集団戦闘
本日6話同時更新。
この話は5話目です。
ベック達6人と和解? して、汲み取り槽のことをできるだけ他にも周知させるよう頼んでから数十分後、作戦開始の時間になった。
「総員配置につきましたね? 早ければすぐにでも敵が来ます! 気をつけて下さい!」
プロリアさんの言葉に皆が気合を入れ、周囲に緊張感が漂う。
俺も弓を持って警戒し、10分ほどで最初のゴブリン達が姿を現す。
「来たぞ! 前から3匹! 後からまだ続いて来てる!」
『オー!!!』
高い木に登っていたベックが最初の発見報告をすると、周囲から声が上がった。ゴブリンも俺たちに気づいたようだが、ゴブリンは一直線に突撃してくる。ゴブリンはそもそも、あまり頭がよくない。
最初の3匹のうち1匹は溝に気づかず自分から落ちた。2匹目は溝に気付いて踏み止まったが鎌付きの棒で冒険者に引き落とされ、3匹目は溝を飛び越えようとして距離が足りずに溝へ落ちる。
ゴブリンたちの苦しむ声は数秒でアシッドスライムによって静まり、その後も次々とやってくる大勢のゴブリンが同じ末路を辿った。
たまに近づかず弓を構えるゴブリンアーチャーや、魔法を使うゴブリンメイジと呼ばれる個体も交ざっているが、それらも冒険者の矢や魔法で問題なく処理されていく。
ちなみにこちらが使っている矢は全てポイズンスライムに毒を塗らせた毒矢。軽い怪我でもすぐに敵の動きが止まるため、まだ弓と魔法では一切の被害が出ていない。
アーチャーは弓を持っているので一目で、ゴブリンメイジは魔力感知スキルがあると判別が容易い上に、ゴブリンは弓や魔法を使えても得意という訳ではないのか動作が遅い。魔法なら魔力を感知してから発動前までに射抜く事ができる。
状況はこちらが優勢だ。しかし予定より数が多い。
今のところ怪我人はほとんど出ていないが……今まで見たことない数だ。もうすぐ倒したゴブリンは巣に居るとされた500を超える。本隊で何かあったのだろうか?
徐々にアシッドスライムの消化も間に合わなくなってきて、僅かにゴブリンの死体が溝に溜まり始めている。まだそれほど緊急じゃないが、このままだとヤバイな……
周りの冒険者も戸惑い始めている。
「何かおかしくないっすか!?」
「確かに、数が多すぎます」
「このままだと矢が尽きます!」
「こっちは矢がもう少しかありません!」
「そこ! 矢を無駄撃ちするな!」
「はぁ……はぁ……なんでこんなにゴブリンが……いつまで来るんだ!!」
ゴブリンは人間の子供くらいの背丈で力も弱いが、武器を使う程度の知能がある。そして何と言っても繁殖が早く数が多い。弱いからと侮っていると、あっという間に食われかねない。
奴らは動物の肉も人肉も構わず食べるのだ。人に近い姿でも、仲良くはできそうにない。
技が拙くても刃物を持っていれば振り回されるだけで危ないし、それが何匹も居たらある程度の実力がなければ1人で相手は出来ない。会議で聞いた話ではこちらも数だけで言えば100人以上居るんだが、その半分以上がF,Gランク。彼らはゴブリンと戦えても一対一でなんとか、といったところ。流石にその程度の実力では乱戦になる前線には出せない。
よって必然的に前線を受け持つのはEランクの冒険者のみ。これでは数が足りない。そもそもEランクもまだまだ新米レベルで、訓練を受けてようやくある程度実力を付けてきたくらい。
更に言えば、Eランクの全員が接近戦が出来る訳でもない。魔法や弓を使う人もいるし、回復魔法専門だという人もいる。その結果接近戦をする人数はたったの28人。最初から前線を維持している彼らには、既に疲労の色が見えていた。何人かは数回怪我をしては回復魔法を受けた後、即戦線に戻っているくらいだ。このままではやがて限界がくるのは明白。
逃げてくるゴブリンを多く見積もっても対処可能と思われていたが、想定より数が多過ぎた。ゴブリンが一固まりになって雪崩込んでくる訳ではないのが幸いして、何とか対処できているが……マズイな……いよいよ前衛の皆さんの体力がヤバそうだ。
「プロリアさん、僕と僕のスライムを前線に出しませんか? 長期戦になりそうですし、その間に前衛の休憩だけでも」
「リョウマ君……ギルドマスターはE以上……そうね、お願いできますか? 無理はせず、少しでも多く時間を稼いでください」
指揮を執っていたリーダーに持ち場の変更を提案すると、数秒で答えが返ってきた。
「了解」
「両サイドの前衛の皆さん! リョウマ君とスライムが前衛に加わります! 交代で少しでも休息をとって下さい!」
後方で待機していたスティッキースライム・ポイズンスライム・スカベンジャースライムの全てに呼びかけ、両サイドからゴブリンの居る前線に送り込む。そして俺自身も高台から飛び降り、溝を飛び越えて対岸に飛び移ると同時に、スライムにこう指示を出す。
ゴブリンを相手に、今日までの鍛錬の成果を最大限出し切れ!
