終わる戦い、続く戦い
本日6話同時更新。
この話は6話目です。
何度か交代して休憩を取りつつ、傷ついた人は回復を受けながら戦闘を続け、倒したゴブリンの数が2000匹を超えたところでゴブリンが来なくなった。
回復魔法使いの人やヒールスライムの頑張りで冒険者側には怪我人らしい怪我人は居ないが、溝を隔てた前線はゴブリンの死体が足の踏み場もない程散乱している。
するとそこに空間魔法の転移で4人の男が現れた。レイピンさん、アサギさん、ゴードンさん、シェール君だ。魔法使いのレイピンさん以外は返り血まみれだな……
「皆の者、大丈夫であるか!?」
「すまん! 救援が遅れた、状況は?」
「大丈夫みてぇだな? ……ここもすげぇ死体の数だな」
「レイピンさん、アサギさん、ゴードンさん、シェール君、来てくれたんですね?」
「おお! リョウマは無事であったか!」
「お前も相当やったみたいだな? 返り血が酷いぜ」
「僕達も人のことは言えないけどね」
「確かに。しかし、この数は一体何なんですか? 2000以上来ましたよ? その様子だとそっちにもかなり居たみたいですし……」
「うむ、それは説明せねばなるまい」
「えっと、ここの責任者さん誰ですか? こっちの状況を聞かせてください」
「私です!」
そう言ってプロリアさんが4人に駆け寄ってここまでの状況を説明した。
「なるほど、そうだったのであるか」
「はい。リョウマ君とスライム達がいたので耐え凌げましたが、そうでなければ私達の隊は壊滅してました」
「これほどの数ではな……全員ほぼ無傷で生き残れたのは奇跡でござる」
「何はともあれ良かったね、皆無事で」
「あの、本隊の方はどうなったんですか?」
「とりあえず、事態は収束したのである。が…」
「死人こそ出てねぇが被害は大きいな。偵察では分からなかったが、当初の予想より遥かに大きな群れで、ゴブリンキングが居やがった。取り巻きのゴブリンナイトもわんさかいたぜ」
「ゴブリンキングが居たんですか!?」
プロリアさんの叫びに周りがざわめく。
「お前ら! ゴブリンキングはもう始末したから心配ねぇぜ!」
ゴードンさんの一言で皆が少し落ち着き、その直後歓声が上がった。それを横目にリーダー達の説明が続く。
「俺たちゃ廃坑の地図を参考にして作戦を立てたが、どうもあのゴブリン達が自分で坑道を掘って道と村を広げたみたいだ。偵察班が探査の魔法でも調べ切れなかった奥が、地図にない通路で少し離れた別の坑道にも繋がっていた」
「拙者達が襲撃したゴブリンの村だと思っていた物は全体のほんの一部。奴らは向こうの群れが大きくなり、巣穴から溢れただけだったのでござる。本当の村とボスは坑道の向こうで、それに気づいたのが襲撃を始めてしばらく経ってから。
それまでにまた別の通路から多くのゴブリンが逃げ出した結果、こちらに多くのゴブリンが雪崩込んだのでござる。こちらの不手際だ、申し訳ない」
「そうだったんですか……私達は誰も大きな怪我はせずに済んだので、特にここで言う事はありませんが……何故今までそれほどの規模の村がバレなかったのでしょうか?」
「おそらく坑道に巣食った他の魔獣を食べ、街の近くに来なかったために見つからずにあそこまでの群れになったと思われます。巣の中に大量のスモールラットやケイブバットの骨がありました。それにこの廃坑には去年から誰も近づいて無いそうなので……」
「役所の連中が管理を怠ったせいであるな。鉄が出ない以上、収入にならないこの坑道の管理費は単なる出費であろう。しかし……」
そう言ってレイピンさんは周囲を見渡しこう言った。
「本当に、これほどの群れを相手に、全員無事で良かったのである。ここに問題がない様なら、回復魔法を使える者を数人連れて行っても良いだろうか? 向こうの怪我人の治療を頼みたいのである」
「分かりました。魔力が残っていて、回復魔法を使える人は集まって下さい!」
プロリアさんの言葉に従い出てきたのは、俺を含めて4人だった。
