させていただきます。仕事に慣れる為にも早めに会って頂く方がよいでしょう」

「お心遣い、感謝します」


 そういやそういう話になってたな。従業員の宿舎作っといて、店員さんの事忘れてた。1人だと冒険者としての仕事できないから、かなり重要だ。ホントにありがたい。


 改めて礼を言い、店を出る。


 次は冒険者ギルドでギルドマスターとメイリーンさんに同じ事を話して予定を聞いた。2人とも3日後が休みらしく。ジェフさん達、疫病防止作戦に参加した人達にも声をかけておいてくれるそうだ。ギルドには明日また来よう。


 さらに商業ギルドにも行き、ギルドマスターに伝言を頼もうとしたら応接室に通された。


「よく来たねぇ。あれから1週間ちょい、作業は順調かい?」

「おかげさまで、なんとか店の形は整いました」

「もう出来たってのかい? 建物の出来にもよるけど、アンタ大工でもやっていけるんじゃないかい?」

「簡単な構造の建物しか建てられませんよ?」

「それで十分さ。凝った家なんて貴族か変わり者しか建てやしないんだからね」


 それもそうか。


「今日は店ができた報告に来たのかい?」

「それに加えて知人を集めて仕事を受け、業務の手順を確認したいと思っています。その後、軽食などをつまみながら完成祝いをしたいのです。ギルドマスターにはお世話になりましたし、もしよろしければ」

「アタシを誘ってくれるのかい?」

「大した物は用意できませんし、他の知り合いもいますが。それでよろしければ」

「ひっひっひ、気楽な宴会ってことでいいんだろ? その方が嬉しいさね。立場上、そんな集まりに呼ばれる事なんてなくなったからねぇ。表向きは気楽でも、行ってみたらガッチガチにお堅い集まりなのさ。でも、冒険者仲間が出るってんなら本当に気楽にやるつもりなんだろう?」

「はい、僕も堅苦しいのは苦手ですから。言葉遣いも表面的な部分を取り繕うだけの物ですし」

「分かった、いつだい?」

「今のところは3日後を考えていますが、ほかの方々の予定も聞いてから最終決定を……明日にはギルドに伝言を残します。それからピオロさんとの連絡の取り方を教えて頂けませんか? 彼にも時間があればご参加頂きたいので」

「アイツは3日後なら大丈夫だよ。アイツは別の街に拠点を持っていてね、ここに明日の会合に来るってのを口実に休みを取ってるはずさ。あたしが声をかけておいてあげるよ」

「よろしくお願いします」


 俺はギルドマスターに礼を言い、商業ギルドを出る。


 その後はテイマーギルドにも顔を出してから宿へ帰り、お嬢様達に洗濯屋のプレオープンと店舗完成祝いのお誘いをした。するととても喜ばれ、公爵家4人とセバスさん、アローネさん、リリアンさん。それに護衛の中からジルさん達4人も参加する事が決定した。


 これで参加者はお嬢様達11人+冒険者ギルド組11人+商業ギルド組5人の計27人。俺を含めて28人。実績がないので当然だが、今日は会えずに返事を貰えていないテイラー支部長が来るとしたら29人になる。……完成祝いの会場は従業員用の休憩室になるな、あそこなら広さは大丈夫だ。


 明日は冒険者組の予定確認と他への連絡だな。













 10日目


 ギルドで確認した所、冒険者組も全員参加が決定。また、テイマーギルドでは昨日残しておいた伝言をちゃんと伝えてくれたようで、テイラー支部長も参加できるとの伝言を受付で渡された。


 それを聞いた俺はセルジュさんの店とギルドに明後日の朝から試験開業、昼から完成祝いを行いますと伝言を残す。


 後は1週間ほど放置していた廃坑の見回りと道中の魔物討伐を行って宿に帰り、お嬢様達にも明後日の事を伝えて一日が終わった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] リョウマの19万の魔力が枯渇寸前だと 普通の魔法使いだと1000~5000くらいで、 宮廷魔道士にもなると1万~5万 とあったので 普通の魔術師は倒れるどころか 絞りカスにでもなるんじ…
[一言] 林は一般的に英語でwoodsだと思いますよ 竹林はbamboo groveです
2020/10/21 03:40 ぽこぴんベル♪
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