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帰宅

「リョウマ、こんな所で何してんだよ?」


 馬車の乗り場から離れた場所でスライム達とボーっとしていると、ジェフさんに声をかけられた。その後ろには汲み取り槽の掃除で集められた人達が勢ぞろいしている。


「帰らにゃいのか?」

「皆さんお疲れ様です。帰るにしても乗合馬車があの人だかりですからね、最後の馬車でのんびり行こうかと」

「お前もか」

「お前もって事は、皆さんも?」

「今日は皆疲れたからね、あの人だかりに加わる気分じゃないんだよ」

「まったく……今回みたいな時のために雇われたとはいえ、今日はキツかったぜ」

「今日のは流石にね。ゴブリンキングに加えてあそこまでの群れなんて、普通は事前にしっかり準備してから取り掛かる仕事でしょ。戦ってる間あの話を思い出したよ……あの、弱い魔獣でも油断するなって話」

「あ、昔10万のゴブリンが攻め込んで滅んだ国の実話ですか? それ僕も思い出しましたよ。というか、本当に今日は死者が出なかったのが奇跡ですよ」


 そんな話があるのか?


 太い腕を首に回してぼやくゴードンさんに、同意するミゼリアさん。皆さんも疲れてるな……と思いながら聞いていたら、シェール君からそんな話が出てきた。


「あれ? リョウマ君、この話知らなかった? 結構有名な話だと思うけど……」

「聞いた覚えがないですね……」

「お前あれだろ、ガキの頃から童話じゃなくて小難しい本ばっか読んでる奴」


 ジェフさんのその言葉に全員が納得。ただの無知が変な方向に誤解されている。

 彼らの中で、俺はガリ勉キャラになっていたようだ。


「国を守ろうとした兵士や冒険者の奮闘空しく、守りの手が回らずに押し切られたって話さ。今だからこうして笑って話せるが、お前とスライムがいなきゃ待ち伏せ部隊はそうなってたろうな」


 いくら腕っ節が強くても、その腕が届く範囲内でなければ意味がないからなぁ……数は力、とはよく言ったものだ。


「思い出したのである!」


 ゴードンさんの言葉を受けて考えていると、レイピンさんが突然叫んだ。


「突然どうしたんだよ、レイピンのおっさん」

「リョウマ、さっきのヒールスライムを見せてくれないか? 吾輩、ヒールスライムは話に聞いた事しか無いのである」

「いいですよ」


 ヒールスライム2匹を呼び寄せて、良く見えるように抱え上げる。


「どうぞ」

「ありがたいのである。ふむふむ、体は白く、スライム種の中でも小柄。回復魔法を使っていたのはこの目で見た……話に聞いていた通りであるな。食事などは普通のスライムと同じであるか?」

「それが水以外を一切飲み食いしないんですよ。クリーナースライムも普段肉などは食べませんが、命令すれば食べます。好みの問題なんだと思いますが……でもヒールスライムは本当に水しか飲みませんね。そこが大きな違いです」

「何と、そうなのであるか?」

「水だけでどうやって生きてるんだい?」

「光合成というスキルがあります。これは光を浴びて体内で生きるのに必要な栄養を作り出すスキルのようで、このスキルのおかげで水だけで生きられるみたいですね」

「そんなスキルがあるのであるか!? むむむ、興味深い……いや、植物系の魔獣図鑑にそのスキルを持つ魔獣がいたような……」

「そのスライムは強いのかにゃ?」


 思考に没頭し始めたレイピンさんをよそに、今度はミーヤさんの質問。


「非常に弱いですね。戦闘能力が無くて、戦えばただのスライムにも負けます」

「それは弱いにゃ……」

「おそらく、それがヒールスライムが非常に珍しい理由です。ヒールスライムが生まれても、すぐに他の獣や魔物に殺されてしまうから人目につく機会が無いんでしょうね」

「納得出来るのである。野生では力無き者は生きて行けぬのである。ヒールスライムには何の自衛手段も無いのであるか?」


 あ、聞こえてたんだ、レイピンさん。


只管(ひたすら)耐える事に特化していますね。回復魔法に加えて生命力強化のスキルまで持っていて、攻撃されると自分を回復しつつ逃げようとするんです」

「耐えて回復して逃げるのであるか」

「意外とタフですけど、野生では長くは生きられそうにありません。こいつらもそれが分かっているのか、自由にしていて良いと言っても、僕か従魔のスライム達から離れようとしないんですよ。僕や他のスライムが傷ついた時の回復もすぐにしてくれますから役に立つんですけど、完全に回復担当で戦闘はさせません」