「む……悪いが吾輩の空間魔法で連れて行けるのは3人が限界なのである。誰か1人、自力で来て貰わなければならないのだが……」
「それなら僕が残ります。最近僕も空間魔法を覚えましたから、すぐ追いつきます」
「それは良かったのである」
「あ、レイピンさん。荷物が少し増える位は大丈夫ですか?」
「あまり大きくない荷物なら平気である」
それを聞いた俺は2匹のヒールスライムを呼び寄せる。
「なら、このスライム2匹を連れて行って下さい。僕はまだ自分だけしか転移できないので」
「分かったのである。しかし何であるか? このスライムは」
「ヒールスライム、回復魔法を使えるスライムです」
「ほう! これがヒールスライムであるか! 吾輩、魔獣の研究を始めて長いが初めて見たのである。分かった、この2匹は吾輩が責任をもって連れて行くのである」
「よろしくお願いします」
「うむ。向こうで待っているぞ。『ワープ』」
そう言ってレイピンさんは俺以外の3人をつれて転移した。俺もプロリアさん達に挨拶をして転移する。
「プロリアさん、スライムは置いていきますので、よろしくお願いします。ほっといて大丈夫ですから」
「任せて下さい。そちらの方も、よろしくお願いします」
「はい。では……『テレポート』」
俺は下級の短距離転移を繰り返して人目につかない所に行き、中級の『ワープ』を使った。
転移した先では多くの人達が傷つき、手当を受けている。
「リョウマ! こっちである」
レイピンさんが居た。駆け寄ってヒールスライム2匹を受け取ると治療の責任者の下へ案内され、指示を受ける。
俺と2匹のヒールスライムはまず比較的軽傷者の治療にあたったが、彼らは意識がはっきりしており、治療の度にスライムが回復魔法を使っている事に驚かれた。
軽傷者の治療が終わると、休む間もなく今度は重傷者の治療の補佐に就けとの指示。
そろそろ魔力が心もとなくなってきたため、先日セルジュさんから貰った魔力回復ポーションを飲みつつ怪我人の治療に当たる。
命に関わる程の重傷者はほんの数人だが、その数人は出血が多く複数の回復魔法使いに中級回復魔法のハイヒールを何度もかけられている事で命を繋いでいた。俺達のヒールでは治療出来ない大きな怪我だが、一時凌ぎにはなるとの事で治療に参加。他の回復魔法使いの人にも手持ちの魔力回復ポーションを少し配る。
一分一秒でも早く血を止めなければならない。魔法を止めれば目の前の人間が死に近づく。
武器を振るう戦場に負けずとも劣らない忙しさだ。余計な事を考える暇がない。
「えっ!?」
黙々と治療を続けていると、突然俺が担当しているのとは別の怪我人を担当していた人達が驚きの声を上げた。
「どうした! 人手が足りないのか!?」
それを聞きつけた、俺と同じ怪我人を治療していた回復魔法使いの男性が叫ぶ。
「い、いえ! 問題ありません!」
「こっちの補佐をしてくれてるスライムが、突然ハイヒールを使い始めたので驚いただけです!」
はぁっ!? うちのヒールスライムが!? 俺のヒールスライムはヒールしか使えなかった筈じゃ無いか? 今までヒール以外使った事ないし……
返答を聞いた男性が、俺に目線でお前のスライムはハイヒールを使えるのか? と聞いてくる。俺はすぐに首を振り
「多分、今覚えたか使えるようになったんだと思います。今まで見たことありませんから」
「手が増える分にはありがたい!」
それだけでまた治療に戻る。それからまたしばらく後、さっき叫んだ人の患者とは別の患者を治療していたヒールスライムまでハイヒールを使い始めたらしい。予想外の成長ではあるが、それが功を奏した。
過程はともかく治療の能率が急上昇し、俺のアイテムボックスから吐き出した大量の魔力回復ポーションと合わせて、なんとか治療に成功。本格的に活動を再開するには時間が必要だが、とりあえず命の心配はいらないとの事だ。
治療が一段落してからヒールスライムのスキルを調べてみると、何時の間にか回復魔法スキルのレベルが3になっていた。ついでに俺も自分のステータスボードを見てみると、こちらも2に上がっている。