その瞬間、全てのスライムがブルブルと震えてやる気を表した。各自体の一部を触手状にしてゴブリンに向かっていく。
スティッキースライムはどこかのゴブリンが持っていた棒を拾って器用に操り、ゴブリンを殴り、転ばせ、粘着液で動きを止める。
ポイズンスライムはゴブリンの武器だった粗末な槍を拾い、毒液を穂先に吐きかけてゴブリンを突く。
スカベンジャースライムはゴブリンの足元に滑り込み足に触手を絡める。あるいはあえて踏まれてから体を動かすことで足元をすくい、転んだゴブリンの顔を覆う。
純粋な力は弱いため殴り殺すような事は出来ていないが、1対1で立ち合っても殺されず、複数で襲いかかりそれぞれの方法でゴブリンの息の根を止めていくスライム達。
特にポイズンスライムは毒そのものが強力な武器であり、更に戦果が挙がっている。
心配はなさそうだ。
それを横目に腰に付けた2本の短剣を抜く。
獲物と見られているんだろう。向かってくるゴブリンの懐に飛び込み心臓を一突き。
短剣を引き抜いて、すれ違いざまに別の個体の頚動脈を切る。
「グギィ!?」
「ゴガッ!」
「グェエ!!」
剣を上に掲げた隙だらけの構えで襲ってきたゴブリン。手首を切ると同時に蹴り倒し、後はスライムに任せよう。
「ギィイイイ!!!」
後ろから来たゴブリンの槍を躱して背後を取る。そして延髄に短剣を突き立ててやると、糸が切れたように倒れこむ。
ゴブリンは人間に近い姿をしているのが特徴の一つだが、それは外側だけでなく体の内側も。人間よりもしぶといが、正確に人体の急所を突けば一撃で仕留める事も可能であり、手首や頚動脈を切れば出血で戦闘は出来なくなる。
少なくとも今まで俺が戦ったゴブリンは、頚動脈や手首を切れば出血で戦えなくなってじきに息を引き取っていった。今もそうだ。とりあえずこれまで通りの対処で問題ないだろう。
仕留める毎に血飛沫が舞い、ゴブリンの悲鳴が聞こえるけれど、気にとめず只管やってくるゴブリンを始末し続ける。
しかし、本当に次から次へと来るな。どこにこんな数が居たんだろう?
まだまだどんどんゴブリンが来ているが、戦力的には拮抗している。数ではこちらの方が優っているために少々余裕も出来たので、俺は戦っていないスライムに折れていない矢を集めさせるように指示を出した。
前衛の人達の話し声が聞こえてくるので、彼らもちゃんと休憩を取れる状態であるようだ。
「ちょっと……はぁ……何なのあの子……強すぎるでしょ……私達……苦労したのに……」
「助かった……」
「とりあえず、一時的にはあの子に任せられそうだな……彼が時間を稼いでいる間に少しでも休息を取るぞ!! そして交代だ!!」
「「「「「「「おう!!」」」」」」」
「あれ、本当にスライム?」
「あのスライム達、槍の使い方上手だね。私より上手かも……」
「上手……というか、何でスライムが武器使ってんだよ!?」
「色々おかしいが、助かった……ん? 矢?」
「!? 弓部隊! スライムが矢を集めて来たぞ! ちょっとお前そこどけ! スライムを通してやれ!」
やはり武器を使うスライムは珍しいか……というか、そんな事を気に出来るという事は意外と余裕あるのか?
そんな事を考えていると再び魔力を感じた。またゴブリンメイジか!
俺は右手の短剣を鞘に戻し、代わりに投擲用のナイフを取り出して投げて仕留める。
俺達はそうして他の人達の体力が回復するまで戦い続けた。