「なるほど……良いものを見せて貰ったのである。ありがとうである」

「スライムの研究に理解を示してくれる人は珍しいですからね。これくらいお安い御用ですよ」

「うむ、リョウマも何か魔物について聞きたい事があれば、遠慮なく吾輩に聞くと良いのである。大抵の質問には答えられる自信がある。それにリョウマとの話は新しい発見が多くあって面白い、それだけに正当な評価を受けられないのが惜しいであるな」


 それを聞いたアサギさんが話に入ってきた。


「拙者、従魔術は詳しくないが、操る従魔が増えるほど扱いは困難になると聞いている。これほどの数の従魔を操れるなら、テイマーギルドで評価されるのでは?」

「登録したばかりの新人で実績はないですし、テイマーギルドの評価方法は使役する従魔の強さやランクに重点が置かれているようで、スライム種のみでは高い評価にはならないそうです。むしろ軽んじる風潮があって悪目立ちするだけの可能性が高いため、ギルドでは研究内容の公表もしていませんから」

「スライムだから無能で価値がないと判断する者が多いのである。リョウマはクリーナーとスカベンジャー、新種のスライムを2種発見し、そのどちらもが非常に有用な能力を持っている。それに研究成果を考慮すればランクを幾つか上げても良いと我輩は個人的に思うのである。

 しかし一人の魔獣研究者としてスライムの地位を知っていると、おそらく今リョウマが持てる知識を公開したところで、不当に低い評価が下る事が考えられる。リョウマが公表する気にならないのも無理はない。テイマーギルドに限らず、それだけスライムが無能という認識は根強いのである……」

「そうなのかい? 学のないアタイでもその2種の価値は分かるのにね。従魔術が使えたら欲しいくらいさ」

「そのように偏見なく判断する者が増えれば、いつか正しい評価も得られるであろうな」


 ウェルアンナさんの言葉にその場に居た全員が頷く。皆さんは汲み取り槽の掃除の件と今日のゴブリンの件でスカベンジャーとクリーナーの価値を理解してくれているようだ。


 そんなみなさんの反応を見てふと思いつく。


「洗濯屋とかやったら生活費くらい稼げますかね……」

「洗濯屋?」


 思いついただけでなく口に出ていたらしい。


「今思いついたんですけどね。クリーナースライムを使って、安い値段でゴブリンの汚れも落とします! って冒険者に宣伝をすれば洗濯を請け負う事で生活費くらい稼げるかな? と思いまして」

「安い値段ってどれくらい?」

「そうですね…………専用の袋を作って、1袋につき安くて小銅貨1枚、高くても中銅貨1枚位ですかね?」

『稼げる!』


 俺がそう言うと全員が声を揃えてそう言った。


「どれだけ綺麗になるかは知ってるにゃ。これがひと袋で中銅貨1枚なら安いにゃ」

「特に今日のは落ちにくいゴブリンの血や脂……」

「時間がたった後のことを考えると、憂鬱になるんですよね、いつも……」

「アタイは汚れた服を捨てて買い換える。洗っても臭くて着てられないからね。嗅覚が鋭くてある程度稼いでる獣人族ならそういう奴はほかにも大勢いるけど、中銅貨1枚で汚れと匂いが消えるならそっちに頼むはずさ。買い換えるより安いからね」


 獣人族は本当に臭いに敏感だから、と獣人族の女性4人が太鼓判を押す。


「その値段なら冒険者以外も頼みたがるだろ。洗濯にかかる労力と時間を考えたらリョウマに頼んだ方が早いし楽だ」

「俺は明日から頼みたい位だぞ。実は家に溜まっててよ……」

「吾輩も家事は苦手であるし、研究に入ると特に洗濯をほったらかしにする癖があるのである。その度に人を雇うのだが、雇い賃がばかにならないのである」

「レイピンの場合は放って置き過ぎて汚れが酷いから料金が割増されている事もあるが……人を雇うにはそれなりの金がかかるのは間違いない。裕福な家庭か貴族でなければそんな金を使えんし、割に合わんでござる。その点今リョウマが言った値段なら、庶民も気軽に頼めるでござるな」