そんなことをしていると突然10人以上の人に囲まれ、滅茶苦茶お礼を言われた。俺達が治療した人の仲間だそうだ。彼らは俺とヒールスライムの治療と魔力回復ポーションの提供が無ければ仲間が死んでいたと泣きながら語る。
その対処に困っていると、ギルドマスターがやってきて俺に待ち伏せ部隊への伝令役を命じてその場から逃がしてくれた。伝令の内容は鉱山入口前への集合だ。
感謝します! 心の中でギルドマスターに礼を言い、急いで待ち伏せ場所に戻った。
鉱山入口前へ冒険者が集合する中
「お疲れさん、今日は予想外の大仕事になったが、その分報酬は弾むぞ!」
ギルドマスターが現れると同時にそう宣言して歓声が巻き起こる。
「今回は全員少なくとも大銀貨1枚は支払われる事になる!」
その言葉で更に歓声が上がる。特にF,Gランクの冒険者の声が凄い。大銀貨1枚と言えば5000スート、50日分の生活費に相当する。ここまでの高額報酬は初めてなんだろうな。
「文句のある奴は居ねぇな? よし! まだ日は高いが、今日はゴブリンの死体の後始末をして仕事終わりだ!」
そこでギルドマスターは思い出したように俺を見て言う。
「そうだ、リョウマ!」
「何ですか?」
「お前さん、魔獣の死体を買い取る事になってるが、ゴブリンはタダで持っていけ」
「頂けるならありがたいですが、タダで貰って良いんですか?」
「ゴブリンに売れる部位なんかねぇからな。皆も良いだろ?」
周囲の冒険者達は俺が魔獣を買い取っていると知らずに驚いている人も大勢いたが、それだけで反対は誰からも出なかった。中には手間が省けて良い、なんて言う人も居た。本来の処理方法は焼却処分だそうで、火属性の魔法使いは魔力切れが近いにも拘らず魔法を要求されるのが辛くて嫌だったとか。
「それでは有り難く頂きます。スライム達への報酬に、お腹いっぱい食べさせてあげますよ」
だが貰いっぱなしも悪い、後で希望者にはクリーナースライム浴をサービスしよう。
冒険者が各自持ち場に戻り、俺も待ち伏せをしていた場所に戻った。
酸を吸収させたアシッドスライムを回収し、残った穴にゴブリンの死体を放り込んで、後はスティッキーとポイズンを溝の中に入れ、好きなように食べさせておく。こうすればポイズンは毒に侵されたゴブリンを判別して食べ、スティッキーはそれ以外を食べる。
スカベンジャーには地面に残った血や肉片を食べてもらおうと指示を出したが、食べ終えた場から血の跡一つ無くなっていく。
これ、犯罪の証拠隠滅に使ったら最強なんじゃないか……? 悪人の手には渡したくないな。まぁ誰にも渡すつもりは無いけど。
さて、もう一働きだ。
スライムにゴブリンを食べさせている間に、まず作業を共にしたE,F,Gランクの皆さんにクリーナースライムの能力を教えて自分で試してみせる。すると俺の体、装備、服についた汚れと臭いが消えた事で希望者が殺到。というか全員やって欲しいと言って来た。
俺は11匹のクリーナースライムで全員の汚れを落とした後、溝の中のスライム達の食事が終わるのを待ち、次は本隊の担当場所、ゴブリンの巣に向かう。
そこでも同じように数箇所に纏められたゴブリンの死体の処理と死体を運んでくれた人達を装備ごときれいにする。スカベンジャーにはまた地面やゴブリンの巣の中の汚れを食べさせた。
さっきもそうだったが、ゴブリンの血や体液、そして匂いは非常に落ちにくいため、クリーナースライム浴は物凄く評判がよかった。
処理が終わると即解散となり、冒険者達は乗合馬車に乗って帰っていく。
それを俺はじっと眺めつつ、少し離れた位置でスライム達と共に休む。
今日のゴブリンをスライムに食べさせた事で、ポイズンスライム・アシッドスライム・クリーナースライムの分裂が出来るようになった。しかし従魔契約のための魔力がないので魔力の回復待ち。
少しでも早く回復するよう、我先にと乗合馬車には乗らず、最後の馬車でのんびりと帰るつもりだ。
治療に加わってからは飛ぶように時間が流れた気分……流石に少し疲れた……