 独身なのか? 男性3人のちょっとズボラな意見がさらに加わり、アサギさんが話をまとめる。


 皆さんの食いつきが思ったよりいいな……


「あんたが本当にやるなら儲かる可能性は十分あるし、アタイらは客として利用させてもらうよ」

「でも、どうして急にそんな事を?」


 あ、そう言えば言ってなかったか……


「実は昨日色々考えまして。僕、自立する事にしました」

「どういう事?」

「皆さんは知ってると思いますが、僕は公爵家の人たちについてこの街に来ました。そして色々面倒を見て頂いていたのですが……ここ最近、公爵家の方々の厚意に甘え過ぎているのに気づきまして。それで公爵家の方々と話をして援助を断り、自立する事にしたのです」

「公爵家の援助を断った!?」

「勿体無いな……」

「援助を断ったと言ってもまだ宿を取って貰ったりしているのですが……とても良くして頂きましたが、次第にそれが当たり前のようになっていたといいますか……甘え過ぎていたので。公爵家の皆さんが町を出たら気を引き締めるために」

「それでも普通はそんな事しないからね? 公爵家からの援助を断るとか普通ありえないから。まず普通はそんな機会すら無いし」

「だがその考えは立派でござるな」

「ははは……で、話し合った結果1つ仕事を請け負う事と定期連絡をする事を約束し、僕はこの街に残る事にしました。それで幾つか自力で生活費を稼ぐ方法を探していたんです。

 冒険者を続けるつもりですが、公爵家から請け負う仕事の関係上、定期的にこの街に戻ってくる必要があるんです。だから予め複数の稼ぎ口を用意しておければ万が一冒険者が出来なくなっても安心ですから」

「そうかい、ならいいさ。頑張りなよ」

「この街に残るというなら、これからもリョウマとは顔を合わせる事になるであるな。これからもよろしく頼むのである」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 その後はたわいもない話を続け、最後の馬車で街に戻った。









 そして宿に戻ると、お嬢様達の部屋に呼ばれた。


「お帰りなさ~い」

「リョウマさん、今日もお仕事お疲れ様でした」

「今日は早く仕事が終わったんだね? 鉱山の方は順調かい?」

「あれ? まだ連絡が来てないんですか?」

「今日は役所へ鉱山の管理について問い質しに行っておったからな……やはり長いこと手付かずの状態だったようじゃが、何かあったのかの?」

「今日はゴブリンの村が見つかって、村を潰しました。……ゴブリンキングまで居て大騒ぎになりましたよ」


 報告の直後に驚きの声が轟く。


「ゴブリンキングじゃと!?」

「大丈夫でしたの!?」

「幸い僕は逃げ出したゴブリンを逃がさず仕留める役割でしたから問題ありません。他の人にも幸い死者は出ませんでした」

「そうかい、それは良かった……」

「しかしゴブリンキングやゴブリンナイトが出るほどの大きな巣で、逃げ出して僕たちの方に来たゴブリンは2000匹程になりました。そこまで大仕事をしましたから、今日はゴブリンの死体処理をしてから帰って休めという話になりまして、解散となりました」

「よくそれで死者が出なかったのぅ……」

「ゴブリンキングの討伐は高ランク冒険者がやりましたし、低ランクの僕達は罠をつかってなんとか。それともう一つお話が」


 俺はあの6人組から聞いた事情を話した。汲み取り槽の掃除がなくなり、困っていたと。

 すると公爵家の皆さんは少々気落ちしたようだ。


「そうか……」

「今、役所の方はどうなってますか? 話せる範囲でいいので」

「処分を下して職員の再編をしているよ。不正の主導者はもう檻の中で、余罪の追及をしてるところだね」

「今日の話もやった事の結果として加える事になるじゃろう。して汲み取り槽の掃除はギルドが?」

「そうです。僕もあの後もう一度依頼として引き受けました」

「ギルドとしては、依頼人を待たせるのは避けたいじゃろうからのぅ」

「一応その6人にはギルドで仕事が請けられることと、給金が確実に支払われることを伝えてあります。疑っていたようですが、やる気もありそうでした」

「すまんの……こちらからも手を打つよう、新しい担当者に話を通しておこう」


 そこでいったん話が途切れた。



「さぁ、暗い話はここまでよ。無事で良かったわ」

「そんな大仕事をしたならお腹が空いただろう。何か食べるかい?」

「頂きます」

「スライム達も頑張ったのですよね? スライムには?」

「今日はもうたっぷりとゴブリンを食べて、今夜また分裂できるくらいですから十分かと」

「あら、そうでしたの? どのスライムが増えますの?」

「アシッド、ポイズン、クリーナー、それにスティッキーも少し増えるでしょう」

「それはまた、一気に増えますのね」

「大量に食べましたからね。どの種類が増えても戦力増強、防水布と糸の生産力向上、環境の改善のどれかに役に立ちますから良いんですけど……そろそろ従魔契約に使う魔力が多くて大変になってきました」

「数が多いから仕方ないわ。無理はしないようにね」

「はい。今日中で厳しいようなら2日3日に分けて契約を行います」

「よろしい」


 その後食事をしつつ今後の事を聞かれたので、冒険者として生き、それと同時に他の稼ぎ方も考慮に入れている事を話した。


 そういえば、いつまで滞在するのか聞いてなかったな……何時まで滞在するか聞いてみよう。


「皆さんは何時までこの街に滞在されるんですか? 今まで聞いてませんでしたが……」

「言ってなかったかのぅ? グレルフロッグの大量発生が終わるまでじゃ。エリアの入学までに余裕がある限りはこの街に滞在する」


 グレルフロッグって確か……


「革が鎧に使われる魔獣ですよね?」

「うむ、確かに革は鎧に使われるのぅ。加えて内臓が薬にもなる。それが毎年この時期に、この近辺の沼に大量発生するんじゃよ。そこにエリアを連れて行く」

「場所は丁度この街から廃坑に向かうまでの中間辺り、森に入ると赤い泥の沼があるんだ」

「グレルフロッグを倒すんですか?」


 また訓練かと思えば、違うらしい。訓練はするけど、あくまでついで(・・・)。本当の目的は大量発生と同時にやってくる、リムールバードという鳥の魔獣の群れだそうだ。


「リムールバードはとても綺麗な青い羽根を持つ鳥の魔獣でね、見た目と鳴き声が綺麗で、とても速く飛べるから人気のある魔獣なの。でも捕獲が困難で従魔にできる人が滅多に居ないから、見る機会は少ないわ。それが沼を埋め尽くすように集まるの。リョウマ君もこの機会に見ておくべきね。滞在するだけの価値はあるわ」


 魔獣も怖がられる魔獣ばかりじゃないんだな。……しかし、グレルフロッグを食べるって事は肉食の鳥か……肉を食べる鳥と言うと、ゴミ袋を漁るカラスしか思い浮かばない……しかし色からすると孔雀か? ……分からん、気になる。その鳥が来たら俺も見に行くか。


「見てみたいですね」

「でしたら我々と共に行かれればよろしいでしょう」

「では、大量発生した時には一緒に行かせて下さい」

「勿論ですわ! 絶対一緒に行きましょうね!」


 俺はお嬢様と約束をして、食後に部屋に戻った。


 就寝前にはスライムの分裂と従魔契約を行ったが、半分ほどで魔力切れになったので残りは明日に回す。魔力回復ポーションはまだ少しあるけど、勿体ないからな。

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本当に今更だけど主人公スライム増やし過ぎじゃない? そこまで増やし続けるメリットないよねって思う。 スライム500匹合体でビッグスライムになるし、それ以上は要らないかなぁって思うよ普通に。スティッキー…
[良い点] グレルフロッグ(ヤサ愚れ蛙)を捕食する、リムールバード [気になる点] 蛙が水属性で鳥が風属性 ある意味、宿命づけられた天敵 [一言] 進行諸島のスラバー◯゛と川上泰樹のリムルテンペス◯を…
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